ロートル作家は深夜遅くにちょっとした演出をする 2
ナガラが何やら細かい演出をしようとしてコケたようです。
ロートル作家は深夜遅くにちょっとした演出をする 2
パチン……。
指の鳴る音が部屋中に響く。
俺の隣をライトアップするように光が照らしていく。
「「え??」」
「お、何が始まるんだ?」
「ふん! こけおどしか何かか」
光がくるくると回るように集まっていく。
「さぁ、これから世話になったみんなにたった一夜だけだが、ちょっとした願いをかなえてあげようと思う。願いを一つでいい、心の中に思い浮かべてほしい。後悔無念、謝罪……いろいろあるだろ? さぁ一つだけだからね? 願いを浮かべてみてくれ」
「ナガラくん、願いというのはアレかい? 具体的にいったら、誰かに会いたいとかでもいいのかい? それもなくな……」
「おっと、ヒトシさん、それ以上は、なしだ。そう思うならそう願えばいい。俺はそういったぜ? ハジメさん? 素直になりなよ? これは千載一遇のチャンスだからね?」
口調を変えた俺の雰囲気に、ヒトシは驚き少し固まり口を閉ざす。ハジメは少しイラっとした顔でこちらを見る。マーガレットたちは光や雰囲気に押されるように目を瞑り、両手を組んで祈っているようだ。
やがて光はゆっくりと集まりだし、人の形を作っていく。
「我は女神の使い、信託を受けし者。汝らの願いを叶えよう」
恭しく重々しく少しねっとりとした感じの演技を混ぜて、俺は言葉を紡ぐ。
昔書いていたファンタジーものを少し思い出す。そこに出てきた御使いがこんな喋り口調だったな。
全員が目を瞑り祈るようにしている中、一人だけ言うことを聞かないのがいた、
ハジメだ。そしてハジメは光が集まり人の形になった時、目を大きく開き、それを見つめて言葉を漏らした。
「ヨシノ……だと……」
困ったおっさんだ……。まぁいいか、ヨシノも嬉しそうだし、お互いが目から大粒の涙をこぼしている。おっさんの泣き顔は汚いが、悪いものでもない。
「ふん……約束の守れないおっさんだな……」
「知るか! なんじゃこれは……夢か? いやがらせか? しかもなぜ子供の姿なんじゃ?」
ハジメは興奮気味に椅子から立ちゆっくりとヨシノのほうに向かっていく。
それを見て泣きながらヨシノはそこで待っている。
「こらこら……折角人が感動演出を仕掛けてやっているのに、ちっとおちつけよ」
「ん? ヨシノ? お母さん? え?」
マーガレットは律儀に目を瞑り、困惑しているようだ。
「あぁ……もういいや、全員目を開けていいよ」
俺は少し諦めたように全員に目を開けるように言う。そこからしばらくパニックが起きていたが、もういい、知らん。ヒトシは固まったまま動けなくなり、ユキはハジメの後にヨシノの側に行き手を握って礼を言う。子供の姿である意味を説明し、何とか納得してもらう。幻影でもなんでもなく一晩限りの女神の奇跡だと伝える。
もうなにがなにやら演出もパーになるほどのひっちゃかめっちゃか状態だ。
「ナガラ…くん? これは?」
「ヒトシさん反応遅いなぁ……ヨシノさんだよ。あんたちゃんと言えてないだろ?
ヨシノさん本人もそのあたり後悔していたよ? ちゃんといいなよ」
しかしだの、なんだのうるさかったので、少し強めに前に押してやった。軽くすっ飛びながらハジメにぶつかる。
「なんじゃ! お前は!」
「あ゛?! うるさいは馬鹿ハジメ!」
「なんじゃと?! ひとが最愛の妻(幼い姿)と奇跡の再会を果たしているのに、無粋極まりないじゃろが!」
「うっさいは! 俺だって最愛だった人との再会だ、邪魔するなよ」
ユキとヨシノそれを見て苦笑する。
「なんかごめんね、ユキちゃん」
「いえいえ、ヨシノさんじゃ仕方ないですよ。本当うちの亭主様にも困ったものです」
妻二人はどうしようもなく子供に戻っている二人を仕方ないと、優しく微笑んでみている。
「ふん! まぁよいわ! ほれ、何か用があったんじゃろ? さっさとすませろ、そしてこの奇跡の時間をさっさとこっちへよこせ」
「なんだかな……こいつは……」
いがみ合い取っ組み合い子供のころのようなじゃれあいをしながら、ヒトシはヨシノに向かい合うように立った。
「ヨシノ! すまなかった! 君の最後の時も、君たちの結婚式の時も、君の葬式の時も、俺は顔を出せなかった。いや出さなかった……。なんかどうにも整理がつかなくって、本当私も大概馬鹿だったよ。本当ごめん!」
思いっきり床にぶつけるんじゃないか? くらいの深さでヒトシは謝っていた。このことがしこりになって、後々二つの街はいがみ合うことになったのだ。そりゃぁ根も深かったのだろう。泣くでもなくヒトシはただただ謝罪をしていた。
「ははは、相変わらずヒトシは真面目だね……。いいよいいよ、わかっているし見ていたし、困った顔をして、僕の葬式のあとこっそり、僕の好きだった花の束を屋敷の前に置いて行ったでしょ? もう僕は声もかけられなかったし、何もできなかったけど、ちゃんと見てたからさ。気にしないでよそんなに。わかってるからさ」
「そうか……よかった……」
ヨシノはうんうんと頷き、ヒトシのあたまをぽんぽんと軽くなでるように叩く。それと同時にヒトシは一言二言出すのが精一杯になり、苦しさから解放されたのか涙を流している。
自己満足なんだろうなぁ…でも俺はその光景を見て、何となく嫌な気がしなかった。お節介以外の何物でもないだろう。でも悪くはない……悪くはないな。
いつもご覧になって頂き、誠にありがとうございます。
『ロートル作家とおとぎの異世界』106話になります。
なかなか早く書けなくて申し訳ありません。
まだしばらくはこんな感じになると思いますが、よろしくお願いいたします。
この先が気になる、作者生きろ!等ありましたら、
是非この下の評価と感想欄に一言お願いいたします。
では、また次回で……。
米




