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ロートル作家は戦闘中 8

さぁ、暑さに負けそうでしたがなんとか更新です。

 ロートル作家は戦闘中 8





「さぁ、あとは残り一個ですね」

「えぇ、ユキさんいよいよクライマックスっていう感じですね」


 解説と進行役の二人も随分と盛り上がっているようだ。

 ユキとしては、後ろで腕を組んで苦笑しているだけになっているヒトシについては残念に思っている。本来であれば息子である松に立ちはだかるのは自分の役でありたかっただろうと。この一週間の間、感の取戻しと作戦会議などを行ってきたが、ハジメは一番最初に頭を下げて、昔の自分のやり方を通させてくれと言ってきていた。ヒトシは非効率で無駄が多い、勝ち負けを考えるなら推奨できないことを何度も言っていた。それでも頼むと珍しく頭を下げてきたハジメに仕方なく折れた感じだ。なぜ折れたの?とユキが聞いたときヒトシは苦笑しながら言っていた。


「仕方ないだろう? 自分の娘の夫になるという男としっかり向き合いたいからだとか言われたらさ。本当あいつは昔から勝手な奴だよ」


 頭の後ろを書きながら、ヒトシは対松戦と書かれた、紙片を丸めて捨てている。ユキはその姿を見て、納得しながら、相変わらず優しい人だなと目を細めていた。



 ※



 今、ハジメは楽しそうに笑っている。自分の娘を嫁にもらいたいという、将来の義理の息子と本気で組み合っていながら笑っている。子供の頃を、大人になりかけていたころを思い出して笑っている。自分の娘をヨシノの面影をどこか持っている、マーガレットの成長していく様を思い出しながら笑っている。楽しく、そして寂しい思いを感じつつ、目の前の敵の小癪な戦い方に心から賞賛を送りながら笑っている。揺らされるたびに、泥で足を取らされそうになるたびに、笑っている。


 この男は思ったよりもしっかりとしている、あの作戦バカの息子にしておくには本当惜しい奴だ。こいつならヨシノも文句は言いまい。うちの娘も妻に負けず劣らず、良い目をしている。ん? これではまるで自画自賛だな。あいつがいたらこの戦いも対話も全部が違った結果だったかもしれないな。少し意識がよそに行きそうになった時、目の前の男が悪態をついてくる。


「お義父さん! そろそろ倒れてくれません、か・ね!! よいしょうっ!」

「ふん!! ふざけるな小僧!!」

「だから小僧ではなく! ま・つ! ですってば!」

「そうか小僧!」


 頑なに松の名前を呼ばない、それは嫁になるものの父親としての最後の防御壁みたいなものだろうか。


 ヨシノ……俺はちゃんと父親に慣れているだろうか。たまたまだった、ふとなにか急ぎ目にふわっと動く、人影が目に入った。


<<ヨシノ! だと?!>>


「お義父さん!理由は知りませんが意識がお散歩していますよ!」

「ぬお! しまった!!!」


 少しだけだった、少しだけ力が抜けて、体が固まった。だからだったのだろうか、松以外のもう一つの影がいつの間にか近づいていたのに気が付かなかったのは、バランスを崩して沼に膝をつかされた姿になったとき、影はすぐそばにいた。


<パン!>


 ハジメの最後の風船花が割れた音がした。


「くっ!」

「パパ! 私たちの勝ちよ!」

「な! マーガレットだと!!」


 そこにはハジメの最後の風船花を割り喜色満面の顔を浮かべる、自分の娘の姿があった。


 実はマーガレットは作戦会議をしているときにナガラに言われていた。戦いの終盤について。

 松が自分の父親を抑えて、動きを集中させるようになったら、少しずつ前に出て来いと。後はタイミングを見計らって、残り一つになったら狙いに行けと。

 なので言われていた通り、そっと静かに近づいていたのだった、なるべく父親から意識を向けられないように。それを見ながら松は頃合いを見計ってハジメを煽っていたのだ。


「ふっ、そうか……成長しているのだな」

「ん? よくわからないけどこれで私たちの勝ち! いいわよねパパ?」

「あぁ……構わんよマーガレット。認めよう。お前もな松!」


 ハジメは苦笑しつつ、嬉しそうにも寂しそうにも見える表情をしながら、娘と将来の義理の息子に笑いかけた。


 ※


「あらぁ……負けちゃったのね……」


 ナガラ陣営の控えている場所へ向かおうと戦いを見つつ、移動をしていた少女は少し残念そうにつぶやいた。


「やっぱ年には勝てないのかしら?」


 んーと首を少し傾げる。まぁ後で本人に聞いてみようと思い、今は女神さまから頼まれたお使いを済ませることに気持ち切り替えることにする。でもちょっとなんか嬉しい。あの子が、しかもヒトシの息子といい仲になっているとか……。あとで馴れ初めとか本当に聞きたい。


「あ、いたいた、ヒーローさん発見!」


 少女は結構広めの戦いの場所で疲れたように座っている、この戦いの影のヒーローである少年の側へと向かっていった。


 ※


 俺は苦笑していた。ハジメの潔さや、ヒトシが結局動かなかったことや、感極まって泣きながら走り回っている三人組の姿や、それを見て、絶叫をしている進行役と解説のユキを見て。


「この世界って結構面白いのな」


 ぼそっとつぶやいてしまう。大きな音や声に消されて俺のつぶやきは誰にも聞こえなかったようだ。


「なんかうるさいな」


 何だか自己主張をしているステータス画面がうるさい。


 先ほど、戦いが終わってからずっとひっきりなしに、電子音とファンファーレが鳴り響いている。おそらく電子音はメッセージで、ファンファーレは言うまでもなく、この町の全ての困った顔が無くなったことを伝えているのだろう。


 前の時にはなかった演出なので、女神様(謎)がまた何か追加したのだろう。やれやれ困った女神様(謎)だな……。


「ん?」


 画面をボーとみていると、さっき一瞬感じた異様な空間の歪の発生のようなものを感じる。一瞬身構える、と同時に最新のメッセージが届いたことを知らてくる。悪いものではないらしい。仕方ないので最新のだけ見てみる。って何通送ってるんだよあの女神様(おや? 仲間になりたそうにこっちを見ている……)は。


『もう! ちゃんとメッセージ読んでます? 仕方ないからお使いを頼みました。詳しいことはお使いの子に聞いてください。 あなたの女神様より』


 相変わらずで安心する。だが、妙なことも書いてある。お使いとは何ぞや? そんなものがいるとは聞いたことがない。まだ、が付くのだけどな。なのでなんとなくその微妙な空間の歪みのあるうちにつぶやいてみた。


「ん? お使い??」


 まぁ返答なんかあるわけがないよな。


「そうですよ~ボクがお使いですよ」


 一拍おいて声が聞こえる。それも真後ろから息のかかるレベルで。


「!?」


 声に思わず慌てて本気で後ろに飛びのく。


「あはは、酷いな~こんな美少女を見て急に逃げないでよ」


 そこにはニコッと人懐っこい顔で笑う、どこかで見たことのある子供がいた。


「いやだよ~そんな怖い顔しないでよ~……女神様のお使いだってば」

「マジ?」

「うん、マジ」

「僕の名前はヨシノ・ハナ。女神様のお使いで、君が手助けしてくれたマーガレットの母親だよ。姿はこんなだけどね」

「えぇええ!!」


 えへっと音符でも付きそうに舌を出して笑うヨシノ。


 ヨシノが言うには、今は女神さまの力で時間が止まっているということ。

 自分は期限付きでこの世界に戻してもらっていて、昔の子供のころの姿なのはハジメやヒトシを驚かせたかったから。無理を言ってお願いをしたこと。


 ぶっちゃけお使いといっても大したものではなく、全くメッセージを読まないでいる、ナガラに一言モノ申してほしいからであること。あと、そろそろこの町を出てほしいということ。等もあったことを知る。


「そうか、時間止まっているのか……神様みたいだな本当」

「あぁ、うん女神様だって言ってたよ」


 本人が聞いていたら失礼な! と怒りそうな会話が平気でされている。


「時間はいつまで止まっているんだ?」

「この話が終わったら解除かな~。そのあとはボクは自由時間になるんだ」

「そうか……なんか女神様が面倒を押し付けているようで悪いな」

「ははは、なんか殊勝な感じだね、女神さまに聞いていたのとはだいぶ違うみたいだけどね」

「あの女神は何を言っていたんだ……まぁいいか。ちょうど今全部ミッションをクリアしたようだから、あと数日もしたらこの町からも離れるからさ、まぁ大丈夫だと思うよ」

「そうか~ならお使いを終了かな?」

「あぁ、だな」


 俺とヨシノが話を終えると、少しずつ世界の違和感が解消されていくのが分かってきた。あの女神何考えているんだかな。完全に時間が戻って当たりの喧騒や、松とマーガレットがこっちに向かっているのが見える。


「あ、時間戻ったね。ボクはあの二人に合うわけにはいかないんだ。だからまたね。あ、祝勝会にはあとこっそり紛れ込むから~おいしいもの食べたいし」

「ははは、ヨシノって書いておけばいいのか?」

「あ、それ面白いね!それでよろしくね!あ、ヒーロー君」

「ん?俺の名前はナガラだよ」

「ははは、ナガラくん、本当にありがとうね!」

「気にしないでいいさ、たまたま縁があっただけだからさ」


 そういうとヨシノはまた人ごみのほうに入って姿が見えなくなった。

 マーガレットと松がようやく近くまで来た。


「あれ? なんかさっきそこに誰かいなかった?」

「ん? あぁマーガレットのファンみたいだったな」

「えぇ!! 本当に?」

「あぁ、本当だよ(母親だからなファンだろう)」

「そうか~えへへ~」


 俺はなんか変に顔を抑えて身をよじるマーガレットに苦笑する。松はそんなマーガレットを見ながら俺の手を握り(泥まみれ)振りながら(あっちこっちに跳ねる泥)


「ナガラ!! 俺やったよ!! やった!!」

「あぁ、見てたよ。やったな! あぁよくやったな!」

「ありがとう!」

「あぁ、気にするな。だが泥まみれは気にしてくれると嬉しいな」


 俺の泥まみれについて気付いたのか、松が慌てて離れる。だがもう遅い。

 とはいえ、あんまりいうのも無粋だからやめておく。


「まぁいいさ、あとで風呂でも入ればいいさ」

「「「勝ったー!!!」」」


 三人組もそろって勝利を喜び合う。とりあえず何とかなったなぁ……。だいぶ目立ってしまったが、まぁ何とかなるだろう。


「なんかあれだぞ、祝勝会とかあるらしいぞ? 最後に真ん中で集まって礼もしないといけないし、ほら行くぞ!」


「「「「「はい!」」」」」


 俺を除く五人が元気よく返事をする。太陽はいつの間にか少し傾いていて、夕焼け空になっていた。終わったなぁ、この後は後始末と祝勝会だな。

 五人に少し遅れて俺も最後の挨拶の為に、戦場の真中へと向かっていった。



いつもご覧になって頂き、誠にありがとうございます。

『ロートル作家とおとぎの異世界』101話。

ハナとウエキの町、親子の戦いも終わりを迎えました。

このあと、少し書いて、休憩をいただきつつ、いい加減キャラ設定とか入れないとなとか、

考えてます。


では、また次回で。




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