表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

青春パレット

くろっく

作者: イルミネ

『きみが好き』


この言葉を口に出せたら、どれほど楽になるのだろうか。


ああ、そうか。恋い焦がれるってこういうことか。


¢¢¢


(あ!先輩だ!)

昼休みの中庭に、ベンチで佇む先輩を見つけた。

私より一つ年上の先輩。

中学の頃から、ずっと片想い中だ。


先輩のまわりには、いつも人がいた。

今だって、大きな桜の樹に隠れてはいるが、誰かと話しているようだ。


(彼女…いるのかな。先輩、かっこいいもんね…。)


その答えは見つけられないまま、時間だけが過ぎていった。


(伝えなきゃ、伝わらないよね。)


そんな決意が芽生えたころ、まだ桜は散っていなかった。


直接伝えることも考えたが、距離が出来てしまうかもしれないのが嫌で、手紙で伝えることにした。


書き溜めて、伝えられなかった言葉のノート。

恥ずかしくて、言えなかった衝動。

はち切れそうなほど、想い募った感情。


何度も何度も書き直して、やっと書き上げたこの手紙。

『あなたが大好きです』


(ちゃんと、伝えます…!)


¢¢¢


(ちゃんと、伝えます)

あの日の決意はどこへやら。

渡す直前になって、逃げ出してしまった。


彼女が居たのだ。


(そう…だよね…。先輩、かっこいいもんね…)


そう頭ではわかっていたのに、気持ちが、心が追い付いてこない。理性に抑えつけられて、感情に焦らされて、心に惑わされている。


諦めなきゃ、でも...諦めたくない


ああ、そうか。恋い焦がれるってこういうことか。


片想いは楽しいって聞いたことがあるけど、そんなの嘘だった。

焦がれて、拗らせて。先輩を想うだけで胸が苦しくなる。いつまでも諦められない自分に胸が締め付けられる。



別に、付き合いたいとか、キスをしたいとか、その先に行きたいとか、そういうことじゃない。先輩には彼女もいる。


(でも、伝えたい。ちゃんと、この気持ちを…!)


そう思った。


季節は次々に進んでいって、先輩も自分も学年が一つ上がった。先輩は「受験生」になっていた。

伝えるチャンスは、もう今しかない。

思いきって、はじめの一歩を踏み出した。

口から心臓が飛び出そうだ。

先輩の背中に、一歩ずつ近づいていく。


ふと、先輩の笑顔が見えた。

満面の笑み。隣には彼女もいた。


(ああ…。これは、この彼女ひとには勝てないな…。)


静かにその場を後にした。


¢¢¢


たった一年の差なんて、すぐに取り返せると思っていた。


でも、私が中二の時、先輩は中三で、

私が中三の時には、先輩は高校に入って、彼女とも出逢っていたのだろう。

私が高校に入った時には、先輩にはすでに好きな人がいた。


私では、彼女あのひとには勝てなかった。


あと一年、私が早く出逢っていたら。

先輩あなたの隣にいられたのかな。

先輩あなたと普通に話せたのかな。


(なんて…、そうじゃないよね)


「先輩、お幸せに」


先輩に聞こえないように呟いて、ゆっくりと踵を返した。


告白できた訳じゃないけど、不思議と清々しい気分だった。

これで前を向けると、そう思えた。


未練がないと言えば嘘になる。が、今はこれで良かったんだ。


泣き出しそうな気持ちを抑えて、もう一度呟いた。


「お幸せに」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  たった一つ、されど一つなのかもしれません。三年間しかない学生生活において、一年は三分の一を占めるので小さくはないと思います。
2017/05/11 08:56 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ