ロリ男と焼き鳥
誇らしく右手を上げ、ガッツポーズで懐かしの我が町! 赤羽の地面を踏むマサルさんですが。
右手を見ると何か掴んでいますね? 異世界にいたカブト虫のつのによく似ているいるようですが? マサルさんがゆっくりと後ろを見ると。
でかいカブト虫の姿が見えた…………
異世界からこちらの世界に帰る時に、確かにそばにカブト虫の姿はあった…………
帰還できるという興奮状態にあった為に、ガッツポーズをする時に偶然つのを掴んでこちらの世界に連れて来てしまったようだ。
「オイオイどうすんだよ! とりあえずアレだ! お前は異世界に帰れ…………」
祠にカブト虫を押し返すマサルさんだが、カブト虫はガンとして動かない、そのうちマサルさんをスルーして勝手に歩き始めた。
「ダメ! ハウス! 戻れ!」
カブト虫は羽をブワッと広げた…………
「おい! 飛ぶのか? 飛ぶ気だろお前!」
カブト虫はブブブブブブブッっと飛び立ち、夜の闇の中に消えて行った…………
マサルさんは知らないぞ………… そう小声でつぶやきながら自宅マンションのある方へ足を向け歩きだした。
以前なら、この区画は本能に訴えかけるような不気味さがあったが、異世界から帰って来た今はそれ程でもない。
このままこの区画を抜け飲み屋街を抜ける方が自宅に近いのでそのまま歩き続けたマサルさん。
飲み屋街のネオンが見えてきた頃、ネズミのように前歯が出た男が声をかけてきた。
「よお! マサルちゃん どうしたその顔は?」
「まあ色々あったんだよ」
「そうか色々あったのか~ まあ人生そんな物だよ」
ネズミのような前歯をした男が、心配そうな目つきでマサルさんのボコボコな顔を見ながら、訳知り顔でウンウンとうなづいている。
全裸の方は気にもしないが赤羽の住人らしい対応ではある。
この男はキャバクラの呼び込みをしている男でネズミさん、誰も本名を知らないが情報通でこの街におこった事は大抵知っている。
「ネズミさんタバコある?」
「この銘柄でいいかい?」
「ああ吸えれば何でもいいよ」
マサルさんが、タバコを要求すると口に咥えさせてくれ、火を付けてくれた。
「フー サンキュ! ネズミさん、でかいカブト虫を見なかった?」
「あー! 見た、見たよマサルちゃん! 中華屋の親父が肉包丁を持って追いかけて行ったよ」
「捕まえて食うのかな? ネズミさん」
「あの国の人は何でも食べるからねぇ~ 食べるんじゃないかな?」
捕まってなければいいなとマサルさんは思う、別に人を襲う感じには見えなかったし逃げ延びて、たくましく生きていって欲しいものだが。
その後、ネズミさんと少し世間話をして、帰路をブラブラ歩いていたら、立ち飲み屋から出てきた若い男の二人連れがマサルさんを見て騒いでる。
「あの~ ターミ〇ーターすか? 未来から来たんですよね? プププ…………」
「ああそうだ! アイルビーでバックな感じだから、あっち行けうざったい」
マサルさんは、全裸でも別に未来から来た訳ではない。
ただ服を着てないだけである、男の一人がスマホを取り出しマサルを撮影しようとしているのが見えた。
「オイオイ! 撮影は困るよ? 事務所を通してくれないと、最近は権利関係とかウルサイからな」
メンドクサイ酔っ払いだなと感じつつも、やんわりとスマホを手で押しのけるのだが、
連れの男が口を開いた。
「写メって拡散もいいけど、まずは変態がいるんだから通報でしょ!」
このアホ達は、何て物騒な事を言い出すんだ!?
こいつらひょっとして観光客か? そもそも、全裸程度でこの街の住人はそんな程度では気にもしないし事件性がなければ通報もしない住民性がある土地柄なのだ。
最近はテレビで下町特集とかでよく赤羽の飲み屋街を撮影して放映しているために、この雑多な感じの飲み屋街が人気で勘違いした人が観光気分で訪れるのだ。
通報はメンドイなと考えつつ、通報しようとしている男のスマホを取り上げようとしていたら、大柄な男が二人の若者のスマホを取り上げて電源を落とした。
「らっしゃい…………」
「何なんですかアンタ? 携帯を返してくださいよ!」
二人の若者が、大柄な男に口やかましく抗議をしている、大柄な男は二人の若者にスマホを返すと、飲み屋街の出口の方を指さし。
「らっしゃい…………」
「何なんすか? アンタ?」
「らっしゃい!?」
「おっおい! もう行こうぜ、こいつら変だよ」
「そうそうするか…………」
大柄な男の凄んだ顔を見て、怯えながら二人の若者は立ち去った…………
「いや~助かったぞ! イモゴリーラ!!」
「らっしゃ~い!」
「ああ、最近増えたよな観光だろアイツら? 本当に観光は勘弁して欲しいよな、ここは観光地じゃねーのにな」
イモゴリーラは自分のクビに巻いてあるタオルをマサルさんに手渡した。
「らっしゃい!」
「えっ? いいの? スマンね遠慮なく使わせてもらうわ」
マサルさんは、イモゴリーラからタオルを受け取ると腰に巻き、何とかオチンロンが見えるデンジャーゾーンだけは隠せそうだ。
「最近観光するアホが増えて面倒だな、こんな物であそこを隠さないと街も安心して歩けね~よ」
「らっしゃい?」
「えっ野菜を持ってくかって? 悪いからいいよ必要なら嫁が買いに行くから」
イモゴリーラに礼を言って別れて今度こそ自宅へと向かう。
途中で振り返るとイモゴリーラはまだ手を振っている、やはり持つべき者は良い後輩だな。
夜風を全身に感じながら、自宅マンションに到着したが、はて鍵を持っていない! 脱ぎ捨ててきたズボンの中に入れたまま逃走したからだろう。
自室の部屋番号を押しインターホンを鳴らすと、声が聞こえた。
「おかえり~ あれ? 鍵は?」
「無くした 」
「またなの~!」
ウイーンとオートロックが開く音がした…………
自宅のドアを開けて中に入ると、食事の良いかおりがマサルさんの鼻孔をくすぐる
「ただいま~」
「体中傷だらけじゃないの? 何があったの!!」
「ちょろっとトラブルがあっただけだ、気にする程のことじゃ~ない」
嫁のリサが、マサルさんの体中の傷を見て顔をしかめながら質問してきたが、マサル家のルールでマサルさんはウソを言ってはいけない事になっている。
ウソが多い世の中で信頼できる夫婦間だけでもウソはつかないという嫁の理念に賛同してマサルさんは決してウソは言わない。
ただし嫁はウソを付く、女はウソを言う生き物だから許されるべき存在らしい…………
ただし、マサルさんはウソは言わないが、言う必要の無いことは口にしない。
ロリのマサルさんが何故に結婚して嫁がいるのか?
別に珍しい事じゃない、既婚者がロリな場合もある、マサルさんの結婚した経緯は、嫁が幼なじみだった為である。
幼なじみと言うネームバリューに惹かれ結婚したのだ、今現在はJSファイブに心がトキメクのだが、マサルさんは嫁がJSフォー時に恋に落ちたのだ。
マサルさんのJSフォー好きは、この頃の嫁との楽しい思い出が原因かもしれない。
嫁の事は自分の体の一部に思えるほど大事に思うが、家族愛であり恋愛感情ではないのかもしれない。
嫁のリサは普段は温厚な女だが本日は、少し違うようである。
マサルさんの傷だらけの姿を見て、何やら怪しんでテーブルを指でトントンと叩いている、良くない兆候だ。
「マサルちゃん服は? …………」
「捨ててきた…………」
「浮気でもしてきたの? …………」
女性との情事を楽しんでいる時に、旦那か彼氏に見つかりボコられてそのまま逃げだしたとでも考えているのだろう、想像力が豊な女だ。
マサルさんがポリスメンに追われ、異世界に行きボコられた事を説明しても理解してくれるとは思わない。
言わなくても良い事は言わない! したがって言える範囲の事を言う、これはウソではない円滑なコミュニケーションを取るために大事な事だ。
「浮気はしていない………… そもそもマサルさんはロリだろ…………」
「それもそうね………… おおかた酔って喧嘩でもしたんでしょ」
嫁はニコリと笑って、マサルさんの方を向きなおした………… ギリギリの説明だったが納得してくれたようだ。
これ以上の追求があれば全部喋る気でいたが嫁が納得したなら、余計な事は言うまい。
嫁との夜のお勤めは義務であるゆえ、一ヶ月に二度か三度はいたしているのに浮気を疑われるのは心外である、欲求不満でもあるのだろうか?
「それでマサルちゃん! 今日は28日だから買ってきたよね?」
「28日? 何も買ってないが?? …………」
「28日よ! 信じられない!!」
嫁がドンっとテーブルを叩いた…………
機嫌が直り先程までニコニコしていた嫁が怒っている、急に怒りだすとかサイコパスかよ! この女………… だが今取るべき行動は。
「すんませんでしたーーー!!」
土下座である………… そう、嫁が怒ったらまずは土下座…………
「28日のニワトリの日に、焼き鳥を買ってこないとかおかしいでしょ!! 殴られすぎて頭でも変になったの??」
「ニワトリの日? …………」
「まさるちゃん? まさか本当に殴られすぎて記憶でもなくしたの?」
怒っていた嫁が心配そうにマサルさんの顔の覗きこんだ、
「28日は、ニワトリの日で焼き鳥屋で全品20パーセントオフのビックイベントデーなのよ! それを忘れるなんて………… 赤羽人としての誇りをなくしたの?」
「!? そっそんな大事な日を………… マサルさんは忘れたのか?」
赤羽住人のソウルフードである。焼き鳥に関する記憶が無いとかマジに記憶障害を疑われてもしかたがない。
呪いの指輪に、能力を付与する時に大事な記憶を無くすとあったが、この事だったようだ!
こんな大事な記憶を無くしていたなんて恐ろしい、マサルさんは青くなりながらブルブルと震えた。
「リサ………… だっ大丈夫だ、忘れてたけど今また憶えた! こんな大事な事は二度と忘れない誓うよ…………」
「本当に大丈夫なの? とりあえずそんな傷だらけの時に、お風呂に入ると熱がでるから、シャワーでサッと洗って傷を消毒しよっ!」
嫁に心配されながら傷の手当をして、食事を取り就寝するためにベットに入ったマサルさんだが。
今後同じような呪いの指輪があっても、二度と能力の付与をしないと固く心に決めた日だった。