第8話 世界の繋がり
コン コン コン
「父様、いらっしゃいますか?」
俺とラフィは昼食の準備を終え、クルーゼの書斎の前にいる。
俺の焼いた肉は、村の人達から大絶賛された。
昼食が一区切りした頃、ラフィが俺の作った料理をクルーゼに食べさせたいと言ったので、2人でやって来たのだ。
「ラフィかい?開いているよ。入りなさい」
中からクルーゼの穏やかな声が聞こえた。
(仕事中は尊敬出来るのにな・・・)
「失礼します!」
ラフィは扉を開け、俺を先に入らせる。
書斎にはルーカスも居た。
彼はクルーゼの補佐をしているらしい。
「おや、アキラ君も一緒か。2人してどうしたんだね?何か良い匂いがするが・・・」
「アキラが昼食の準備を手伝ったんです!とても美味しかったので、父様にもと思って・・・」
「何と!?それは嬉しいな!丁度腹が空いていたところだ!いただくとしよう!!」
彼は書類の束を放り投げ、接客用のテーブルに移動した。
「お口に合えば良いですけどね・・・。ルーカスさんもどうぞ!」
「私の分まで・・・?お心遣い感謝いたします」
彼等は席に着き、俺の作った料理を一口食べた。
「おぉ、これは!?ここまで柔らかい肉を食べたのは久しぶりだぞ!!」
「はい、このソースのおかげで臭みも気になりませんし、これは美味しいですね・・・」
俺とラフィは、2人の嬉しそうな顔を見て、互いに顔を見合わせ、笑いながら頷いた。
「いやぁ、堪能させて貰った!これは君の世界の料理かい?」
「食材はこちらの物ですが、調理法は俺の居た世界で行われてるものですよ!」
「そうか・・・君の居た世界は、全てにおいて我々の世界を凌駕しているようだな・・・。正直、そんな世界があると言う事が恐ろしいよ・・・」
クルーゼはため息を吐いた。
「父様、どう言うこと?」
「アキラ君はこの世界に飛ばされて来た・・・それは、彼の居た世界と何かしら繋がりが出来たと言うことだ・・・。今回は彼が飛ばされただけだが、もし本格的に繋がってしまえば、この世界の技術では到底抗えない・・・。こちらに有り、向こうに無い資源を狙われた場合、我々ではどうする事も出来ないだろう。別に、私はアキラ君の世界が悪であると言っている訳では無いよ?ただ、そう言った事も起こり得ると言いたいだけだ・・・」
クルーゼの言っている事は正しい。
世の中綺麗事だけじゃ生きては行けない。
もし俺の居た世界と繋がってしまえば、そうなる可能性はある。
実際今までだって、権利や資源、宗教、人種など、様々な理由で争いが起こっている。
それが例え異世界だろうと、繋がってしまえば何かを切っ掛けにして、相手に関係無く争いは起きる。
「俺もそう思います・・・。悔しいですけど、それが感情を持った生き物の性ですから・・・」
「そうだ・・・。感情があるからこそ、憎み合い、争いが起こってしまう。だが、感情があるからこそ愛し合う事も笑い合う事も出来る・・・。感情とは実にままならない物だよ・・・」
クルーゼは感慨深く言った。
「そうだ、事後報告になるが、アキラ君の転移の件、他のエルフの長や多種族の知り合いに手紙を書いたよ。我々だけでは何も分からないからね・・・」
「ありがとうございます。助かります・・・」
俺はクルーゼに頭を下げた。
「今朝はラフィの事をどうかと言ったが・・・私は、君は元の世界に帰った方が良いと思う・・・。君にも家族がいるのだろう?家族と言うのは良いものだ・・・。家族が死んでしまった時の悲しみは辛い・・・だが、乗り越えられる悲しみだ。君の場合は死んだ訳では無く、居なくなった・・・残された家族は、生きているかも知れないという希望と、死んだかも知れないという不安に悩まされているだろう・・・。その感情は、彼等が亡くなるまで続く・・・。だからこそ、君は帰って家族を安心させるべきだ」
彼は複雑な表情をしている。
「はい・・・わかっています・・・」
俺は俯いて答えた。
帰れるかどうかは分からない。
だが、帰れるのなら帰りたい。
「ラフィには悪いけどね・・・」
「なっ・・・父様!?」
俺は彼の言葉に顔を上げた。
ラフィは焦っている。
「ラフィは君の事を憎からず思っているようだから、君に帰った方が良いと言うのは、悪いと思ったんだよ」
「父様!やめてください!!」
「えっ・・・?」
俺は理解出来ない。
一昨日から散々殴られ、男として見られていないと思っていた。
舎弟みたいな扱いだった。
「ラフィ、君はすぐに顔に出るから分かりやすいんだよ。アキラ君と一緒にいる時は楽しそうにしているよ?」
彼女は言葉に詰まったが、顔が真っ赤だ。
「まぁ、さっきはああ言ったが、気が変わったらいつでもラフィを貰ってくれて構わないよ!私としても、不安の種が減るのは喜ばしい事だからね!!」
そう言ったクルーゼはニヤついた笑顔をしていた。
「父様の馬鹿・・・!」
ラフィはご立腹だ。
クルーゼに散々からかわれ、書斎にいる間ずっと涙目だった。
「ラフィ・・・なんか、ごめんね?」
「何で謝んのよ!謝られたら余計に恥ずかしくなるじゃない!?」
彼女は泣きそうだ・・・。
まぁ、気持ちは解る。
俺だって今朝の件で泣きそうになった。
だが、俺のは自業自得だ。
ラフィの場合は、本人の前で父親にバラされたのだから、辛いだろう・・・。
「あーもう!自分にも腹が立つわ!!顔に出てるとか信じらんない!!」
「落ち着きなよ・・・俺は嬉しかったよ?まぁ、ビックリしたけどね・・・」
「・・・本当?」
彼女は上目遣いで聞いてきた。
「そりゃあ嬉しいよ・・・だって、君は美人だしさ・・・。だけど何で俺なのかなとは思うよ・・・」
「この村の男ってさ、私を父様の・・・クルーゼの娘としか見てないのよ・・・。ああ見えても父様は仕事出来るし、良いところの血筋らしいしね・・・だから、皆んな父様を慕ってるだけ・・・。皆んなは私にも優しくしてはくれるけど、それは父様の娘だから・・・。誰も私自身を見てはくれない・・・。でも、貴方は違った・・・もちろん私の事を知らないのもあるかも知れないけど、貴方は私を見てくれた。冗談言ったり馬鹿にしたり・・・それが嬉しかった・・・。だからよ・・・単純な理由で呆れたでしょ?」
ラフィは力なく笑っている。
(うーん・・・重い!!)
「別に呆れはしないけど、難しく考え過ぎじゃない?俺が見る限り、村の人達はそんな目で見てなかったよ?」
「それは貴方が一緒だったからよ・・・。なんか、貴方を見てると気が抜けるのよね・・・。馬鹿ばっかりやってるからかな?だから、皆んな自然になれるんじゃない?」
「それ、褒めてないよね?」
「あら、褒めてるわよ?ある意味才能よ!私には羨ましいくらいのね・・・」
そう呟き、彼女は俯いた。
「まぁ、向こうに帰れるかどうかは分からないけど・・・もし帰れないなら、俺はこの村に永住する!楽しいしね!!それに、ラフィも居るなら孤独死はしないで済みそうだ!!」
「あら、私がずっと貴方を好きでいるとは限らないわよ?魅力が無いと判断したら、容赦無く捨てるわ!」
「あぁ・・・君ならそうするだろうね・・・」
項垂れる俺を見て、彼女は笑った。
やはり、ラフィには笑顔が似合っていると思った。