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第73話 帝都

 俺達は今、騎士団のオイゲン将軍の計らいで馬車に乗せて貰い、近衛騎士のノアと共に帝都に向かっている。

 月の位置からすると、すでに日は変わっているようだ。

 小人族の集落を襲った賊との攻防で疲弊していたララは、馬車に乗るなり死んだように眠ってしまった。

 戦い慣れていない俺やラフィ、レイアを守り続けていたため、彼女の肌にはいくつもの傷がある。

 深手ではないが、帝都に着いてからはしばらく休養に専念して貰おう。

 レイアはまだ子供ということもあり、ラフィの膝枕で小さな寝息を立てている。

 レイアに膝枕をしてあげているラフィは、レイアを優しく撫でながら俺の肩にもたれかかっている。


 「ノアと言ったか・・・そろそろ話して貰いたい」


 しばらく沈黙を守っていたアギーラが、騎馬で並走しているノアに問いかけた。

 アギーラに尋ねられたノアは俯き、どこから話そうかと思案してゆっくりと顔を上げた。


 「そうですね・・・実を言うと、私はこの数日間、貴方達を尾行していました。

 3日・・・いえ、4日前からですね。

 陛下に謁見しに帝都に向かっている、珍しい組み合わせの旅人がいるとの情報を得まして、丁度村に立ち寄っていた私が、貴方達の動向を探っていたのです。

 身体能力に長けた竜人族と獣人族の居るパーティですからね・・・もしもの事を考えて貴方達を見張っていたのです」


 まぁ、ノアの言い分は解る。

 屋台のオヤジに言われて気付いた事だが、俺達以外で村に訪れていた商隊などは、種族がほぼ統一されていた。

 中には使用人などで他種族を連れていた者達もいたが、連れられていた人数はそれほど多くはなかった。

 だが、俺達は4人パーティで、皆種族が違う。

 周りから見れば確かに異様に見えるのだろう。


 「で、俺達を見ていてどう思いました?」


 「取り越し苦労も良いところでしたよ・・・勘の鋭い竜人族や獣人族のお二人に気付かれないようにとかなり気を付けていましたが、精神的に疲れただけでしたよ・・・」


 俺が問いかけると、ノアは戯けたように肩を竦めて笑った。

 彼は中性的な顔立ちのイケメンなため、ちょっとした仕草が女性に見えてしまい、内心ドキッとしてしまう。


 「貴方達は道中怪しい素振りも見せませんでしたし、その子・・・レイアさんの手当てをしている貴方達を見て、陛下に仇なす者ではないと判断しました。

 私は貴方達の後をつけ、集落の惨状を目の当たりにしてすぐに、連れていた馬で帝都に向かいました。

 彼等の遺体の処理も必要でしたが、あれ程の事をした賊がまだ近くにいる可能性もありましたから、オイゲン将軍に救援を求めたのです。

 まさか戻って来たら、すでに遺体の埋葬が終わっているとは思ってませんでしたけどね・・・しかも、貴方達が賊の襲撃を受けてる真っ最中でしたからかなり焦りましたよ。

 皆さんがご無事でなによりでした。

 仕事とは言え、貴方達を疑ってしまい申し訳ありません・・・」


 そう言ったノアは、俺達に頭を下げて謝罪した。


 「いや、別に謝って貰わなくても・・・怪しい4人組なのは確かですし、何より騎士団の方々には危ないところを助けて貰いましたから。

 それより、オイゲン将軍でしたっけ・・・あんな凄い人がよく駆けつけてくれましたね?」


 「オイゲン将軍は、陛下が最も信頼を寄せてらっしゃる方ですし、誰よりも陛下の意思を尊重されています。

 あの方であれば、事情を話せば真っ先に動いてくださる確信がありました。

 オイゲン将軍は、陛下から全軍の指揮を預かっているので、他の方に話を持って行くより迅速に対応できますからね」


 オイゲンとは先程話をしたが、忠義に厚い男だった。

 短い時間では彼の実力の程は知れないが、アギーラとララは彼の事を称賛していた。

 帝国最強と言うのも疑う余地は無いだろう。


 「オイゲン将軍達は、これからどうされるんですか?

 あと、あの集落は今後どうなるんでしょう?」


 「オイゲン将軍は、賊を移送して尋問にかけるそうです。

 奴等は他国でも悪事を働いていたようですし、色々と聞かねばならない事がありますから。

 それとあの集落は、帝都に着き次第私が業者に依頼して慰霊碑を立てる予定です。

 オイゲン将軍も仰っていましたが、彼等もこの国の民である事に変わりはありません・・・。

 我々は、彼等の事を把握していませんでした・・・近隣に住んでいる他の民も同様でしょう。

 彼等は他の者達に気付かれぬように、ひっそりと暮らしていました・・・そして、我々が知らぬ間に理不尽にも命を奪われた。

 せめて、彼等があの地で暮らし、尊い命を奪われた事を他の者達にも知って欲しい・・・忘れないでいて欲しいのです。

 この話は、陛下はまだ存じてらっしゃいません・・・ですが、陛下なら必ず放ってはおかれないでしょう」


 ノアは自信に満ちた表情をしている。

 彼も、オイゲンに劣らず忠義に厚い男のようだ。


 「素晴らしい方なんですね・・・」


 「それはもちろんです!陛下ご自身は、先帝陛下など歴代の方々と比べれば凡夫だと仰っていますが、あのお方程民を愛し、共に生きようとされた方はいらっしゃいません!

 争いが無くなり、平和な世となって久しいですが、民の暮らしがここまで安定しているのは、現皇帝陛下のお力によるものが大きいのです!」


 「多くの人から愛される・・・それだけで充分に非凡ですよね。

 お会いするのが今から楽しみですよ」


 「えぇ、私は慰霊碑の依頼を出した後、すぐに陛下の今回の件を報告に向かいます。

 視察は陛下が最も重要視されている公務の一つですので、すぐに戻っては来られないでしょうが、貴方達の事は伝えておきましょう。

 陛下が戻られた際には、真っ先に貴方達にお伝えします」

 

 ノアは笑顔で頷き、約束してくれた。

 嫌味のないイケメンってのは最強だなと思った。


 「少し休ませて貰っても良いですかね?」


 「えぇ、このペースだと帝都に着くのは朝方になりますから、ゆっくりされていてください」


 「じゃあ、着く前に教えて下さい」


 俺はノアに後を頼み、ラフィを見た。

 ラフィはすでに夢の中だ。

 アギーラも休むらしく、目を瞑っている。

 俺はラフィに膝枕をして貰っているレイアの頭を撫で、眠りについた。







 「皆さん、あと少しで帝都に着きますよ」


 俺はノアの言葉で目を覚ました。

 ラフィとララはまだ寝ている。

 アギーラは既に目を覚ましていたらしく、俺が起きたのを見て微笑んだ。


 「おはようアキラ、よく寝ていたな」


 「えぇ、流石に昨日は疲れましたからね・・・」


 俺がアギーラに苦笑しながら答えると、ラフィの膝枕で寝ていたレイアも目を覚ました。


 「えっと・・・おはようございます」


 「おはようレイアちゃん、今日からよろしくね」


 「よろしくお願いします・・・」


 レイアは身嗜みを整えてお辞儀する・・・なかなか礼儀正しい。

 彼女は今は落ち着いているが、まだ家族を失ったばかりだ・・・しばらくはしっかりと様子を見てあげなければならないだろう。

 帝都にどれだけ滞在するかは判らないが、発つまでには彼女をどうするかも決めなければいけない。


 「んーっ!よく寝たわ・・・あっ、ごめんなさい」


 俺がレイアの今後について考えていると、目を覚まして伸びをしたラフィに殴られた。


 「いや、そんな痛くなかったよ・・・それに、慣れてるからね」


 先日、寝ぼけて俺を殴った事を思い出したのか、ラフィはかなり心配そうだ。


 「ははは、アキラさんは優しい方なんですね!

 殴られ慣れているって事は、何か武術の心得が?」


 俺とラフィのやり取りを見ていたノアが笑いながら聞いてきた。


 「いや、誰かに習ったりはしてませんね。

 武術を習っていた兄に、事あるごとに技の実験台にされていたので、そのせいで頑丈になったんですよ・・・。

 戦い方は、その兄に対抗するために独学で覚えました。

 まぁ、今まで一度も勝った事は無いんですけどね・・・」


 「そうでしたか・・・賊の頭目との戦闘を見て、見た事の無い武術だと思っていましたが、独学でしたか・・・」


 俺があの時使っていたのはボクシングだ。

 似たものであればアギーラだって使っている。

 ジャブ、フック、ストレートなど、アギーラはそれらを駆使して賊を薙ぎ倒していた。


 「アギーラさんも似たような戦い方ですし、別に珍しくは無いんじゃ無いですか?」


 俺がアギーラに問いかけると、彼はゆっくりと首を振った。


 「いや、俺のはただ身体能力の高さで敵を圧倒していたに過ぎない・・・技と言うには程遠いものだ。

 俺達竜人族は、他の種族を圧倒する攻撃力、防御力があるからな・・・技とは無縁なんだ。

 竜人族同士での殺し合いなら、守護竜の加護を受けての戦闘になるから多少の技術や経験、駆け引きが必要だが、それ以外ならどうとでもなる」


 「まぁ、確かにあんなの食らったら挽肉になりますね・・・」


 俺は、昨夜のアギーラの戦いを思い出して苦笑した。


 「少し落ち着いたら、お前の知る技を教えて貰えないか?

 今後に備えて色々と学んでおきたい」


 「人に教えられるほどの物じゃないんですが・・・まぁ、俺も身体を動かさないと鈍りますし、軽くなら良いですよ?」


 「助かる・・・」


 アギーラは短く礼を言って頭を下げた。


 「その時は、是非私も同席させていただきたいですね!

 素手ででの戦闘を習っておけば、いざと言う時に役立ちますからね!」


 「あっ、じゃあ私も!」


 ノアとラフィも挙手をする。

 レイアは何が何だかわかっていないようだ。


 「おっ、見えてきましたよ!あれが帝都の表門になります!」


 ノアが明るい声で俺達に伝え、正面を指差す。


 「何だあれ・・・デカ過ぎじゃない?」


 「何度見ても圧倒されるわよね!」


 「いや、俺は初めてなんだけど・・・」


 俺は表門の巨大さに圧倒されつつラフィに突っ込んだ。

 ノアはそれを見て笑っている。


 「あの門は帝都自慢の一つですからね!

 でも、中はまだまだ凄いですよ!」


 得意げなノアに案内されながら門を抜けると、俺はまたも驚いた。

 滅茶苦茶人が多いのに、混雑していないのだ。

 道幅はどれ程だろうか、おそらく50m以上はありそうだ。


 「この通りは、数ある中でも最も大きな通りです!

 帝都の玄関先ですから、多くの人で混雑してしまうので広く造ってあるんですよ。

 馬車も多く通りますから、事故防止にもなっています!」


 通りの脇には屋台や商店が並んでいて、多くの買い物客で賑わっている。

 ラフィは我慢しているようだが、お金を渡せば飛んでいくだろう・・・。


 「そういえば、滞在する宿に希望はありますか?

 陛下が戻られるまではまだ掛かりますから、宿の手配はこちらでさせていただきます。

 貴方達にはご迷惑をおかけしましたし、宿に支払いはこちらで負担するようにとオイゲン将軍から指示されております」


 何と言うか、至れり尽くせりで申し訳なくなってしまう・・・。

 確かに苦労はあったが、彼等には助けて貰った恩がある。

 甘えてばかりもいらない・・・出来れば、これ以上借りを作りたくないのもある。


 「出来れば、空き家とかってありますか?

 飲食店が並んでいる場所の近くならありがたいんですが・・・」


 「空き家ですか・・・探せばあると思いますが、宿でなくても良いのですか?」


 ノアは不思議そうに首を傾げている。


 「空き家なら、一括で賃貸料を払えば宿より安く済むと思いますし、出来れば料理の出来る場所が欲しいんですよ・・・実は俺達は旅の途中でして、路銀を稼ぐために屋台をやろうと思ってるんですが、何か許可とか要りますかね?」


 「そう言う事でしたら、申請などは私がやっておきましょう!

 特に面倒な手続きは必要無いんですが、たまにゴロツキなどがみかじめ料を要求してくる事がありますので、国からの許可証を発行して貰えば心配ないですからね!他には何かありますか?」


 「では、市場の場所と相場を教えて貰えますか?

 あと、空き家が見つかるまでは安宿で良いので案内して貰えると助かります」


 「お安い御用です!では、相場に関しては調べさせておくとして、宿に向かいましょう」


 俺達は、ノアに先導されて大通りを抜ける。

 俺は、しばらく世話になる街並みを眺めながら馬車に揺られた。

 

 

 

 

 

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