第7話 おっぱい星人
「クスクス・・・」
俺が村の中を歩いていると、皆んなが俺を見て笑っている・・・。
理由は解る・・・。
朝も早くから、自分の性癖を大声で暴露したのだ。
見目麗しいエルフの女性から、好奇の目で見られるのは、なかなか悪いものではない・・・。
だが、理由があれだ・・・。
俺がチラリと視線を向けると、蜘蛛の子を散らした様にそそくさと去って行く。
「はぁ・・・やっちまったなぁ・・・」
「だから、ヤってないって言ってんでしょ?」
俺がため息を吐くと、後ろからラフィが言ってきた。
「俺と君がどうこうって話じゃないよ・・・。朝早くから、自分の性癖を暴露した事にため息を吐いてるんだよ・・・」
俺がそう言うと、彼女は肩を落とした。
「ねぇ・・・本当に私って魅力無いの・・・?」
彼女は項垂れている。
朝の説教を気にしているようだ。
「まぁ、もう少し慎み深さや恥じらいを持った方が良いのは確かだよ・・・。君は美人だけど、口より先に手が出るし、裸を見られても恥ずかしがらないしね・・・。でも、魅力が無い訳じゃないよ?スタイルも良いし・・・その・・・良い匂いがしたし・・・」
「そう・・・ありがと・・・」
彼女は、俺の答えに赤面して俯いた。
(普段からこれならなぁ・・・。裸を見られても恥ずかしくないのに、褒められた途端恥ずかしがるって何なんだよ・・・)
俺は呆れて肩を竦めた。
「やぁアキラさん!昨夜はうちの子達の面倒を見てくれて助かったよ!」
「あぁ、昨夜の!すみません・・・お名前を聞いてなかったですよね?」
俺達が歩いていると、昨夜の子供達の父親が話しかけてきた。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね!俺はクルツだ!これからもよろしくな!」
クルツと名乗った男は、握手を求めてきた。
クルーゼやルーカスとは違った顔立ちだが、やはり美形だ・・・羨ましい!
「改めまして、東雲 晃です。よろしくお願いします!」
俺は彼の手を取り、握手をした。
「それにしても、息子達が喜んでたよ・・・また暇があったら遊んでやってくれないか?他の子供達も、あんたに興味があるみたいだしな!」
「構いませんよ!子供は好きですし、なんなら今からでも良い位ですよ!」
「ははは!それは助かるよ!だけど、今日は家の手伝いをさせてるんで、また今度お願いするよ!ではまた!ラフィお嬢さんとごゆっくり!・・・アキラさん好みに調教してやって下さいよ・・・」
彼は、去り際に耳打ちしてきた・・・。
その顔はニヤけていた。
ラフィは不思議そうに首を傾げている。
(くそっ!聞いてやがったな!?どこまで広がってるか分かったもんじゃないな・・・)
俺は再度ため息を吐いた・・・。
「あら、ラフィお嬢様とアキラさん!仲良くお散歩ですか?お似合いですよ!」
俺達がさらに村の中を散策していると、エルフの女性が話し掛けてきた。
可愛さの残るラフィとは違い、大人の色気を感じる美人さんだ。
だが、見た目からは年齢が予想出来ないのがエルフ族の難点だ。
聞いたところによると、この世界のエルフは、成人までは人と変わらない速度で成長するらしいが、それ以降は10年に1歳位の間隔で肉体の年齢が上がって行くと言っていた。
ちなみに、ラフィの年齢は俺の3倍程だ・・・。
人間で言うと70歳位らしい。
その事をからかったら、しこたま殴られた・・・。
(エルフ族の女性も年齢を気にするんだな・・・)
俺は殴られた痛みを思い出しながらラフィを見た。
彼女は訝しげな顔で見返してきた。
「見つめ合って仲が良いようで羨ましいですわ!」
「違うわよセシルさん!からかわないでよ!」
にこやかに笑って言ってきたセシルと言う女性に、ラフィは顔を赤らめて否定した。
「何をしてるんです?」
「昼食の下ごしらえですよ!お昼は村の皆んなで食べるので、作るのが大変ですよ・・・」
セシルは俺の質問に苦笑して答えてくれた。
「お昼は皆んなで食べるんですか・・・何でですか?」
「父様以外の皆んなは、基本外の仕事だからね・・・休憩時間は一緒だし、皆んなで食べた方が美味しいしね!」
「まぁ、確かに人と食べるのは楽しいよね!」
俺は質問に答えてくれたラフィに笑顔で言った。
「俺も手伝いましょうか?向こうでは自分でも作ってたし、ある程度は出来ますよ?」
「まぁ!本当ですか?助かりますわ!!では、そちらの肉料理をお願いしても宜しいですか?」
「了解です!じゃあ、ちゃっちゃと済ませますか!!」
俺は袖をまくって料理を開始した。
ラフィは興味深く俺を観察している。
(ラフィは作らないのかな?いや、メシマズっぽいから作れないのかな?)
俺はラフィを横目で見つつ肉を捌き始めた。
「ラフィ、蜂蜜ってある?」
「ここが何処だと思ってんの!山の中よ!?蜂蜜なんて腐るほどあるわよ!!」
「じやあ頂戴・・・あと、蜂蜜は腐らないよ?」
蜂蜜を取りに行こうとした彼女は立ち止まった。
「それ本当・・・?」
「え?本当だよ。向こうの世界で、2000年以上昔のお墓から、当時のままの蜂蜜が発掘された事もあるからね。蜂蜜は殺菌作用があるから、風邪を引いた時や怪我をした時にも使えるよ!」
「ただ甘いだけじゃ無かったなんて・・・やるわね蜂蜜・・・」
「取り敢えず、蜂蜜をお願い・・・」
「あぁ・・・ごめんなさい!今持ってくるわ!」
彼女は思い出したかの様に蜂蜜を取りに行った。
「お待たせ、持って来たわよ!ところで、肉料理なのに何で蜂蜜なのよ?」
蜂蜜を持ってきたラフィは首を傾げている。
「この肉って固いだろ?肉を蜂蜜に漬けると柔らかくなるんだよ!」
「蜂蜜・・・潜在能力値が計り知れないわね・・・」
「蜂蜜さん・・・いや、蜂蜜様は万能ですよ!?」
「えぇ・・・思い知ったわ・・・」
彼女は蜂蜜を見つめ、驚嘆の呟きをもらした。
「あとは・・・ラフィ、何か果物無いかな?」
「蜂蜜の次は果物?貴方、お肉でデザートでも作るつもり・・・?」
「違うよ!ソースを作んの!!この肉って臭みが強いだろ?そう言う肉には果物を使ったソースが合うんだよ!」
「へぇ・・・貴方詳しいわね・・・。前から作ってたの?」
「うちは両親共働きだったから、家事は分担してたんだよ。料理は作り出すと凝っちゃってさ・・・おかげでレパートリーは増えたよ」
「へぇ・・・関心ねぇ・・・。貴方と一緒なら飢えずに済みそうね!」
彼女は明るくそう言った。
「よし、完成だな!ラフィ、味見してみる?」
「ふっふっふ・・・その言葉を待ってたわ!!」
彼女はすでにスタンバイしている。
「君、食い意地張ってるよね・・・。昨夜も相当食べてただろ?」
「食べなきゃ育たないじゃない・・・」
彼女は自分の胸を撫でる。
身体には自信があるとは言っていたが、やはり胸の大きさは気にしているらしい。
「別に良いんじゃない?丁度良いと思うけど・・・。君の体型で胸だけ大きくなったら、バランス悪くなるよ?」
「そ・・・そうかしら?貴方が言うならこのままでも良いかな?・・・でも、お腹はすくのよねぇ」
「まぁ、君がもっと大きくしたいなら良いんじゃない?そこは君自身の問題だしね!」
「別にそこまでして欲しい物じゃないし、別に良いわよ!貴方も気に入ってたみたいだしね・・・」
「え・・・何それ?」
彼女は不可解な事を言い出した。
「だって、今朝嬉しそうに私の胸に齧り付いてたじゃない?」
俺の思考が停止した・・・。
周りの奥様方からひそひそと話し声が聞こえる・・・。
「ラフィさん・・・?なんでそんな事を普通に言っちゃうの?ただでさえ微妙な俺の立場が、さらに怪しくなっちゃうんだけど!?て言うか起きてたの!!?」
「はぁ?別に良いじゃない!何恥ずかしがる必要があんのよ!?男はそう言うもんでしょ!父様だってそうだし!!」
(あの親父!!何やらかしてんだ!?)
俺の中でのクルーゼの株はだだ下がりだ。
「確かに、男はそう言う生き物だ!だけど、それを人前で言うのは酷いよ・・・」
「なんかごめん・・・。で、どうだったの?私の胸・・・」
「大変宜しゅうございました・・・。形も色も匂いも最高でしたよこんちくしょう!!どうせ俺はおっぱい星人だよ!!」
俺は涙目で叫んだ。
どうせ最底辺の立場だ・・・これ以下に下がる事は無いだろう・・・。
ラフィは何故か嬉しそうに俯いた。