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第69話 屍山血河

 俺達は屋台のおやじから、現在皇帝陛下は視察のために不在である事を聞き、途方に暮れていた。

 まぁ、何もかもが順調に行くとは思ってはいなかったが、いきなり壁にぶち当たってしまった。

 皇帝陛下に会うのを後回しにし、ミクラスに先に行く案も出たが、ミクラスまでは片道が約3ヵ月、往復すれば半年になる。

 砂漠を抜ければかなりの短縮も可能らしいが、相応の危険が伴う。

 ドライセルやウインダムはさらに遠いので、行くならミクラスしかない。

 だが、もし先にミクラスに行き、戻って来たとしても、その時期に皇帝陛下が居るとは限らない。

 宿に戻ってから受付の女性に聞いたところ、皇帝陛下は年に2度に分けて国内視察を行うらしく、ミクラスから帰って来た頃にはまた視察に出ている可能性が高いそうだ。

 皇帝陛下の国内視察について、ララやアギーラは知らなくても仕方がないが、ラフィには知っていて欲しかった・・・。

 そこで俺達は、皇帝陛下が戻るまでの1ヵ月間、帝都に滞在して資金調達と情報収集をする事にした。

 帝都に向けて出発して4日、現在俺達は徒歩で帝都に移動中だ。

 馬車ならば今日には着くはずだったのだが、節約のために徒歩にしたので、1日余計に時間がかかる。

 今の所道中は特に何事も無く、このまま行けば明日の昼過ぎまでには帝都に着くだろう。

 昨日と一昨日に滞在した村は最初の村と対して差はなく、宿と飲食店以外見る場所は無かった。

 人でごった返していたのも変わらなかった。


 「さてと、まず帝都に着いてからなんだけど、まずはお城に行くつもりだけど良いかな?」


 「皇帝陛下が居ないのに、お城に行っても意味ないんじゃないかしら?

 それより、まずは宿を探す方が先じゃない?」


 ラフィは俺の提案に不服なようだ。


 「いや、先に話をつけておいて、陛下が戻られたら報せて貰った方が確実だよ。

 陛下にも、会いに来たのがいるって知って貰っていた方が良いだろうしね。

 あと滞在先の件なんだけど、今回は宿じゃなくて空き家を借りたらどうかなって思うんだ。

 宿に1ヵ月も泊まったらかなりの出費になるから、空き家を借りられるなら1ヵ月分の家賃だけで済むしその方が安くなるんじゃないかな?

 屋台で資金調達をするにしても、仕込みが出来る場所が必要だから、毎回宿の調理場を借りる訳にはいかないだろ?」


 「確かにそうね・・・。

 それじゃあ、屋台のメニューはどうしようかしら?

 唐揚げやコロッケ、トンカツなら私にも作れるけど、それ以外にも何か作るの?」


 「フライドポテトなんかどうかな?」


 「何よそれ?」


 俺が屋台で出すメニューについて提案すると、ラフィは首を傾げた。


 「名前の通り、ジャガイモの揚げ物だよ。

 5mm位の細切りにしたジャガイモに片栗粉をまぶして油で揚げるだけの簡単な料理だよ。

 味付けは塩だけで簡単だし、その場ですぐに作れるから回転は早いよ!

 ジャガイモならコスパは良いし、フライドポテトは唐揚げやコロッケと同じくその場で食べられるからね!

 屋台で出すなら、多少行儀が悪くても、食べ歩ける物が良いと思うんだ。

 出来立てを食べてる人がいたら、匂いにつられて買う人もいるかもしれないだろ?

 あと、今回はトンカツは無しの方向で行くつもりだよ。

 トンカツはその場で食べるには他のメニューより大きめだし、何より量を確保するにはコスパが悪いからね」


 俺はラフィと並びながら屋台での出し物について話し合う。

 料理に関して会話に加われないララとアギーラは、俺とラフィの後ろを歩きながら戦い方などについて互いに意見交換をしている。


 「2人共止まれ!」


 屋台のメニューがあらかた決まったその時、不意にアギーラが俺とラフィに向かって怒鳴った。

 いきなりだったので、俺とラフィはその場で飛び上がった。


 「びっくりした・・・どうしたのアギーラさん?」


 俺とラフィが振り返ると、アギーラとララが鬼気迫る表情で周囲を見渡していた。


 「何かが焼けた臭いがする・・・」


 「えぇ、あと血の臭いです・・・」


 アギーラ達は臭いのする方向を探る。

 俺とラフィもすぐにアギーラ達のもとに近寄り、周囲を警戒する。

 人間の鼻では確かに煙の臭いは若干するが、血の臭いまではわからない。


 「あっちから来ています・・・」


 メンバーの中で一番鼻が効くララが右側を指差し、俺達がそちらを見ると、森の奥でかすかに煙が上がっているのが見えた。


 「血の臭いがするって事は、山火事じゃないですよね?」


 「あぁ、風に乗ってこれだけ血の臭いがするとなると、獲物をさばいて焼いているというのも無いな」


 我ながら馬鹿みたいな質問をしてしまったが、アギーラは真面目に答えてくれた。


 「ラフィさん、この近くに村ってありましたか?」


 「ちょっと待ってて・・・いえ、地図には載って無いわね」


 ラフィの広げた地図を横から覗いたが、確かにこの近くには村らしきものは載っていない。


 「どうしましょう、様子を探って来ましょうか?」


 ララが槍に被せた布を取り払い、なぜか俺を見て確認する。

 すると、煙が出ている方向の茂みが音を立てて揺れた。


 「アキラさん、ラフィさん、下がっていてください・・・」


 ララとアギーラは、俺とラフィを守るように前に出て構えた。

 茂みの揺れは次第に大きくなり、目の前まで迫って来た。


 「来るぞ・・・」


 アギーラの言葉に緊張が走る。

 その直後、茂みを揺らしていた何者かが飛び出すように倒れこんで来た。

 

 「えっ・・・子供?」


 俺は、飛び出して来たものを見て小さく呟いた。

 他の皆も呆気にとられている。

 その子供は、大きさ的にはまだ3〜4歳位に見える。

 茂みを抜けて来たため身体中に擦り傷があり、衣服にはおびただしい血と煤と泥が付着しているようだ。


 「ララさん、水を出してください!この子の汚れを落とします!!」


 それを見た俺は、すぐにララに指示を出した。

 傷口から感染症などを起こしては、子供ではまず助からないだろう。

 破傷風になんて罹ってしまえば、大人でも助からない。


 「えっと・・・これで良いですかね?」


 俺の指示を聞いて我に返ったララは、恐る恐る槍を構えると、槍の先に大きな水の玉を作った。

 俺はポケットからハンカチを取り出し、水の玉の中にそれを浸して濡らした。


 「ラフィは薬と包帯を!アギーラさんは周囲の警戒をお願いします!!」


 「わかったわ!」


 「任せておけ」


 2人は直ぐに行動に移る。

 俺は子供の身体を丁寧に拭き、血と汚れを綺麗に落としていく。

 傷は擦らないように手で水を掬って洗い流す。

 血が付いてはいるが、大きな外傷は見られないところを見ると、この子の家族の血だろうか?

 子供は意識を失っているのか、身動き一つしないため、話を聞く事も出来ない。

 不安になった俺は、身体を拭きつつ脈を見た。

 心臓は動いているため、死んではいないようだった。


 「う・・・」


 身体に着いた汚れをあらかた拭き終わった頃、子供が小さな呻き声を上げて目を覚ました。


 「君、大丈夫かい?痛いところはない?」


 俺は荷物から取り出したコップに水を注ぎ、子供に差し出しながら聞いた。

 子供は俺からコップを受け取ると、一気に飲み干した。

 相当喉が渇いていたのだろう。

 俺は再度コップに水を注ぎ、もう一度渡した。

 

 「この子、小人族だわ・・・」


 子供を心配して様子を見に来たラフィが、驚いたように呟いた。


 「珍しいな・・・小人族は人里離れた場所にしか居ないものと思っていたが、まさか帝都の近くで見かけるとはな」


 アギーラも驚いている。

 確か、小人族は他の種族より身体的に劣っているため、淘汰されてしまい数が少ないと聞いていた。


 「10歳前後でしょうか?女の子みたいですね」


 ララも珍しそうに覗き込み、子供を見ている。

 髪は短いが、確かに女の子だ。

 だが、身長は1m程しかない。

 これで10歳前後なら、成人はどの位の大きさなのだろうか?

 小人族の少女は水を飲んで落ち着いたのか、小さくため息をついた。


 「大丈夫かい?俺はアキラ、君の名前は?」


 「レイア・・・です」


 少女は自分を覗き込む俺達を見て、少し怯えながら名乗った。


 「レイアちゃんか、可愛い名前だね。

 良かったら、何があったか教えてくれないかな?」


 レイアの状態を見て大体の予想はつくし、嫌な予感しかしないが、俺は確認するべく優しく問いかけた。

 するとレイアの表情は見る間に青くなり、涙を流して俺に抱き着いた。


 「お父さんとお母さんを・・・村の皆んなを助けてください・・・!」


 俺は「あぁ、やっぱりな・・・」と心の中で呟き、皆を見た。

 皆は少し戸惑っていたが、泣きじゃくる小さな少女を見て、力強く頷いた。

 

 「君の家族の所に案内してくれるかい?」


 俺は少女を抱き上げ、森の中に入った。










 「血の臭いがどんどん濃くなっています・・・」


 先頭を走るララが小さく呟く。

 後ろを走っている俺では表情を見る事は出来ないが、声のトーンからして悲痛な表情をしているのだろう。


 「レイアちゃん、村まであとどの位かな?」


 「あと少し・・・5分位だと思います」


 レイアの表情は不安に染まっている。

 俺の鼻でもわかってしまう程に血の臭いが濃くなっている。

 これだけの臭いがするのだ、相当な数の人達が傷付き、血を流しているのだろう。

 いや、すでに殺されている・・・そう確信出来てしまう。

 皆は何も言わないが、恐らく俺と同じ考えだろう。


 「で、何があったんだい?」


 俺は再度レイアに問いかける。

 辛い事を思い出させてしまうのは心苦しいが、確認はしておくべきだ。

 野盗、もしくは野獣の類に襲撃されたといったところだろうとは思うが、もし違った場合は対応の仕方を変えなければならない。


 「今朝、村にたくさんの人間がやって来たんです・・・男の人ばかりでした。

 その男の人達は皆んな武器を持っていて、話をしようとした村長をいきなり斬ったんです・・・。

 村長を斬った人は声を上げて笑っていました・・・。

 お父さん達は道具を持って、お母さん達や私達子供を守ろうとしてくれたけど・・・男の人達に全然敵わなくて・・・。

 お母さん達が子供だけでもって逃がしてくれたけど、皆んな捕まってしまって・・・私だけが逃げ延びて・・・お兄さん達に会って・・・」


 レイアは言葉に詰まる。

 俺の首に抱き着いたまま、小さな身体を震わせ、声を殺して泣いている。


 「辛い事を思い出させてごめんね・・・」


 俺はレイアを抱きしめ、頭を撫でる。

 俺の後方から、ギリギリと何かが締め上げられる音が聞こえる。

 走りながら後ろを見ると、最後尾を走るアギーラが怒りの表情で拳を握りしめていた。

 握られた拳は、手の平の皮膚が裂けたのだろうか、走りながら振られる拳からは血の雫が滴っている。


 「皆さん、そろそろ着きます・・・速度を落としましょう」


 ララはそう言うと徐々に速度を落とし、足音を立てないようにゆっくりと歩き始めた。


 「あの木を抜けると村です・・・」


 レイアが指差す木を確認し、俺達はしゃがんで音を探る。

 あたりは静寂に包まれ、不気味な程に音が無い。


 「まず私が様子を見て来ます・・・アギーラさんはここで皆んなを守ってください」


 「・・・解った」


 ララは、我先にと飛び出しそうなアギーラに釘を刺さし、しゃがみながらゆっくりと村に近づいて行く。

 もし村に男達が残っていた場合、今のアギーラでは冷静ではいられないだろう。


 「ただいま戻りました・・・」


 5分程すると、暗い表情をしたララが身を隠しもせずに戻って来た。


 「どうでしたか?」


 俺は、ララの様子を見て最悪の結果であることは理解したが、念の為に確認した。


 「村を襲った奴等はすでに居なくなっていました・・・」

 

 「村の皆んなはどうでしたか!?お父さんとお母さんは・・・!?」


 「それは・・・」


 レイアに問いかけられたララは、悲痛な表情で顔を背け、言葉に詰まった。

 それを見て、レイアは悟ってしまった。

 まだあどけなさの残る顔は悲哀に染まり、レイアは俺の腕から飛び降りると、村に向かって走り出した。


 「行っては駄目です!あれは・・・見ちゃいけません・・・」


 「いやっ、離して・・・!!お父さん、お母さん!!」


 脇をすり抜けようとしたレイアの腕を、ララが掴んで引き止める。

 力で敵わないレイアは、その場に尻餅をついて駄々をこねる。


 「ラフィ・・・すまないけど、向こうでララさんと一緒にレイアちゃんを見ててくれないかな?

 俺はアギーラさんと一緒に確認してくるよ」


 「わかったわ・・・」


 ラフィは短く返事をすると、暴れるレイアを抱き上げる。


 「アキラさん・・・正直、私はあれが人間の所業とは思えません。

 心してください・・・見なければ良かった、ときっと後悔します」


 ララは俺に顔を近づけ、レイアに聞こえないように小さく忠告し、去って行った。


 「行きましょう・・・」


 「あぁ・・・」


 アギーラが先導し、俺はその後をついて村に足を踏み入れた。

 そして、そこに広がる光景を見て蹲り、俺は嘔吐した。


 「何だこれは・・・!」


 アギーラの怒りの咆哮が響く。

 

 「これが・・・これが人のやる事か!!」


 目の前に広がる光景は凄惨を極めていた。

 これこそが鬼畜の所業と言う物だろう。

 小人族が住むのに適した大きさの家々は炭化する程に焼け落ちている。

 そして、村の広場と思われる場所に「それ」はあった。

 かつて人であったであろうパーツの山だ。

 首が、胴体が、腕が、足が・・・身体を構築する全てのパーツがズタズタに切り裂かれ、血の河を作りながら、広場の中央に見せびらかす様に山となって積み上げられていた。

 文字通り屍山血河の様相だった。


 「うっぷ・・・マジかよ・・・!何なんだこれは!!何でこんなことが出来る!?」


 胃の中が空っぽになった俺は、目を背けたくなるような光景を前に涙を流した。

 これが俺と同じ人間がやった事であることに怒りを覚えた。

 そして、それ以上に虚しく、悲しくなって涙が出た。


 「アキラ、お前は戻れ・・・」


 俺を見たアギーラは、瞳に怒りの炎を燃やしながらも俺を気遣う。


 「いえ、大丈夫です・・・俺の事より、まずはこの人達です。

 このままにはして置けません・・・遺体を埋葬しましょう」


 俺は上がってくる胃液を飲みくだし、死体の山の麓に転がっていたものを抱き上げた。

 それはレイアよりも幼いであろう子供の頭だった。

 苦悶の表情を浮かべ、光の無い虚ろな目で俺を見ている。


 「アギーラさん、ラフィ達に向こうで待っててくれと伝えて来て下さい・・・」


 「お前を1人にする訳には・・・」


 「お願いします!」


 「・・・解った」


 アギーラは躊躇していたが、俺が叫ぶと渋々と森の中へと歩いて行った。

 俺はそれを見て立ち上がり、焼け落ちた小屋の中から人間が使うには小さ過ぎるシャベルを持ち出し、1人穴を掘り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

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