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第67話 意外とデカイ

 「ラフィ、ララさん、そろそろ起きなよ。

 あと少しで村に着くらしいよ」


 俺がアギーラと話をしていると、御者から、あと少しで村に到着すると伝えられ、ヨダレを垂らしながら寝ている2人の残念美人を起こした。


 「んあ・・・もう着くんですか?結構寝ちゃいましたね」


 先に目覚めたのはララだった。

 ララは手の甲でヨダレを拭い、伸びをしている。

 ラフィはまだ夢の中だ。

 余程良い夢を見ているのか、少し笑っている。

 正直に言って、若干不気味だ。


 「ほらラフィ、早く起きなよ!」


 俺はラフィの肩を掴み、再度揺り起こす。


 「うーん・・・アキラうるさい・・・」


 「ぶっ!?」


 俺の顔面にラフィの拳がめり込む。

 全く予想していなかった反撃に、反応すら出来ずまともに食らってしまい、俺は鼻を押さえて蹲る。

 

 「うわぁ、痛そう・・・」


 「まともに食らったな・・・。

 アキラ、大丈夫か?」


 蹲る俺を、ララとアギーラが心配そうに覗き込む。


 「このアマ・・・優しく起こしてやってんのに調子に乗りやがって・・・!」


 俺は拳を震わせながら顔をあげる。

 鼻から熱い雫が滴り落ち、俺は鼻を拭って手を見る。

 拭った手は真っ赤に染まっている。

 鼻血だ。


 「アキラさん、鼻血が・・・」


 心配したララがハンカチを手渡したが、俺はそれを受け取らず、鼻血で濡れた手でラフィの頬をつねった。

 柔らかいラフィの頬は面白いくらいによく伸びる。


 「いひゃい!いひゃい!!にゃにすんのよ!?」


 頬をつねられ、堪らず目覚めたラフィは、涙目で頬をさすっている。


 「起きたかこのアマ!?」


 「一体全体何なのよ!?

 どうしたのよ、その鼻血は・・・誰にやられたの?」


 恨めしそうに俺を見たラフィは、鼻血を流す俺を見て、目を丸くしている。


 「誰にって君なんだけど!?

 あと少しで到着するから起こしてあげたってのに、この仕打ちは酷くない!!?」


 「あ、あらそう・・・それは悪かったわね・・・。

 なんかゴメンね・・・大丈夫?」


 状況を理解したラフィは、申し訳なそうに上目遣いで俺を見る。


 「はぁ・・・もう良いよ。

 それより、早く降りる準備をしないと!

 宿も探さないといけないし、着いたらすぐに行くよ!

 ほらラフィ、ヨダレを拭かないと!」


 「私より、自分の鼻血をどうにかしなさいよ・・・」


 俺はラフィのヨダレをハンカチで拭いてあげながら急かす。

 すると、ラフィは苦笑しながら俺の鼻血を拭いてくれた。


 「自分でやれば良かったわね・・・。

 それより本当にゴメンね、鼻血は止まった?」


 ララ達がニヤニヤとこちらを見ている事に気付いたラフィは、頬を染めながら俺の顔を見る。


 「大丈夫だよ・・・願わくば、俺の低い鼻がさらに低くなる前にこの癖を直して欲しいかな」


 「うっ・・・善処するわ・・・」


 ラフィは痛いところを突かれ、肩を竦める。


 「今向かってる村ってどんな所なんですか?

 アギーラさんやララさんは行ったことありますか?」


 俺は、ラフィと互いの身だしなみを確認しつつ聞いた。


 「そうだな・・・一言で言うならデカイな」


 「そうですね、デカイです。

 パスカル程ではありませんが、結構立派ですよ!」


 2人は口を揃えて言った。


 「村なんですよね?」


 「村だな」


 「村ですね」


 2人は当然だと言わんばかりに頷いている。


 「なんで村なのにデカイんです?」


 「昔はそうでも無かったらしいわよ」


 俺の質問に、ハンカチを畳んでいたラフィが答える。


 「じゃあなんでさ?」


 「昔は、街や村の距離ってかなり離れてたのよ。

 それこそ、次の街や村に行くのに1週間、もしくはそれ以上の時間が掛かったらしいわね。

 でも、人が増え始めてから、今までの街や村だけでは土地が足りなくなって、新しい土地に住むようになったの。

 魔物が居なくなったおかげで安全な場所も増えたしね。

 それから、大きな街と街の間に幾つかの村が出来て、そのおかげで旅をする時の荷物とかも少なくて済むようになったのよ。

 それまでは1週間分の食料が必要だったけど、新しい村とかが出来てからは多くても2〜3日分で足りるようになったわ。

 今向かっている村は比較的新しい村なんだけど、帝都に向かうには必ず通らなきゃいけないから、大きくなったのよ。

 ここまでの道が舗装されていたのも、帝都に向かう人達が通りやすいようにって造られたものよ。

 いずれ、帝都内の道は全て舗装する計画らしいわ」

 

 ラフィはドヤ顔で腕を組んでいる。

 この世界に疎い俺に勝ち誇っても意味ないと思うんだが・・・。


 「じゃあ街で良いんじゃないの?」


 俺は素朴な疑問を口にした。


 「帝都に向かう行商人や旅人のために、宿とか食事の出来るお店は多いけど、遊べる場所や買い物が出来るお店は殆ど無いのよ。

 だから、規模は大きくても街とは言われていないのよ。

 まぁ、宿場町って言っても良いんだけど、帝国内では村って言われるわ。

 元々、ここを通る人達は、皆んな帝都に行く事を目的にしてるのに、歓楽地を造って、帝都の前で満足されたら意味無いでしょ?

 だから、国からこの村と明日、明後日行く村には宿と食事処以外は作らないように言われてるのよ。

 まぁ、行商人や旅人は嫌でもこの村でお金を使って行くから、村からは不平不満は出てないみたいよ」


 俺はラフィの説明を大人しく聞いた。

 俺の隣では、いつの間にかララが真剣に話を聞いている。

 ララも詳しくは知らなかったらしい。


 「アキラ、見えて来たぞ」


 俺とララに追いやられ、隅で窮屈そうにしていたアギーラが外を見て呟く。


 「マジか・・・あれで村か・・・」


 俺はアギーラに言われて外を見て目を丸くした。

 村の入り口には立派な門が建っていて、その下は多くの人で溢れていた。

 旅人風の格好をした人達、何台もの馬車を引き連れた商人達、これが皆んな帝都を目指すのだとすると、帝都は想像以上に大きな所なのかもしれない。

 俺達の乗った馬車はそんな人達を掻き分けるように門をくぐり、停車場に停まる。


 「本日はご利用頂き、誠にありがとうございました。

 またのご利用をお待ちしております」


 御者が扉を開け、頭を下げる。

 俺は先に馬車を降りると、御者に少し多めに料金を支払った。


 「少し多いようですが・・・」


 御者は渡されたお金を確認し、俺を見る。


 「取っておいてください。

 おかげさまで無事に着くことが出来ました。

 また利用させていただきます」


 「ありがとうございます。

 またのご利用をお待ちしております」


 御者は深々と頭を下げ、馬車を移動させる。

 道が舗装されていたのもあり、今日は腰が痛く無い。

 すこぶる気分が良い。


 「さて、まずは宿を探して、その後は夕飯にしましょう!」


 「荷物は俺が持とう」


 アギーラは率先して荷物を担ぐ。

 彼が担ぐと、やけに軽そうにみえてしまう。


 「今夜は何を食べようかしら!」


 「いっぱい食べましょう!」


 ラフィとララはアギーラの後ろを歩きながら楽しそうに会話をしている。


 「ラフィ、昨夜みたいに暴食はやめてよ?俺の分も残しておいてね!」


 俺は3人を追うように後ろを歩く。


 「あんなのはたまにしか無いわよ!私だってなんであんな風になるのか判らないのよ!!」


 ラフィは俺を振り返って睨む。

 ララは苦笑してラフィを宥め、ラフィと腕を組む。

 本当にこの2人は仲が良い。

 側からみると、美人2人の仲睦まじい姿は絵になるが、普段ズボラなのを知っている俺には感動が薄い。

 俺は前を行く3人を眺めながら宿に向かった。







 俺達はしばらく歩き、宿の前にある料金表を見て、あまり高級そうではない宿を見つけて中に入った。


 「いらっしゃいませ、何名さまでしょうか?」


 宿に入ると、カウンターに身嗜みの整った若い女性が立っていた。


 「4名なんですが、部屋は空いてますか?」


 俺が尋ねると、女性は宿帳を確認する。


 「本日ご用意出来るのは団体様用の6人部屋になりますが、いかがなさいますか?」


 女性は申し訳なさそうにしている。

 いくら宿が多い村とは言え、入り口も村の中も人が溢れていたのだ。

 空いていなくても不思議ではない。


 「人が多いですから仕方ないですよね・・・その部屋でお願いします」


 俺が了承すると、女性はホッとしたようににこやかに笑う。

 美人と言う程では無いが、人好きのするややタレ目の優しい印象の女性だ。


 「では、お部屋にご案内いたします」


 女性がそう言うと、待っていましたと言わんばかりに1人の少年が現れて頭を下げる。


 「お荷物をこちらに!」


 元気が良くてなかなか礼儀正しい。

 アギーラは、少年の持ってきた荷台に荷物を載せる。

 少年を見た俺は、この宿は当たりだなと心の中で安堵した。


 「こちらになります、ごゆっくりお寛ぎください!」


 部屋の前に着くと、案内をしてくれた少年は頭を下げて去ろうとした。


 「ごめん、ちょっと良いかな?」


 「はい、構いませんが?」


 俺が呼び止めると、少年はこちらを振り向いて首を傾げた。


 「この辺で美味しい料理の食べられるオススメのお店ってあるかな?

 それと、この宿ってお酒や食べ物の持ち込みは大丈夫?」


 「ここの近辺のお店の料理はどこも美味しいですよ!

 他の国の方達も来られるので、色々な国の料理が楽しめます!

 あと、お酒と食べ物の持ち込みも大丈夫です!

 ここには歓楽街が無いので、皆さん夕飯を食べた後にお部屋で楽しまれていらっしゃいます!」


 うん、元気が良くて誠に宜しい!!

 俺はこの少年が気に入った。


 「ありがとう、少ないけどこれとっといて」


 俺は少年に笑顔でお礼を言い、チップとして銀貨を渡した。

 日本にはチップの習慣は無いし、この世界にもチップの習慣があるかは知らないが、良い仕事をした人には何かしら見返りがあっても良いと思う。


 「ありがとうございます!」


 少年は満面の笑顔でお礼を言って去っていく。

 後ろから見ていてもかなり嬉しそうなのが解る。


 「アキラ、私には無駄遣いは駄目って言っておきながら、あの子と馬車の御者には多めにお金を渡すのね・・・」


 ラフィが射るような視線で睨んでくる。


 「あれはチップって言って、良い仕事してくれたからお礼だよ・・・」


 俺は冷や汗を流しながら弁解すると、ラフィはため息をついた。


 「チップくらい知ってるわよ・・・嫌味が言いたかっただけよ。

 それにしても、貴方の世界にもチップってあったのね」


 「俺の住んでた国では無かったけどね。

 渡されても返してたよ。

 料金にチップ分も含まれてるからね」


 「へぇ、貰えるなら貰った方が良いと思うんだけどね」


 「まぁ、文化の違いだね」


 俺はラフィに答えながら部屋の鍵を開け、扉を開けた。


 「広っ!この部屋いくらだ!?」


 その部屋は、入って右にトイレと風呂場があり、奥には広々とした空間が広がっていた。

 大きなベッドが6つあるが、それでも十分寛げる。

 観葉植物なども手入れが行き届いており、清潔感溢れる室内だ。


 「料金表見たでしょう?シングルを4つ取るよりはマシよ」


 ラフィはそう言いながらベッドに自分の荷物を投げる。

 確かに料金表は確認したが、まさかこんなに良い部屋だとは思いもしなかった。

 これで高級じゃないとか、一番高い宿はどうなっているんだろう・・・。


 「これなら俺もしっかり寝られそうだな」


 「あははは!ふっかふかですよ!!」


 ベッドに横になったアギーラは満足そうにしている。

 ララにいたってはベッドの上で飛び跳ねている・・・子供か!!


 「まぁ、荷物も置いたし夕飯にしましょうか・・・」


 俺は請求額がいくらになるのか心配になりながらも、腹の虫が鳴ったので考えるのをやめた。


 


 


 

 


 


 


 

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