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第63話 ララの思い出

  俺達は早めの朝食を済ませ、適度に冷ましたトンカツとコロッケを千切りにしたキャベツと共にスライスしたパンに挟み、サンドイッチを作った。

  ソースは店主が用意してくれた物をアレンジし、トンカツやコロッケに合うように調合した。

  その時、沢山の調味料の中にある物を発見し、俺のテンションがMAXになった。

  そのある物とは醤油だ。

  黒い液体に目が止まり、匂いと味を確認したが、まさしく濃口醤油だった。

  喜んでいる俺を訝しんだラフィが、500年程前に広まり始めた調味料だと教えてくれた。

  前聞いた時には知らないと言っていたが、こちらでは名前が醤油ではなくセイユと言うらしい。

  恐らく、俺の前の転移者が広めたのだろう。

  他にも味噌もあると言っていたので、米と鰹節さえ手に入れれば、日本食を食べるのも夢ではない。

  今から期待に胸が膨らむ。


  「いつ迄ニヤけてるのよ・・・。嬉しいのはわかったから、早く行きましょう?」


  「いやぁ、まさかこんな所で醤油を見つけるなんて思ってなかったからさ!これで味噌とお米が手に入ったら、久しぶりの日本食を食べられるよ・・・前の転移者グッジョブだよ!これとお風呂に関しては良い仕事した!」


  俺はテンションが高いままラフィに答えながら片付けをする。

  ララとアギーラは喜ぶ俺を苦笑しながら手伝っている。


  「まぁ嬉しいのはわかりますよ・・・やっぱり故郷の料理は食べたくなりますからね!ミクラスなら色んな調味料や食材が手に入りますから、行った時には案内しますよ!」


  「ありがとうララさん!ところで、何でミクラスなら色々と手に入るの?」


  「前私の家で説明したでしょ?ミクラスは人を貸し出してるって。他の国に出ていた人達が、ミクラスに帰る時に色々と持ち帰るのよ。それを国が買い取って市場の反応を見て、売れそうな物は輸入するのよ」


  「そうです!作物なんかは、育てられる物は改良をして自国で育てます。うちの国民は国王選抜や戦の時以外は、男衆は若手の訓練をしつつ作物を育て、女性や年配の人達は大抵他の国へ行って手伝いをしたり色々と技術を学んできますから、そういったのには慣れてるんです!育てられるなら輸入するより安くなりますから、農業には結構力を入れてるんですよ!まぁ土地が土地だけにかなり苦労しますけど、血気盛んな人達ばかりなので、意地でも作ろうと頑張ってますよ!」


  ララはラフィの説明に補足し、胸を張っている。

  ミクラスは砂漠の中にある巨大なオアシスに作られた国だと言っていた。

  そんな場所では作物を育てるのはかなりの苦労が必要だろう。

  だが、過酷な土地で国民総出で共に努力をしているという事は、いざという時の結束も強い。

  しかも戦に備え、常に互いに切磋琢磨している。

  帝国よりも人口は少ないらしいが、それでもミクラスが戦闘国家と言われ一目置かれているのは、獣人という種族の持つ身体能力の高さだけではなく、勤勉さと、いざという時の結束力もその理由だろう。


  「ミクラスには昔何度か立ち寄ったが、なかなか活気に溢れた良い国だったな・・・市場には色んな国の食材が並び、食い物も沢山あった。中には訳のわからない物もあったが、それはそれで楽しめた」


  アギーラは懐かしむように呟き、笑顔で頷いた。


  「じゃあ、帝都に行った後はミクラスに向かってみる?ララさんも一度は帰ってお兄さんに会った方が良いと思うし、何よりイフリータに会いに行くなら避けて通れないしね。まぁミクラスは帝国からは山を越えて隣だし、次に向かうのにも丁度良さそうだしね!ぶっちゃけ砂漠を行くなら、疲れが出てる後からじゃなくて、早めに済ませたいのが本音なんだけど・・・」


  俺が提案すると、ララはあからさまに嫌そうな顔をしたが、しばらく腕を組んで唸り、重い口を開いた。

  故郷の話をしている間は楽しそうだったが、いざ行くとなると話は別らしい。


  「わかりました・・・正直兄に会うのは怖いんですけど、この旅を続けるなら兄の協力を得た方が何かと良いと思いますし、頑張ります・・・」


  「無理しなくて良いわよララさん?私も正直ウインダムには行きたくないもの・・・父様の実家の連中から何を言われるかわかったもんじゃないしね・・・」


  2人は互いに見つめ合うと、大きなため息をついた。


  「まぁ、面倒ごとは先に済ませますよ・・・私が出奔したこの7年で、兄が変わってくれている事を祈ります・・・」


  「まぁ、もし帝都で皇帝陛下に会うことが出来たら、今のお兄さんがどんな感じか聞いてみたら?やり取りはしてるだろうし、何かわかるかもよ?」


  「そうですね、皇帝陛下とは兄の戴冠式で一度お会いしてますし、私の事を覚えていそうなら聞いてみます・・・」


  ララは俺を見ると、弱々しく頷いた。


  「そんなに嫌がるって何があったの?」


  俺が何気なくララに問い掛けると、彼女は身体を強張らせる。


  「私がまだ成人する前の話なんですが、私は昔はかなりヤンチャでして・・・男衆に混ざっていつも槍を振り回してたんですよね・・・。私は槍の腕が周りの男衆よりも上だったので、何度となく兄の稽古に付き合わされて、その度に半殺しにされたんですよ・・・武器を持った相手なら、妹だろうが容赦無く叩き潰す・・・そんな人ですよ兄は・・・。まぁ、そのおかげでミクラスでは兄の次に強くなりましたし、王位争奪戦でもかなり活躍しましたが、いまだにトラウマです」


  力無く答えたララは遠くを見ている。

  その瞳には光がなく虚ろだ。

  俺とラフィはそんな彼女を見て居た堪れない気持ちになったが、アギーラは特に変わりはない。


  「まぁ、お前が辛かったのはわかるが、お前の兄は、お前に死んで欲しくなかったのではないか?武器を持ち戦うという事・・・それは死と隣り合わせという事だ。戦場に出るのなら尚更死は近くなる。付け焼き刃では生き残れない・・・だからこそお前に実践の厳しさを学ばせようとしたのではないか?勝ちに偶然はある・・・だが、負けに偶然は無い・・・常に必然だけだ。戦場で負ける時、それは死を意味する。負ける時と言うのは、経験や力量不足、相性、諦め、色んな要素があるが、何より一番怖いのは油断だ。あと少しで勝てる・・・そんな時こそ心に隙が生じてしまう事がある。お前の兄は、そう言った不安の目を摘み、お前を死なせないために敢えて厳しい稽古をつけたのではないかと俺は思う・・・」


  「本当にそうだったら嬉しいですけど、あの筋肉馬鹿にそんな配慮が出来るとは思えませんよ・・・私が出奔する時だって、戦う事か女にしか興味無い感じでしたからね!流石に呆れて大喧嘩して出てきてやりましたよ!!」


  ララは励ましてくれたアギーラに、半ば諦めたように答える。

  アギーラはそれを見て苦笑し、それ以上何も言わなかった。


  「妹さんにはどうだったの?」


  「妹には滅茶苦茶甘かったですよ!妹も私並みにヤンチャでしたけど、まだ小さかったのでそれはもう異常な程の可愛がり方でした!今思い出しても腹が立ちます・・・。妹は、私が兄との稽古で半殺しにされる度に泣きながら手当をしてくれた優しい子です。可愛いし天使です!でも、いくら何でも贔屓は良く無いと思いませんか?」


  俺は地雷を踏み抜いたと後悔した。

  ラフィとアギーラは俺を見てため息をつく。

  ララはヒートアップしている。

  俺の友人も歳の近い弟や妹より、歳が離れていた方が可愛いと言っていた。

  俺もその気持ちは分からなくも無い。


  「えっと・・・ミクラスで妹さんにも会えたら良いね!それを楽しみにすれば良いんじゃ無いかな!?」


  俺は冷や汗を流しながら、苦し紛れにララに提案した。

  

  「えぇ!それが一番の楽しみですよ!!」


  ララは満面の笑顔になる。

  何とか誤魔化せたようだ。

  ララがチョロインで良かったと心底安堵した。


  「さてと、片付けも終わったし行きましょう?」


  ラフィは、すでに片付けは済んではいたが、ララが落ち着くのを待って笑顔で言った。

 

  「じゃあ、店主と酒場のマスターにお礼とお裾分けをしてから発とうか」


  俺は皆んなに伝え、部屋に荷物を取りに戻った。

  

  

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