第52話 槍の性能
「さて、夕飯も済ませたし、塩漬けした肉が乾いてたら燻し始めるよ。今夜は一晩かけて燻すから、見張りは燻製の方も火が消えない様に見張っててね!」
「任せてくださいアキラさん!今夜は寝ずの番をしても構いませんよ!」
ララが怪しい光を灯した目で肉を見ながら言ってきた。
「それはダメよララさん・・・明日に響くわよ?」
ラフィは呆れた顔でララを窘めた。
「そうだよララさん・・・燻製は逃げないからゆっくり休もうよ。朝ごはんを楽しみにしながら休むのも良いもんだと思うよ?」
「うぅ・・・わかりましたよ・・・。お2人がそこまで言うなら休みます・・・」
ララは見るからに残念そうだ。
俺とラフィはそれを見て苦笑してしまった。
「取り敢えず乾いてるみたいだから、今から燻すよ!ラフィ、良かったら火を着けてみる?」
俺は乾いた肉を簡易燻製器に吊るし、ライターをラフィに渡した。
彼女の表情が明るくなる。
「やってみたいわ!ずっと気になってたのよね!」
「良いなぁ・・・」
喜ぶラフィとは対照的に、ララは指をくわえて眺めている。
「次に使うときはララさんにお願いするよ!それじゃあラフィ、そのギザギザの付いた歯車みたいなのを、指で押す様にして回してみてくれない?」
「わかったわ!えっと・・・これで良いかしら?」
ラフィが恐る恐る火を着ける。
「やっぱり便利な道具ね!これなら、こっちの世界でも売れるかもしれないわよ?」
俺の持っているクルミの木の枝に火を着けながらラフィが呟く。
確かにライターを量産出来れば一儲け出来るかもしれない。
だが火打石の加工や、オイルの問題もある。
そう簡単にはいかないだろう。
「ドワーフなら造れそうですよね・・・彼等は見た目によらず、手先が器用ですから」
「そうね!今度ドライセルに行った時にでも試しに聞いてみましょう!」
ラフィははしゃいでいる。
火を着けたままのため、非常に危ない。
「ラフィ、火を持ってるときは暴れないでよ・・・」
「あ・・・ごめんなさい!」
俺が注意すると、ラフィは慌てて謝った。
「あとは煙が消えない様に見張るだけだね!うまく行けば、明日の朝はウサギの燻製だ!」
「待ち遠しいわね!」
「さっき食べたばかりですけど、すでにお腹が空いてきました・・・」
笑顔の俺とラフィの横で、ララがヨダレを垂らしている。
ラフィはため息をついてララの口元を拭いている。
普段は俺がラフィのヨダレを拭いているが、今日はラフィがララのヨダレを拭いてやっている。
見慣れない光景に、なんだか変な気分になってしまう。
「そう言えばララさんの槍ってどうなったの?試してみた?」
俺はウンディーネによって変化したララの槍を見ながら問い掛けた。
「そう言えばまだですね・・・ちょっと試してみましょうか?」
「ワクワクするわね!」
ララは槍を手に持ち、構えている。
俺とラフィは少し離れて様子を伺う。
だが、ララの槍は全く反応しない。
「どう言う事でしょう?」
「まさか、変わったのは見た目だけじゃないわよね?」
ララとラフィは槍を見ながら首を傾げている。
「ただ構えるだけじゃなくて、想像してみた?例えば、水の壁とかさ・・・」
「ふむ・・・こんな感じですかね?」
ララは俺の言葉に頷き、もう一度槍を構える。
「おおおおお!?なんじゃこりゃあ!!?」
ララが慌てて槍を落とした。
彼女の目の前には、人一人分程の広さの水の壁が現れたのだ。
「凄いわね・・・これって盾の代わりになるのかしら?」
ラフィは石を拾って、水の壁に向かって投げた。
「あいたっ!?ラフィさん酷いですよ・・・」
ラフィの投げた石は、水の壁を貫通し、その後ろに立っていたララの額を直撃した。
ララは額を押さえてうずくまっている。
「あっ、ララさんごめん!!まさか貫通するなんて思ってなくて・・・」
ラフィは慌ててララに近づき、額にハンカチを当てながら謝った。
「うーん・・・このままじゃダメって事か。ララさん、この壁を出したままで、水をループする様に出来ないかな?前面は上から下に、後面は下から上に行く感じでさ・・・」
「わかりました・・・やってみますね!」
額を押さえながら立ち上がったララは、もう一度槍を構え、壁に意識を集中した。
「ラフィ、もう一度石を投げてみてくれない?」
「えっ!私が!?もうララさんに打つけたくないんだけど・・・」
ラフィは渋りながらも石を拾い、今度は軽く投げた。
すると、ラフィの投げた石は壁に触れるなり摩擦音を発しながら砕けた。
「おおおおお!やりましたよ!?見ましたか!?」
ララのテンションが上がる。
ラフィも口を開けて驚いている。
「成功して良かったよ・・・。その槍ってさ、確かに便利だけど、能力を使用する時は結構細かく想像しないとダメみたいだね・・・。まぁ、盾としてはかなり優秀だけど、咄嗟に出せるように訓練した方が良いと思うよ。次は何か攻撃出来ないかな?」
「水で攻撃・・・津波でしょうか?」
ララは首を捻りながら呟いた。
「それはやめようねララさん・・・。どれだけの規模の津波が出るかわからないからさ・・・取り敢えず、水の玉を想像してみてくれないかな?それを遠くに撃ち出す様に想像してみて!」
「はい!では、いきますよ!」
ララが返事をすると同時に、彼女の頭上に水の玉が出来上がる。
その玉は、フワフワと宙に浮かんでいたが、一瞬にして目の前の木に向かって飛んで行った。
破裂音が響き、木の幹が大きく抉れている。
「ララさん・・・これを使う時は周りに注意しようね・・・。小さい玉を撃ち出したら、たぶん人間は貫通するよ・・・」
俺は震える声でララに言った。
彼女は顔を真っ青にしながら勢い良く何度も頷いた。
「他にも試したいですけど、この槍使うの結構疲れますね・・・」
ララは気を取り直して呟いた。
彼女の表情は、たった2度槍を試しただけで疲労が浮かんでいる。
「また明日試してみよう。何回まで使えるかとか調べた方が良いと思うよ・・・。ララさん、ありがとうね!これで今日はゆっくり休めるよ!」
「あはは、そうですね・・・申し訳ないですが、今日は先に休ませて貰います・・・」
彼女はそう言うなり、あっと言う間に眠りに落ちた。
「やっぱり便利なだけじゃ無かったね・・・。ララさんには無理させないように気を付けよう」
「えぇ、わかったわ・・・いざという時にララさんが倒れたら困るしね!」
俺とラフィは頷き合い、爆睡しているララを見つめた。