第50話 精霊からのプレゼント
「あの・・・ウンディーネ様だったかしら?良かったら、私達の話を聞いて貰いたいのだけど・・・」
胸を張るウンディーネを、呆れたように見ながらラフィが話し掛けた。
「何かしら?せっかく出て来たのに、つまらない話だったら怒るわよ?」
ウンディーネは、宙に浮いたまま腰掛ける姿勢になり、腕を組んだ。
「えっと、俺から話しますよ・・・。ウンディーネ様は、貴方達の様な人ならざる存在がこの世界から消えて行った原因が、俺のような異世界人だという事をご存知ですか?」
俺が話し出すと、途端に面倒臭そうにしていた彼女だったが、今は口を開けて唖然としている。
「え・・・何それ?その情報どこ産よ!まさか私達の力が弱まったのはあんたの所為なの!?」
「いやいや、流石にただの人間じゃ何百年も生きられませんて!俺の前の転位者が現れた時からですから、俺の所為じゃないですよ!?」
怒り出した彼女を、俺は慌てて宥めた。
彼女が知らない事が意外だ。
「それもそうね・・・話を続けなさい!」
「水の精霊なのに熱くなりやすいわね彼女・・・」
「ですね・・・予想の斜め上です」
踏ん反り返る彼女を見て、ラフィとララは小声で話している。
「実は先日、俺を転位させた奴が夢の中に現れたんです・・・。そいつは、昔から転位者を使ってこの世界を変えようとしているようです・・・そいつについての情報を何か知りませんか?」
ウンディーネは俺の言葉を聞いて、俯いて思案している。
「どんな情報でも良いんですけど・・・」
俺が待ちくたびれて聞き直すと、彼女はゆっくりと口を開いた。
「少し待ってなさい・・・リヴァイアサン様に確認してくるわ」
彼女はそう言うと、溶けるように消えてしまった。
「何か強烈な精霊でしたね・・・」
「そうね・・・」
ラフィ達は疲れたように項垂れている。
「誰かに似てるって思ってたんだけど、ラフィとキャラ被ってるよね・・・傍若無人なところとか、口より先に手が出るところとかさ・・・」
「はぁ?何言ってんのよ!私があんな凶暴な訳ないでしょ!?」
ラフィは怒鳴りながら俺の胸ぐらを掴んだ。
「ラフィさん・・・」
ララが苦笑してラフィを呼ぶと、彼女は自分の行動に気が付いたのか、慌てて手を離した。
「ほらね・・・なんと言うか、性格が似てるんだよね・・・まぁ、ラフィの方が可愛げがあるけどね!何をしたら怒るのかわかるからさ!」
俺がそう言うと、ラフィは照れ臭そうにしている。
別に誉めた訳では無いのだが、彼女が良いならわざわざ刺激する必要は無い。
「その割には良く怒らせてますよね・・・」
ララが小さく呟いたが、聞かなかった事にした。
『私が居なくなったからって好き勝手言ってんじゃないわよ!全部聞こえてんのよ!?』
俺達が話しているとウンディーネの声が聞こえ、俺は慌てた。
「ひぃっ!すんません!!」
『あと少しで戻るから大人しく待ってなさい!次何か悪口言ったら溺死させるわよ!?』
俺は涙目で謝り、それ以降沈黙した。
ラフィ達は、そんな俺を見てためいきをついていた。
「ただいま・・・えらい目に遭ったわ・・・」
待つ事30分、やっとウンディーネが帰って来た。
彼女は先程と違い、やつれて見える。
「おかえんなさい・・・何かありました?」
「リヴァイアサン様に、あんたから聞いた話しをしたのよ・・・そしたら、滅茶苦茶怒って暴れ出してさ・・・。珊瑚で出来た硬い床や天井が砕けて、危うく潰されるところだったわ・・・」
彼女の顔は恐怖で引きつっている。
相当怖かったのだろう。
「それはお疲れ様でした・・・それで、何かわかりましたか?名前だけでも良いんですが・・・」
「ははは・・・まさかあんたに心配されるなんてね・・・まぁ、ありがと・・・。取り敢えず、一応話は聞いて来たわよ!ただ、その前にあんたに聞いておきたいの・・・あんたは、そいつの事を聞いてどうするの?」
彼女は俺の目を見て問い掛けた。
先程までと違い真面目で、彼女が精霊である事を思い出させる様な威厳のある表情だ。
「俺は・・・奴を止めたい。自分に都合の良い様に世界を変えるなんて間違ってる・・・そこで暮らしている人達の生活を壊すなんて許せない!俺は奴によって、無理矢理この世界に連れてこられた・・・でも、そのお陰でラフィやララさん達に出会えた。俺は彼女達や今まで関わった人達が好きだ・・・この世界が好きなんだ!だから、なんとしても奴を止めたい!」
彼女は、俺の言葉を黙って聞いていた。
目を瞑り、一語一句を聞き逃さない様にしっかりと耳を傾けていた。
「私は、正直あなたの事を軽く見ていたわ・・・でも、今のあなたの言葉に嘘は無かった・・・。良いでしょう・・・主人からの言葉を伝えるわ!」
彼女は優しい笑みを浮かべて俺を見た。
その表情は息を飲むほど美しかった。
「あら、私に見惚れてるの?私も罪な女ね・・・」
「ウンディーネ様・・・台無しです!もうちょっと保たせましょうよ!?」
「あんまり真面目な空気って好きじゃないのよね・・・だって、息がつまるでしょ?」
俺が注意すると、彼女はいたずらっぽく笑った。
「さて、じゃあ主人の言ってた事を伝えるわね!あの方も、そいつについては多くは知らないらしいわ・・・ただ、そいつも異世界から流れて来た神だと言ってたわ。最初はこの世界の神々と比べても力が弱かったらしいんだけど、500年前・・・あなたの前の転位者が現れた時を境に、急に力が増したそうよ・・・力を隠していたのかもしれないわね。その力は凄まじく、瞬く間に他の神々や精霊、魔族達を封印して今に至るそうよ」
彼女は主人に聞いて来た事を伝え終わり、椅子の背もたれにもたれかかる様な格好でクルクルと宙を回っている。
緊張感の無い奴だ。
こんな性格だから、自分の力が弱まった原因も知らなかったのだろう。
「そうですか・・・ありがとうございました。お騒がせしてすみませんでした・・・。ラフィ、ララさん、行こうか?」
「ちょっ!ちょっと待ちなさいよ!?」
俺が礼を言って去ろうとすると、彼女は慌てて引き止めた。
「あなた、そいつを止めるって言ってたけど、何か策があるの?」
「いえ、まだ探してるところですけど・・・」
彼女は呆れた様に肩を落とした。
「私達を頼って来るかと思ったのに、あっさり帰ろうとして焦ったわよ・・・。あの方からもう一つ言われてる事があるんだけど・・・聞きたい?」
彼女は不敵に笑っている。
「えぇ・・・一応聞いておきたいですね。まだ何もわからない状況なので、どんな情報でもありがたいです」
「あの方がね、もしあなたが奴に敵対する気があるなら、力を貸すと言ってたわよ!!どうよ!感謝しなさい!!」
彼女は胸を張って踏ん反り返る。
「やったわねアキラ!?」
「これはかなり力強い後ろ盾が出来ましたよ!リヴァイアサン様と言えば、四元素を司る一柱ですから、かなりありがたいですよ!」
項垂れていたラフィ達は、ウンディーネの言葉にはしゃいでいる。
「力を貸していただけるのは嬉しいんですけど、封印されてるんですよね?具体的にどういう利点があるんでしょうか?」
「これを持って行きなさい!これを持っていれば、海人族に襲われず海を渡れるし、他の神々や精霊に会う時にも無碍にされる事は無いわ!それと・・・そこの猫人族のララだったかしら?その槍を貸しなさい!」
彼女は、俺に青い宝石のはまった指輪を渡し、ララから槍を無理矢理奪った。
「あぁっ!私の槍・・・」
ララは涙目で指を咥えている。
「安心しなさい・・別に指輪の代わりに奪ったりはしないわよ・・・。この先、神に名を連ねる者を相手にするのに、普通の武器じゃ不安だろうし、これは私とあの方からのプレゼントよ!大事に使いなさいよ!?」
ウンディーネは、ララから奪った槍に手を添える。
すると、槍が青白い光に包まれ、形が変わっていく。
光が収まると、そこには青く輝く刃先を持った三又の槍が現れた。
「おおお!?私の槍がとんでもない姿に!!ヤバイ・・・カッコイイ!?」
ララはウンディーネから槍を受け取り、頬擦りをしている。
「あら、貴女良い美的感覚を持ってるわね!プレゼントした甲斐があるわ!その槍を持っていれば、水を操る事が出来るわよ!どういう風に使うかは貴女次第・・・攻撃に使うもよし、防御に使うもよしよ!ちなみに、その槍から水を飲む事も出来るわよ?」
至れり尽くせりの万能武器が手に入った。
砂漠にあるミクラスに行く時には重宝しそうな槍だ。
「ありがとうございます!ご恩に報いる為にも、奴を止めてみせますよ!」
「ふん!ありがたいと思うなら、またここに来なさい!私も久しぶりに人間と話せて楽しかったわ・・・」
彼女はそう言うと、少し寂しそうな顔をして手を振った。
俺達は、彼女にまた来る事を約束して泉に飛び込んだ。




