第5話 飲兵衛
俺はクルーゼからの尋問を終え、所持品などを返して貰った。
てっきり持って行かれるものと思い諦めていたので、正直嬉しい。
「良かったわね!最初はひやひやしたけど、何とかなったわね!」
「ラフィさん・・・君は何もしてなかったよね?クルーゼさんの隣で赤くなったり焦ったり、ルーカスさんに掴みかかっただけに見えたけど?私が居れば融通が利くって言ってたのは聞き間違いかな・・・?」
俺は、他人事のように明るく言ってきた彼女に迫った。
「無事だったんだし良いじゃない!しつこい男はモテないわよ!」
「別に良いけどさ・・・まぁ、とにかくありがとな!」
彼女が居なければ村に来れなかったのは事実だ。
俺が笑ってお礼を言うと、彼女は赤面して頷いた。
「2人とも、広場に行こう。今、夕食の準備をさせている。今日はアキラ君の歓迎会を兼ねさせて貰うつもりだ!いつ迄かは分からないが、これからは村の一員だからな!」
俺達はクルーゼに促され、村の広場へ向かった。
「ラフィさんや・・・」
「何よ・・・?」
「何これ?」
「気にしたら負けよ・・・。いつもの事だから」
俺は今呆気にとられている・・・。
俺はクルーゼに連れられ、村の広場に来た。
そこまでは良かった・・・。
クルーゼが俺を村の人達に紹介し、乾杯の音頭を取ったその後からが問題だ。
皆が豹変したのだ・・・。
「おい、アキラ君!飲んでるか!?こういった席では飲むのが礼儀だぞ!!」
「あっはい・・・飲んでます・・・」
今話しかけて来たのはクルーゼだ・・・。
さっきまでの威厳は何処に行ったのだろう。
今では飲兵衛のオヤジだ。
「その割には減ってないじゃないか!?まだまだあるんだから、もっと飲め!!」
彼は自分のジョッキから酒を移して来た。
「父様!あまり羽目を外し過ぎないで下さい!!」
ラフィが注意するが、彼は聞いていない・・・。
「クルーゼさん・・・何かさっきまでと違くないですか?」
「何が・・・?おい!酒を持って来てくれ!!」
(まだ飲むのかこのおっさん・・・)
「いや、雰囲気とか色々・・・」
「あぁ、あれは仕事だからな!仕事が終わったら羽目を外す!その日の仕事や嫌な事は、次の日に持ち越さないのが信条だからな!!」
「さいですか・・・」
彼は豪快に笑い、そして酒を浴びる様に飲んでいる・・・。
「ラフィ・・・今、俺の中にあったエルフのイメージが音を立てて崩れ去ったよ・・・」
「あっそ!別に良いんじゃない?夢から覚めて良かったと思いなさい!」
彼女はあっけらかんと答えた。
「なぁ、アキラさん!あんたの持ってた道具ってどう使うんだ?うちの子達が見たがってるんだ!」
先ほど集会所に居た1人の男が聞いて来た。
「あぁ、じゃあ見せましょうか?ラフィも見るか?」
「当然じゃない!私だけ見ないなんて有り得ないわ!!」
(有り得ないのか・・・)
俺がラフィに呆れていると、小さな子供達がやって来た。
(うわ・・・何この天使!めちゃカワじゃねーか!?)
「お兄ちゃん異世界から来たって本当?」
「本当だよ。まぁ、論より証拠だ!異世界の道具を見せてしんぜよう!」
俺は子供達にスマホを見せた。
「何よそれ・・・」
真っ先に食いついたのはラフィだった。
「これはスマートフォンって言って、本当なら遠くに居る人と会話が出来る道具なんだけど、今はその機能が使えないんだ・・・」
「はぁ?だったら意味無いじゃない!馬鹿にしてんの!?」
ラフィは拳を振り上げた。
「ちょい待ち!ラフィ、口より先に手が出るの辞めなよ・・・。これの機能はそれだけじゃ無いんだよ・・・」
俺は彼女を止めて、スマホのカメラを起動させた。
「じゃあ君達、笑って!」
俺が子供達に言うと、彼等はにっこりと微笑んだ。
パシャッ!
「何それ!凄いじゃない!!」
スマホの画面を見ていたラフィが驚嘆の声を上げる。
「なになにー?僕達にも見せてー!?」
「はい、どうぞ!君達だよ!」
俺は子供達に写真を見せた。
「わぁ!これどうなってるの!?」
「これは写真って言って、その時々の光景を記録した物って言ったら良いかな?」
「凄い凄い!もっとやって!」
「じゃあ、次は動画を撮るよ!ラフィ、何かやって!」
俺はスマホのカメラをムービー撮影に切り替え、彼女に言った。
「何かって何よ!?・・・もう、仕方ないわね!」
彼女は子供達の期待の眼差しを見て、仕方なく手を振って微笑んだ。
(やっぱり、こうして見ると滅茶苦茶可愛いんだけどな・・・)
ピッ!
俺は彼女に見惚れつつ彼女の動画を撮った。
「お兄ちゃん!ラフィお姉ちゃんが動いてるよ!?凄いね!!」
俺が撮った動画を子供達に見せてやると、テンションが滅茶苦茶上がった。
「私にも見せなさいよ!」
「はい、ラフィだよ!笑ってると可愛いじゃないか!普段もこうしたら?」
動画を見せると、彼女は自分を見て照れ臭そうにしていたが、俺の言葉を聞いて殴ってきた・・・。
「一言余計なのよ!・・・でも、綺麗に撮ってくれてありがとう・・・」
彼女は顔を赤らめ、嬉しそうにしていた。
「他には無いの?」
彼女が照れ隠しに催促した。
「じゃあ、これなんかどうかな?」
俺はスマホを操作し、音楽を流した。
流行りの曲では無く、クラシックギターの曲だ。
曲が流れ出すと、ラフィと子供達は驚いたが、優しいギターの音色を聴き、目を閉じて聴き入った。
「優しい曲ね・・・聴きなれない曲だけど、嫌いじゃないわ・・・」
ラフィはうっとりとしている。
「アキラ君!何やってんだ!?酒が減ってないじゃないか!?ラフィと乳繰り合ってる暇があったらもっと飲め!!」
俺がラフィ達と音楽を聴いていると、後ろから忍び寄って来たクルーゼに無理矢理酒を飲まされ、俺はダウンした・・・。
「父様!?やり過ぎよ!!アキラが気絶しちゃったじゃない!!」
ラフィの怒鳴り声が聞こえたが、俺はそのまま意識を失った・・・。