第44話 絡まれ体質
「この店だよね・・・?」
「そうね・・・」
「ここ以外には見当たりませんよね・・・」
俺達は宿に荷物を置き、宿の店主に聞いた店の前に来ている。
だが、1人として店の扉を開けようとはしない。
店の壁には至る所に壊れた痕があり、いかにもガラの悪そうな奴等が居そうな店なのだ。
「アキラ、入りなさいよ・・・」
「え!俺から!?」
「か弱い女性に先に入れって言うの!?」
「あはは!ラフィがか弱かったら、俺なんて蟻だよ?寝言は寝てから言った方が良いよ!?」
ドゴッ!!
俺がラフィを馬鹿にすると、鋭いボディブローが鳩尾に突き刺さる。
「笑ってんじゃないわよ!」
「この拳がか弱い・・・?」
「アキラさん、流石にラフィさんが可哀想ですよ・・・」
ララはラフィの味方のようだ。
おれが腹をさすりながら起き上がると、ララが俺を支えながら注意した。
「最近は慣れて来たけど、なかなかキツイツッコミだよね・・・」
「貴方が馬鹿な事を言わなければ、か弱い女性でいられるんだけどね?」
「左様でございますか・・・まぁ、冗談はさておき入りますかね・・・」
俺はダメージから回復して店の扉に手をかけた。
「回復早いなぁ・・・」
ララが俺を見て小さく呟いている。
ギィィィッ!
立て付けの悪い扉を開けると、中に居た客達が一斉にこちらを見る。
(うわぁ・・・やっぱりガラの悪そうな奴ばっかりだ・・・帰りてぇ!)
俺が涙目で背後を振り返ると、ラフィが顎をしゃくって進むように促してきた。
(わかったよ、入ればいいんだろ入れば!!)
俺はラフィを睨んでから中に入り、空いている席を探す。
ラフィとララが店に入ると、男性客達がどよめく。
それは仕方のない事だ。
彼女達は見た目は美人だ。
中身は暴君と飲兵衛で2人揃って露出狂だが、見た目だけは美人だ!!
「姉ちゃん達、こっちで一緒に飲まねぇか!?」
1人のガラの悪そうな男が、ニヤケながらラフィ達に話しかけたが、彼女達は完全に無視をして俺の背後をついてくる。
「アキラ、あそこで良いんじゃない?」
「そうだね、じゃああの席に座ろうか?」
俺はラフィが指差した方向を見て、席が空いているのを確認し、席に着いた。
「いらっしゃい、注文は?」
俺達が席に着くと、1人の男性が近付き話しかけてきた。
服装からはわからなかったが、店員のようだ。
「取り敢えず腹の足しになる物と、お酒をください・・・」
「はいよ・・・適当に持って来るから、ちょっと待ってな・・・」
店員は注文を聞き終えると、愛想の無い返事をして店の奥に消えた。
「態度悪いわね・・・」
「まぁ、客が客だし仕方ないんじゃない?」
「私が客商売のなんたるかを叩き込んできましょうか?」
ララは物騒な事を言い出した。
「ララさんって案外武闘派なんだね・・・」
「そりゃあそうですよ・・・こう見えても兄と一緒に殺し合いの戦闘を何度か経験してますからね!」
彼女は自慢気に胸を張った。
大きく柔らかな双丘が上下に揺れる。
俺を含めた男性客全員が彼女の胸に釘付けになる。
ゴッ!!
俺の脛に激痛が走った。
「ーーーー!?痛いなぁ!何すんのさ!?」
「貴方の目がいやらしいから、目を覚まさせてあげただけよ?」
ラフィは澄まし顔だ。
(俺の時ばっかり・・・!)
俺は涙目でラフィを睨み、蹴られた脛をさすった。
「おまちどう・・・また何かあったら呼んでくれ・・・」
俺が脛をさすっていると、先程の店員が酒と料理を運んできた。
運ばれて来た料理は、蒸したジャガイモ、干し肉、パンだ。
ジョッキには生温いエールが波々と注がれている。
「はぁ・・・食べようか・・・」
「そうね・・・」
「いただきます!」
俺達はそれぞれパンやジャガイモ、干し肉を口にする。
「あれだね・・・何と言ったら良いのか・・・」
「素材の味ね・・・」
「干し肉は意外とイケますよ?」
ララは干し肉を食いちぎりながら、生温いエールをがぶ飲みしている。
「まぁ、贅沢は言ってられないし黙って食べようか・・・」
「そうね・・・」
俺とラフィは相変わらず無表情で味のしない夕飯を食べ続ける。
「おい兄ちゃん、えらいベッピンを2人も連れて羨ましいな!?」
1人の男が俺に絡んで来た。
「それはどうも・・・」
俺は気の無い返事をしながら食事を続ける。
「1人くらい譲ってくれよ?金なら出すぜ?」
男はなおも俺に絡み、金の入った袋を見せて来る。
「彼女達は物じゃないんでね、女を買いたいなら歓楽街にでも行ってくれ・・・」
ラフィとララは男を殺気の篭った目で睨んでいる。
(ちょっと君達・・・俺より血の気が多くない?)
俺は彼女達を見て、内心ヒヤヒヤしながら無表情を決め込む。
「下手にでてりゃ調子に乗りやがって!!」
男が俺の胸ぐらを掴み無理矢理立たせた。
(はぁ・・・結局こうなるのね・・・)
ラフィとララは席を立ち身構える。
「あのさ・・・あんた耳が悪いみたいだからもう一度言うけど、女を買いたいなら歓楽街にでも行ったらどうだ?口の臭いあんたでも、金を出せば抱かせてくれるかもしれないよ?」
俺は顔を真っ赤にしている男を鼻で笑った。
「馬鹿にしてんじゃ無え!!」
男が拳を振りかぶる。
グキッ!
俺は胸ぐらを掴む親指を握り、指を逆方向にねじ上げる。
「あ痛っ!?痛い痛い痛い!!指が千切れる!!」
男はその場に蹲り悶える。
「飯くらいゆっくり食わせてくれよな・・・店に迷惑掛けたくないんだからさ。酔ってるのかも知れないけど、人に迷惑掛けるような酔い方は感心しないな・・・」
俺は男の指を掴んだまま、至って冷静に話しかけた。
「わかった!わかったから離してくれ!!」
涙目で懇願する男を一瞥し、俺は手を離した。
「誰彼構わず喧嘩を売るなよ・・・俺は面倒ごとは嫌いなんだ・・・」
男は逃げるように自分の席に戻っていく。
周りの客はその男を鼻で笑っている。
俺は男が戻ったのを確認し、席に着いて夕食を再開する。
「貴方は相変わらずね・・・」
「この前もそうでしたけど、アキラさんって怒るとエゲツないですよね・・・滅茶苦茶痛いですよアレ・・・」
ラフィとララは呆れたように俺を見る。
「やるからには早めに決着を付けないとジリ貧だからね・・・無駄に殴り合うより、急所を狙った方が即座に無効化出来るし、相手の戦意を失わせられるからさ・・・。それに、長引けば君達にも危害が及ぶかもしれないだろ?」
「なんだかんだ言って、アキラが喧嘩する時は私達の為よね・・・感謝してるわ!」
ラフィは少し照れながら笑顔で言った。
「はぁ・・・もし私が先にアキラさんと会ってたら、絶対に私のお婿さんにしてたのに・・・!」
(まだ諦めてなかったのね・・・)
俺はララの言葉に苦笑した。
「あら、私は別に重婚は気にしないわよ?ララさんと一緒なら楽しそうだしね!」
「本当ですか!?いやぁ、実を言うと国を飛び出した理由は結婚相手探しだったんですよね・・・でも、なかなか良い人に巡り合えなくて、今じゃ立派な行き遅れですよ・・・」
そう言ったララは遠い目をしている。
「なら丁度良いじゃない?ララさんは相手に何か希望があるの?」
「私より強い人ですね!もしくは、私より強くなくても、ある程度戦い方を知ってる人が良いです!それこそアキラさんは、私の知らない戦い方をしますし、何より容赦が無いのがカッコイイです!!」
「あのさ・・・勝手に話しを進めないでくれる?本人が目の前に居るんだから確認しようよ・・・。前にも思ったけど、猫人族の女性ってマゾなの?」
俺はため息をついて彼女達を諌めた。
「あ、すみません!」
「何よ・・・貴方は嫌なの?」
「嫌とかそんな事じゃなくて、俺自身は重婚には抵抗があるんだよ・・・どっちか片方に惚れ込んじゃったら、もう1人が可哀想だろ?俺にはどっちも同じくらい愛するなんて器用な真似は無理だよ・・・。それに、いつ迄こっちに居れるかわからないしね」
「貴方は相変わらず堅いわね・・・ルーカスみたいだわ・・・」
ラフィは苦笑している。
「アキラさんは愛妻家になりそうですね!はぁ・・・ラフィさんが羨ましいなぁ・・・」
「まぁ、まだ先の事はわからないよ・・・」
俺は落ち込むララを慰めながら干し肉を千切った。
ララの言う通り干し肉は意外と美味しかった。