第40話 金策の手段
俺達は今、ダリウスの行きつけの酒場で夕飯を食べながら話をしている。
クルーゼ曰く、彼はあまり人前に出ない方が良いと聞いていたが、なんだかんだでよく飲み歩いてるらしい。
「お前等は明日発つんだよな、何処から行くんだ?」
彼はかなりの量の酒を飲んでいるが、あまり顔には出ていない。
普段と変わらない口調で聞いてきた。
「そうですね・・・この街から少し離れた場所に祠がありましたよね?確か水の精霊を祀っている場所だったと思いますが・・・そこなら帝国の管轄外になってるみたいですし、まずは帝都に行く前に、そっちに寄ってみようと思います」
「あぁ、確かにあったな・・・隠れた場所にあるから見落としやすいんだよなあそこは・・・」
彼は肩を竦めた。
「そんなにわかりにくいんですか?」
「あぁ・・・洞窟の中に泉があるんだが、入り口が樹木に覆われて隠れてんだよ・・・。昔はしっかりと管理されてたんだが、精霊達が姿を見せなくなってから信仰も廃れちまってな・・・今じゃ荒れ果てて人は寄り付かねぇよ。だから、帝国も放置してんだ・・・」
彼のくれた地図には、世界各地の祠や遺跡の場所が記してあった。
その中には、帝国や他の国々の管轄下にある場所や、廃れた場所も記してある。
短時間でそんな場所まで事細かに記してあるという事は、彼の持つ情報量が桁違いだという証拠だろう。
「そんな場所に行ったとして、本当に会えるんでしょうか・・・?」
ララが不安そうに呟いた。
確かに彼女の言う通り、長い事放置され、荒れ果ててしまった場所で精霊に会えるかはわからない。
だが、帝国領内にある他の祠や遺跡は、その殆どが帝国の管轄下にあり、易々とは入る事が出来ない。
入るには政府の許可が必要だ。
「まぁ、時間は限られてるけど仕方ないわよ・・・居る居ないは置いといて、何か手掛かりが掴めたらそれだけでもありがたいわ!」
「そうだね・・・実際殆ど何も手立てがない状況だし、何か手掛かりになるものが無いか調べるだけでも良いから、手当たり次第に回る必要があるよね・・・」
「長い旅になりそうですね・・・お金足りるかな・・・」
俺達は今後を考えて不安になり、溜息を吐いた。
「金なら俺のツテで融通出来るぞ?」
ダリウスは何気無く言ってきた。
ラフィとララは明るい表情を見せたが、俺は正直気が進まない。
借りたとしても、返す当てがないのだ。
それに、もし奴に辿り着けなかった場合、彼の厚意を無駄にしてしまう。
「ダリウスさん・・・ありがたい話なんですけど、お気持ちだけ戴いておきますよ・・・」
「気にする事は無えよ!今の状況なら協力してなんぼだろ?お前等には負担を掛けちまうし、その位はさせてくれ!」
「いえ・・・やっぱり借りれません・・・。すでにクルーゼさんにも借りてますし、これ以上は駄目だと思います。それに、ダリウスさんには今後も情報収集をして貰わないといけませんから・・・。もしお金が足りなくなったら、自分で稼ぎます!そして、クルーゼさんにちゃんと借りたお金を返して、ダリウスさんにもまとめて情報料を払います!それは、自分で稼いだお金じゃないと駄目なんです!」
俺がそう言うと、ラフィとララは何か言いたそうにしていたが、諦めた様に苦笑して頷いた。
「ははは!言うじゃねぇかアキラ!?そうだな・・・男なら、借りっぱなしは良く無えよな!わかった、情報料はツケとくぜ!たんまり用意しとけよ!?銅貨一枚だってまけねえからな!!」
ダリウスは豪快に笑った。
彼が俺を見る目が、少しだけ変わった様に感じる。
「えぇ!?そこは知り合い料金で安くなりませんか!?」
「やだね!お前から言ったんだからな!まさか、今更無しとは言わねえよな?この前馬鹿ども相手に大見得切ったお前がそんな事はしねぇよな!?」
「ぐぬぬ・・・返す言葉も無い・・・」
俺が言い返せずに口籠ると、彼はそれを見てさらに笑った。
「冗談だよ!男のケツの毛まで毟る趣味は無えからな!まぁ、気長に待っとくよ・・・金よりもお前等の方が大事だからな!無事に帰って来たら、特別料金にしてやるよ!!」
彼は強面の顔には似合わない優しい表情で言ってきた。
俺は彼に頭を下げ、つられて笑顔になった。
「アキラ、お金を稼ぐにしてもどうするの?正直、私は自信無いわよ?」
「そうですよ!何か良い案があるんですか!?」
彼女達は不安そうに聞いてきた。
「あるにはあるよ?ただ、許可が要るとなると考えるけど・・・」
「へぇ・・・何をするつもりなんだよ?」
ダリウスは興味深げに聞いてきた。
「ダリウスさん、屋台を出すのって役所とかの許可は要りますか?」
「大きな街ならたまに必要になるが、基本的に必要無えよ。ただ、街の馬鹿な連中がみかじめ料を取ろうとする事はあるな・・・」
彼は少しだけ考え込んで答えた。
「基本無許可なんですね?なら大丈夫かな!」
「で、結局何の屋台にするのよ?」
ラフィが少し苛つきながら聞いてきた。
彼女は回りくどいのは苦手だ。
俺以上に我慢を知らない。
「ラフィは前食べただろ?唐揚げだよ!あれなら簡単に作れるし、その場で食べられるから、他の人達への宣伝効果もあるからね!!それを、移動式の屋台に出来たら良いなって思ってるんだよ!移動式なら、色んな場所で情報収集も出来るしね!」
「あぁ、あれね!あれなら確かに良いわね!?一口で美味しく食べられるし、材料もそんなに高くないから良いかも知れないわね!!」
俺とラフィは互いに笑顔で話していたが、ララとダリウスは何がなんだかわからないといった表情だ。
「唐揚げってなんだよ?ラフィお嬢ちゃんがそんなに喜ぶってことは、美味いのか?」
「唐揚げって言うのは向こうの料理なんです!漬けダレの味を染み込ませた鶏肉に小麦粉をまぶして、油で揚げるんですけど、カリカリに揚がったころもが肉汁を閉じ込めてくれるので、噛んだ時にタレと肉汁が溢れてきて美味しいんですよ!クルーゼさんも気に入ってくれてました!!」
俺が唐揚げについて説明すると、2人が唾を飲み込むのがわかった。
ララはヨダレを垂らしている。
可愛い顔が台無しだ。
(どうして俺の周りの女性はこうだらし無いんだろう・・・)
俺は内心呆れてしまった。
「なんだか滅茶苦茶美味そうだな・・・アキラ、この店の厨房を借りて作ってみてくれよ?この店のオヤジは知り合いだから、頼めば貸してくれるからよ!」
「私も食べたいです!」
2人は目を輝かせて詰め寄ってくる。
「材料次第ですからまだ出来るかわかりませんよ?」
俺は席を立ち、ダリウスと一緒に店主に話をし、厨房と食材を借りて唐揚げを作り始めた。
ラフィも隣で俺を手伝い、ララとダリウスは俺達が作るのをジッと見ていた。
ちなみに、店主も2人と一緒になって見ていた。
「はい、出来ましたよ!熱いから気を付けてくださいね?」
俺とラフィは唐揚げを作り終え、彼等に振る舞った。
結構な量を作ったので、その日来ていたお客さん達にも少しづつ分けてあげた。
「良い匂いです!!」
「おぉ、こりゃあ食欲が湧くな!!じゃあ、早速・・・」
俺とラフィは彼等の反応を黙って見守る。
正直かなり緊張する。
この場の人達の反応が微妙だった場合、屋台は諦める必要がある。
「アキラさん、ラフィさん・・・2人共私と結婚してください!!そして、これを毎日作ってください!お願いします!!」
ララは目に涙を浮かべて縋り付いてきた。
「こりゃあ美味ぇな!酒の肴にも丁度良い!これなら間違い無く売れるぜ!!」
ダリウスは酒を飲みながら唐揚げを摘んでいる。
あっと言う間に食べ終えてしまった。
他のお客さんも口々に絶賛し、店主には材料代の代わりにレシピを教えてくれと頼まれた。
「アキラ、良かったわね!これなら旅の途中でも商売が出来そうだわ!!」
そう言ったラフィは笑顔だった。
俺も笑顔で頷き、皆の反応に安堵した。