第4話 やっぱり異世界
俺はエルフの村へと連れて行かれ、村にある集会所へと案内された。
そこには、多数のエルフの男性が座っている。
皆かなりの美形だ。
俺は、集会所に入る前、服を着替えた。
ここでは珍しい素材らしく、調べるために、他の持ち物と共に押収された。
俺はそれに大人しく従った。
抵抗しては、ラフィの立場が悪くなると思ったからだ。
「御協力感謝する。娘の恩人に対し失礼とは思うが、色々と聞かせて貰いたい。我々も、全ての人間が悪であるとは思ってはいない・・・だが、ただ聞いただけでは信用する事が出来ないのだ。理解していただけるか?」
「ラフィ・・・娘さんから話は伺っています・・・。貴方の判断は間違っていないと思います。なので、聞かれた事には嘘偽りなく答えるつもりです」
「助かるよ。改めて紹介させて頂く。私はクルーゼ・ウインダム・・・この村の長で、隣にいるラフィエルの父だ。彼女は、私が男手一つで育てたため、少々乱暴に育ってしまった・・・。彼女に何かされなかったかな?」
彼は俺に頭を下げて話を始めた。
「俺は東雲 晃です。娘さんには本当にお世話になりました。まぁ、起こし方が少し乱暴でしたが・・・」
「そうか、それは失礼をした。娘に変わって謝罪しよう。それにしても、シノノメアキラ・・・珍しい響きの名前だ」
彼は小さく声を漏らしながら笑っている。
ラフィは恥ずかしそうに頬を赤らめ、俺を睨んでいる。
「そのようですね、娘さんにも言われました。なので、アキラと呼んで頂いて構いません」
「ではアキラ君、まずは君の所持品について聞きたい。見た所、君の着ていた服は素晴らしいの一言に尽きる・・・。素材、染色、裁断、縫製全てが我々の理解を超えている・・・これ程の物は、王侯貴族でも持ってはいまい。それに、他の所持品もそうだ・・・我々には何に使うのかすら検討が付かない。我々エルフ族は、人間よりも長い年月を生きる・・・少々排他的で、あまり村から出る事は無いが、それでも情報は入ってくる。だが、君の着ていた服や所持品を製造出来る国など、我々は知らない・・・。君は一体どこの国から来たのだ?」
彼は困惑の表情で問い掛けてきた。
俺が見た限り、彼等の生活水準は中世の西洋文化に近く見える。
彼等にとって、俺の所持品は明らかにオーバーテクノロジーだ。
「俺の住んでいた国は日本と言います。国土はそこまで広くはないですが、人口は1億3000万人と言ったところです。資源が少ない代わり、技術力では世界でもトップクラスみたいです・・・」
俺の言葉に、その場の人達は驚愕している。
「人口1億を超えるだと・・・?帝国臣民を遥かに凌駕する数ではないか!?その様な国が、誰の目にも知られずに存在する事などありえん!!貴様、嘘を申すな!!」
クルーゼの近くに座っていたエルフの男性が、俺に掴みかかり叫んだ。
「退がれルーカス!彼の話はまだ聞き終わってはいない・・・。嘘と判断するには早計すぎる・・・。すまない、アキラ君・・・話を続けたくれ。君の国の周りにも他の国があるのかね?」
ルーカスと呼ばれた男は、クルーゼの言葉に慌てて俺を離した。
「そうですね、日本の周辺には・・・中国、韓国、北朝鮮、台湾、ロシア、タイ、マレーシア、インドネシアなどで、他にも距離は離れていますが、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア・・・数えたら200ヶ国近くはあります・・・。総人口は73億人になると言われています」
皆が絶句する。
クルーゼは手の平で目元を覆い、何事か思案している・・・。
「その中には、我々エルフ族やドワーフ、小人族、獣人族、竜人族などは含まれているのかね?」
クルーゼは考えがまとまったのか、顔を上げて聞いてきた。
「いえ・・・少なくとも、俺が知る限りでは居ません。俺の居た国では、エルフやドワーフと言った種族は物語や幻想上の種族です・・・」
「そんな・・・!ならば、73億全て人間なのか!?」
ルーカスが叫ぶ。
「彼はエルフを知ってはいたけど、私を見た時に凄く驚いてたわ・・・。嘘では無いとおもうわよ・・・?」
ラフィがルーカスに呟いた。
「そうか・・・73億の人間の国々か・・・。アキラ君、これは私個人の考えだが・・・私は、君は異世界から転移して来たと考えている。君の所持品を見た時からその可能性を感じていたのだが、今の君の話を聞いてみて、確信した・・・」
「クルーゼさんもそう思いますか・・・?」
彼は小さく頷く。
俺も、ラフィを見た時から考えてはいた。
それは、この村に来た時点で確信に変わっていた。
そう、ここは異世界だ。
「私自身、異世界からの転移に関しては、伝承や噂でしか聞いた事がない・・・200年以上生きて来て、転移者を見るのは初めてだ。だから、どのようにして転移し、どのように戻るかは分からない・・・。だから、君さえ良ければ、帰り方が分かるまでこの村に滞在することを許可しよう。なんなら、私の家に来てくれ。君はラフィの恩人だ・・・礼をせねばなるまい」
しばらくの沈黙の後、クルーゼが俺に言った。
ラフィの顔が嬉しそうに明るくなる。
他のエルフの男達も、クルーゼがそう言うならと顔を見合わせて頷いた。
「お待ち下さい旦那様!なぜこの様な得体の知れない人間を村に住まわせるのですか!?」
皆が許容する空気の中、ルーカスが叫んだ。
「ルーカス!あんたねぇ!!」
ラフィがルーカスに掴みかかる。
「何故だルーカス?理由を申せ・・・」
クルーゼも彼を睨んでいる。
「そいつらは・・・人間は俺の妹を拐い殺した!だから許せないのです!そんな人間を村に住まわせるなど、私は反対です!!」
ルーカスは俺を睨んで叫んだ・・・。
「確かに、お前の妹を拐い、殺したのは人間だ・・・だが、彼では無い。この世界の人間の罪に対し、彼が償う理由は微塵も無い。お前は、ただ怒りを彼にぶつけたいだけだ・・・。そんな事が許されるはずが無い・・・!それに、彼はなんの前触れも無く異世界に転移し、自身が不安であるにも関わらず、私の娘を支え、助けてくれた・・・。私はそんな彼を捕らえ、尋問した・・・それだけでも許されない事だ!それなのに、お前は私にさらに恥の上塗りをしろと言うのか・・・!?」
ルーカスは言葉に詰まった。
「お前の妹には、私も世話になった・・・。彼女の事を思うと、いまだに腹わたが煮えくり返る思いだ・・・だが、だからと言って彼にそれをぶつけてしまっては、お前の妹の命を理不尽に奪った奴等と変わらない・・・」
「はい・・・申し訳ありません旦那様・・・」
「謝る相手が違うぞ?謝るなら彼に謝るべきだ・・・」
クルーゼはそう言って俺の方を見る。
「申し訳ありませんでした・・・。お嬢様の恩人に対し、数々の無礼お許し下さい・・・」
ルーカスは俺に頭を下げた。
「いや・・・何か俺の方こそすみません・・・」
「何故貴方が謝るのですか・・・?」
「人間の業と言うか・・・欲の深さや身勝手さを思い知らされた気がして・・・」
「お嬢様の仰る通り、貴方は優しい方の様だ・・・優しくておかしい・・・不思議な方だ。ですが、私が貴方を心から信用するには、まだ時間が掛かるかもしれません・・・」
項垂れて答えた俺に、彼は小さく笑って言ってきた。
「構いませんよ!向こうに帰るまでは時間が掛かるかもしれませんしね!」
俺が笑って答えると、彼も小さく頷いた。