第39話 ララの早とちり
「おぉ・・・寝汗が酒臭い・・・」
俺はラフィと風呂に入った後、すぐにベッドで眠りに就いた。
起きると寝汗で服がベトベトになっていた。
俺の隣では、ラフィが寝苦しそうに唸っている。
既に陽は昇りきり、今は昼前だ。
「あれだけ飲めば仕方ないよな・・・」
俺はベッドから起き上がり、ひとまずトイレに入った。
「うわぁ・・・こっちも酒臭い・・・。こんなの同窓会以来だな・・・」
出るもの全てが酒臭く、匂いだけでまた酔いそうになってしまった。
「おはよう・・・頭が割れそうだわ・・・」
俺がトイレから戻ると、ラフィがベッドの上で頭を抱えて突っ伏していた。
「凄い格好だね・・・。まぁ、浴びる程飲んだからね、仕方ないよ」
「貴方は大丈夫なの・・・?」
「俺は二日酔いにはならない体質だからね!ただ、出るもの全てが酒臭いよ・・・」
「羨ましいわ・・・。二日酔いになるたび、もう二度とごめんだわって思うけど、楽しいとどうしても飲み過ぎるのよね・・・」
彼女は恨めしそうに俺を見ながら呟いた。
「その気持ちは解るよ・・・。さてと、身体中が酒臭いしお風呂に入ってくるよ」
「あっ、私も一緒に入って良いかしら・・・?流石にこの匂いには耐えられないわ・・・」
明け方の事を気にしているのか、上目遣いで遠慮がちに聞いてくる。
「まぁ、反省してるみたいだし別に良いよ・・・。あまり時間も無いしね!」
「ふふっ、ありがとうアキラ!じゃあさっさと入ってサッパリしましょ!!」
彼女は笑って礼を言い、着替えを用意して風呂場に向かった。
「さてと・・・今からだとお昼を食べてる時間も無さそうだし、ダリウスさんの所に行った後に何か軽く食べようか?」
「そうね・・・ダリウスさんに会いに行った後も、どのみちララさんの準備が整うのを待たないといけないしね!」
俺達は軽く身体を流し、今日の予定を簡単に話し合ってからロビーに向かった。
「あっ!アキラさん、ラフィさん、おはようございます!いや・・・こんにちはかな?」
受付に鍵を預けて外に出ると、そこには荷物を持ったララが居た。
「おはようございます・・・まさか、もう準備出来たんですか?」
「はい!旅に出るなら身軽な方が良いと思って、必要最小限の物だけ用意して来ました!今から発つんですか?」
ララの荷物はかなり少なく見える。
俺達の荷物の半分以下くらいだろうか?
「えっと・・・今日はもう1人挨拶に行こうかと思ってたので、発つのは早くても明日になります・・・。まさか、ララさんの準備がこんなに早く終わるとは思ってなかったですよ・・・」
俺がそう言うと、ララは荷物を地面に落として崩れ落ちた。
「急いで準備をしたのが仇になってしまいました・・・。マスターに借りてた家は引き払ったので、今日は野宿決定です・・・」
彼女は真っ白になっている。
「アキラ・・・流石に可哀想だし、今夜は私達の部屋に泊めてあげましょう?」
「そうだね・・・せっかく一緒に来てくれるって言ってくれたんだし、俺は構わないよ。ララさん、ラフィもこう言ってるし、今夜は俺達の部屋に泊まりなよ!」
項垂れていたララは顔を上げ、目を輝かせた。
「良いんですか!?ありがとうございます!!いやぁ、まさか住み慣れた街でホームレス生活をしないといけなくなるかと思っちゃいましたよ・・・」
「取り敢えず、もう一度鍵を借りて来るよ。ララさんの荷物を部屋に置いてこよう!」
俺が店主に事情を説明すると、今夜は特別にララを泊める事を許可してくれた。
「お待たせ!じゃあダリウスさんの所に行こうか!」
俺はララの荷物を部屋に置き、彼女達と共にダリウスの元に向かった。
「この路地はいつ来ても緊張するな・・・」
俺はダリウスの居る建物のある路地の入り口で立ち止まり呟いた。
「ダリウスさんって、この前アキラさん達と一緒に店に来てた強面の人ですよね?」
「そうよ。父様の古い友人らしいけど、あまり詳しくは知らないわ・・・。それより早く行きましょう?日が暮れるわよ・・・」
「了解・・・」
俺はラフィに促され、覚悟を決めて歩き出した。
路地に入ると、いかにも怖そうな人達がこっちを遠巻きに見て来る。
(うぅ・・・やっぱり怖いよ・・・)
先頭を歩く俺は、ラフィ達に見えない事を良いことに、涙目で歩いた。
「ん?あんた等、ダリウスさんの知り合いじゃないか?」
俺達が恐る恐る歩いていると、1人の男が話し掛けてきた。
「あっ!貴方はあの時の!!」
話し掛けて来たのは、前にダリウスの居る建物を案内してくれた男だった。
「やっぱりそうか・・・またダリウスさんに用事か?」
「はい・・・今回は前以て伝えて無かったんですが、ダリウスさんはまだこの街に居ますか?」
「あぁ、今日はまだあそこに居るはずだ・・・。1つ忠告しておくが、あまりこの路地には入らない方が良い。ダリウスさんの客だと知ってる奴なら良いが、そうじゃない奴等も居るからな。もしここに来るなら、入り口に居る連中に声を掛けろ・・・迎えを寄越す」
彼はため息を吐いて言った。
「すみません・・・ご忠告ありがとうございます・・・」
「いや、わかってくれたなら良い・・・。ここからは俺が一緒に行こう」
彼は俺に苦笑しながら言い、前を歩き出した。
俺達は彼の後をついて行き、ダリウスの居る建物まで案内して貰った。
「俺は外に居る。帰る時は声を掛けろ・・・入り口まで送る」
「ありがとうございます。では、行ってきます!」
俺達は、案内してくれた男に礼を言って建物に入った。
コン コン コン
「開いてるぜ、入ってきな・・・」
部屋の扉をノックすると、中からダリウスの声が聞こえた。
「失礼します・・・。ダリウスさん、お久しぶりです!」
「おう!アキラとラフィお嬢ちゃんじゃねぇか!久しぶりって程じゃ無いが元気にしてたか!?」
俺達が部屋に入ると、ダリウスは笑いながら近付き、俺の肩を叩いた。
「相変わらず乱暴だなぁ・・・。俺もラフィもなんとか元気にしてますよ!」
「ははは!そりゃあ良かった!!・・・それにしても、両手に華だなアキラ?今日はララちゃんも一緒じゃねぇか・・・」
彼は豪快に笑った後、俺に顔を近づけて耳打ちした。
「そんなんじゃ無いですよ・・・。今日はその事も含めて、ダリウスさんに話しがあって来たんですよ・・・」
「あぁ、だいたいの事はクルーゼの手紙を読んで知ってるぜ?なんか大変な事になってるな・・・」
彼は腕を組んで渋い顔で頷いた。
「えぇ・・・正直かなり面倒な事になってますよ・・・。ダリウスさん、知ってるとは思いますが、俺とラフィは旅に出ます・・・ララさんも一緒に来てくれる事になりました」
「そうか、お前等には負担を掛けちまうな・・・。本当、アキラにとってはいい迷惑だよなぁ・・・。いきなりこの世界に飛ばされて、しかも自分の所為でこの世界が危なくなるかも知れないなんてな・・・」
彼は項垂れている。
「まぁ、なっちゃったものは仕方ないですし、出来る事をやるしかないですよ・・・」
「そうだな・・・。アキラ・・・すまねぇが頼んだぜ?俺も出来る限りの協力はする・・・。取り敢えず、各地に散らばってる信頼出来る奴等には伝えとく。大きな街に行ったら、酒場で俺の名前を出せ・・・向こうから会いに来てくれる。何か情報が入ったら、そいつ等にも伝えとくから、困った時は頼れ・・・」
「ありがとうございます!ダリウスさんに貰った地図も凄く役立ちそうですし、これからも頼りにしてますよ!!」
俺は、申し訳無さそうに言って来た彼に笑顔で答えた。
彼は見た目は怖いが、人情味があり頼れる兄貴分的な男だ。
前回会った時も色々と世話になった。
そして、今回の旅でも彼の情報網はきっと力になる。
「そりゃあ良かった!・・・まぁ、あまり無理はすんなよ?危なくなったら逃げろ!お前が死んじまったらクルーゼや嬢ちゃん達が悲しむぜ?もちろん俺もな!!だから、生きろよ・・・」
彼は真面目な顔で俺に言ってきた。
俺が頷くと、彼は満足そうに笑った。
「さてと、お前等飯はまだだろ?なんなら今から晩飯を食いに行こうぜ!今日は俺の奢りだ!!じゃんじゃん食って飲んで騒ごうぜ!?」
俺達はしばらくの間、雑談混じりにこれからについて話し合をしていると、ダリウスが窓の外を見て話題を切り替えた。
俺も窓から外を見ると、すでに陽が傾いていた。
「そうですね・・・実は、今日は朝から何も食べてないんですよ・・・。ダリウスさんとの会話が楽しくて忘れてました・・・」
意識してしまうと、急に空腹感に襲われて腹が鳴った。
「なら丁度良いじゃねぇか!お前等の門出を祝って、今日は飲もうぜ!」
「ありがとうございます!ラフィもララさんも良いかな?」
「えぇ!今夜も楽しくなりそうね!」
「ありがとうございます!・・・あの、申し訳無いんですが、私の居たお店は避けて頂けたらありがたいです・・・。あんなに意気込んで出てきたのに、まだこの街に居るってバレたら恥ずかしくて・・・」
ララは赤面しながら小さくなった。
俺達はそれを見て苦笑して了承し、彼女の手を引いて夜の街に繰り出した。