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第35話 旅立ち

  出発当日、俺達は朝早くから散らかった広場の片付けをした。

  村の人達は皆朝が早い。

  俺も早い方ではあるが、他の人達に比べるとまだ遅い方だ。

  

  「アキラさんすみません・・・出発の日に片付けを手伝って貰って・・・」


  俺が食器などを片付けていると、近くでゴミを拾っていたクルツが申し訳なさそうに言ってきた。


  「気にしないでください!こうして皆んなと一緒に片付けをするのは楽しいですから!」


  「そう言って貰えると助かりますよ!大変な旅になるかもしれませんが、無事に帰って来てくださいね!子供達もアキラさんの事を待ってますから!!」


  彼は笑顔で言ってくれた。

  よそ者の俺を快く迎え入れてくれたこの村の人達には、感謝してもしきれない。

  彼等のためにも、なんとしてもこの世界を守らなければならない。

  だが、俺には力が無い・・・。

  この世界を守る為には、仲間が必要だ。

  旅の途中で信頼出来る仲間を捜さなければ、この旅を続けることは不可能だ。


  「頑張ります!ラフィも居ますし、寂しくて泣く事は無いと思いますよ!」


  「ラフィお嬢様と一緒なら大丈夫でしょうね!あの方はいつも元気ですからね!」


  彼はそう言うと、笑顔で頷いた。


  「アキラ、その食器で最後みたいよ。早くセシルさんの所に持って行きなさいよ?」


  俺とクルツが話していると、ラフィが呆れた様に言ってきた。


  「了解!じゃあクルツさん、また後で!」


  俺はクルツに頭を下げ、セシルのもとに急いだ。

  洗い終わってから持って行くのは申し訳無い。


  「セシルさん、すみません・・・遅くなりました!」


  「アキラさん、手伝っていただいてありがとうございます・・・」


  「気にしないでくださいよ!皆んなとこうしているのは楽しいですから!」


  俺は彼女に笑顔で言い、皿洗いを手伝う。

  持ってきたのはこれで最後だが、まだ洗い終わっていない食器が山程ある。

  見てしまったからには、手伝わないと申し訳無い。


  「アキラさんは手際が良くて助かりますわ!夫もアキラさんくらい家事を手伝ってくれたら助かるんですけど・・・。ラフィお嬢様が羨ましいですわ・・・」


  彼女は俺を見て微笑む。

  美人に笑いかけられるのはかなり照れてしまう。

  俺は赤面して俯いてしまった。

  彼女はそんな俺を見て笑っていた。

  この村の人達は、俺以外は皆んなエルフだ。

  ようするに、美男美女の集まりだ。

  その中に平凡な顔をした日本人が紛れ込んでいるのだから、かなり異様だ。

  ラフィと過ごした事で多少は慣れたが、元々美人に対する免疫が無い俺には目に毒だ。


  「ラフィお嬢様は、性格は多少荒っぽいですが、とてもお優しい方です・・・。お母様を早くに亡くされて、幼い頃から家事を手伝ってらっしゃいました。私は、ラフィお嬢様には幸せになっていただきたいのです・・・。それが出来るのはアキラさんだけだと思っております。アキラさん・・・どうか、ラフィお嬢様をよろしくお願い致します」


  彼女は俺を真っ直ぐに見て、深々と頭を下げた。


  「えっと・・・頑張ります・・・。彼女に飽きられないように気をつけますよ・・・」


  俺は照れながら答えた。

  信頼してくれている彼女への気恥ずかしさと、彼女の上着の隙間から見えた魅惑の谷間を見て恥ずかしくなったのだ。


  「アキラ・・・何処見てんのよ・・・」


  声のした方を見ると、いつの間にか近くに来ていたラフィが俺を睨んでいた。


  「君には無い物を見てたんだよ・・・」



        ドゴッ!!



  「おおおお・・・流石にキツイ・・・」


  俺は抉るようなボディブローを喰らい崩れ落ちた。


  「貧相な胸で悪かったわね!?」


  彼女は烈火の如く怒り、うずくまる俺の背中を踏み付けて追い討ちをかける。

  丈の長い上着の裾から、スパッツ越しの臀部がチラチラと見えて良い眺めだ。


  「小さな胸も大きな胸も、どっちも素晴らしいものだと思うよ・・・どっちも優しさと夢が詰まってるんだ!」


  「意味分かんない事言ってんじゃ無いわよ!?」


  彼女の怒りは治らない。

  セシルは胸元を隠しながら苦笑している。


  「乳に貴賎なし!!俺の世界の偉人の言葉だよ・・・。だから、君の胸も素晴らしい!お椀型で、マシュマロの様に柔らかく、手にすっぽりと収まる程良い大きさなんだ!!」


  俺は立ち上がってラフィの手を取り、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめて力説した。


  「ば・・・馬鹿じゃないの!?何で胸に対してそんなに熱く語ってるのよ・・・」


  彼女は顔を真っ赤にして目を逸らした。


  (よし、怒りが治まるまであと少しだ!!)


  「男には無い物だからだよ・・・。だからこそ、男は皆んなおっぱいが大好きなんだ!!」


  俺の周囲に沈黙が流れる。

  俺が周囲を見回すと、皿を洗っていた女性陣は引きつった表情でドン引きしている。

  そんな中で、ラフィは恥ずかしそうに俯いている。

  ちょっと嬉しそうにしている。

  彼女は、普通の女性とは若干ズレている気がする。


  「アキラ君、私はその気持ち解るぞ!!君の言う通りだよ!!女性の胸には、夢・希望・愛・優しさが詰まっている!!だからこそ素晴らしいんだ!!だからこそ男は惹かれるんだよ!!」


  熱い叫びが聞こえ、皆んながそちらを見ると、クルーゼが仁王立ちをしていた。

  

  「君なら理解してくれているだろうと思っていた!私は嬉しいよ!!次に帰って来た時は、酒を飲みながら、胸について熱く語ろうじゃ無いか!?」


  周囲の女性陣は、彼を軽蔑したような目で見ているが、彼は構わずシャウトしている。


  「はぁ・・・その時はよろしくお願いします・・・」


  俺はそう答えるのが精一杯だった。






  「さて、片付けも終わりましたし、そろそろ行こうと思います・・・」


  俺は皿洗いを終え、陽の高さを確認して皆んなに言った。

  今は昼前くらいだ。


  「そうね・・・あまり遅いと街に着く前に夜になっちゃうしね・・・」


  ラフィも俺と同じように陽の高さを見て頷いた。


  「そうか・・・もうそんな時間か・・・。では、皆んなを集めよう。別れの挨拶くらいはさせてくれ・・・皆んなもそれを望んでいるだろうからね!」


  クルーゼはそう言うと、村の人達を集めに行った。

  俺とラフィは、その間に荷物を持って村の出口に向かう。

  俺達はまず、馬車でパスカルに向かう事にしている。

  まだパスカルに滞在しているダリウスと、ララに挨拶をする為だ。

  彼等にもお世話になった。

  もしかすると、これが最後になってしまう可能性もある。

  だから、ラフィに頼んで挨拶に行く事にしたのだ。


  「アキラ君、ラフィ、皆んな集まったよ・・・」


  俺達が村の出口で馬車に荷物を載せていると、クルーゼが皆んなを集めてやって来た。

  ルーカス、クルツ、セシル、クルツとセシルの子供達、それと村の人達全員だ。


  「アキラ様・・・先日もお伝えしましたが、どうかご無事で・・・」


  「アキラさん、また帰って来た時は一緒に飲みましょう!」


  「ラフィお嬢様、アキラさんと仲良くしてくださいね?まぁ、さっきの会話を聞いたところでは心配いらないかと思いますけどね!」


  ルーカス、クルツ、セシルがそれぞれ別れの挨拶をしてきてくれた。

  皆んな笑顔ではあるが、寂しそうにしている。


  「アキラお兄ちゃん、ラフィお姉ちゃん・・・早く帰って来てね・・・!また一緒に遊んでね・・・!!」


  子供達は皆んな涙を流してくれていた。

  俺とラフィはしゃがんで1人ずつ頭を撫で、抱きしめた。

  つられて泣きそうになったが、なんとか堪えることが出来た。


  「皆さん・・・この世界に来て、この村に滞在したのは一月程でしたが、本当にありがとうございました・・・。この世界で初めて出会ったのが貴方達で本当に良かった・・・仲間として、家族として接して貰えて幸せでした・・・。向こうの世界に帰るかどうかはまだわかりませんが、必ずもう一度この村に帰って来ます!だから、さよならは言いません・・・いってきます!!」


  俺は結局泣きながら挨拶をした。

  隣にいたラフィは優しく俺の背中を撫でてくれた。


  「父様、ルーカス、皆んな!いってくるわね!!お土産いっぱい買ってくるから楽しみにしてなさい!?」


  ラフィは皆んなに手を振り、子供達に胸を張って約束をした。


  「アキラ君、ラフィ・・・色々と大変な思いもするだろう・・・だが、辛い時はこの村の事を思い出してくれたら嬉しい・・・この村は君達の故郷で、この村の皆んなは君達の家族だ。何があろうとそれは変わらない・・・どんな時でも、私達は君達の味方だ。それを忘れないでくれ・・・。では、寂しくなるが・・・アキラ君、ラフィ・・・いってらっしゃい!!」


  クルーゼが珍しく泣きそうな顔で笑いながら言ってきた。

  唯一の肉親であるラフィと離れるのだ。

  不安もあるし、寂しいだろう。

  俺はクルーゼに抱きついているラフィを見て、改めて守ろうと心に誓った。


  「じゃあ、いってきます!!」


  俺とラフィは馬車に乗り込み、窓を開けて皆んなに手を振った。

  村がどんどん遠ざかり、皆んなが小さくなっていく。

  俺達は村が見えなくなるまでずっと手を振っていた。

  




  

  

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