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第34話 宴

  あいつが夢の中に出て来て数日が経った。

  あの日以来、夢の中にあいつは出て来ていない。

  俺はあの日の事をラフィやクルーゼ達には話さなかった。

  要らぬ心配を掛けたくなかったのもあるが、何よりあいつを思い出すと腹が立ってしょうがなかったからだ。

  今日はこの村で過ごす最後の日・・・村の人達は俺とラフィの送別会をすると意気込み、朝から宴の準備に奔走している。


  「クルーゼさん、俺とラフィは何をしたら良いんでしょうか?」


  俺とラフィは村の人達に手伝いを申し出たが断られてしまい、クルーゼに何か仕事が無いか聞いてみた。


  「ゆっくりしてたら良いんじゃないかな?君達は今夜の主役だからね!君達に準備をさせる訳にはいかないよ!」


  彼は笑顔で言ってきた。

  彼は昨日まで俺とラフィの為、ルーカスと共に、知り合いに手紙を書いたり旅の準備をしたりと休む間もなく動いてくれていた。

  それなのに、今日は俺達2人の為に宴の準備までしてくれている。

  彼は、出会った時こそ警戒をしていたが、俺の話を聞き、俺の置かれた境遇を慮り、これまで家族として接してくれた。

  酒を飲むとだらし無い一面もあるが、とても優しく、頼りになる人だ。


  「何から何まで本当にありがとうございます・・・。クルーゼさんとルーカスさんにはお世話になりっぱなしで・・・」


  「私達の事は気になさらないでください・・・アキラ様は、明日から大変な思いをして旅をしなければなりません・・・。もし気が引けると思われるなら、無事に帰って来てください。それが私達にとって、これ以上に無い恩返しになると思います」


  俺が申し訳ない気持ちで頭を下げると、ルーカスが笑顔で応えてくれた。

  彼は妹を人間に殺され、俺と初めて会った時は人間と言う事でかなり邪険にされたが、クルーゼの説得と共に過ごした日々の中で俺の事を少しずつ受け入れ、今ではある程度の信頼を寄せてくれている。

  彼は根が真面目で堅いが、周りを見て物事を判断出来る非常にカッコイイ男だ。

  クルーゼとは違った魅力を持っている。


  「はい・・・待っていてくれるこの村の人達の為にも、また帰って来ます!」


  2人は俺の言葉に笑顔で頷いてくれた。


  「アキラお兄ちゃん、ラフィお姉ちゃん・・・遊んで?」


  俺達が話していると、クルツの娘がやって来た。

  俺の服の裾をつまみ、首を傾げながら遠慮がちに聞いてくる。


  (あーもう!可愛いな!こんな風にねだられたら断れないじゃん!?俺、こんな子供が居たら親バカになる自信あるわ・・・)


  俺の顔を見たクルーゼ達は、俺が何を考えているか察したのか苦笑していた。


  「アキラ君、良かったら子供達と遊んでやってくれ・・・この子達も、君やラフィと別れるのは寂しいだろう。だから、今日も一杯遊んで、楽しい思い出を作ってやってくれないか?」


  「わかりました・・・ラフィ、行こうか?」


  「えぇ、良いわよ!」


  「やったぁ!お兄ちゃん大好き!!」


  クルツの娘は俺に抱き付いて喜んでくれた。

  俺はその子を抱き上げ、ラフィと一緒に広場へと歩き出した。


  「うん、良い眺めだな・・・ルーカス、私は早く孫の顔が見たくなったよ!」


  「そうですね・・・もしかすると、そう遠く無い未来、実現するかもしれませんよ?」


  後ろからクルーゼ達の会話が聞こえ、俺は照れて赤面した。

  ラフィを見ると、彼女も頬を染めながら嬉しそうに微笑んでいた。

  




  

  俺とラフィは、日が暮れるまで村の子供達の遊び相手をしてやった。

  村の人達は、楽しそうに遊ぶ子供達を見て笑顔になり、俺とラフィに感謝してきた。

  旅に出る事を決めた日から今日まで毎日遊んでいたが、子供達は皆飽きる事なく楽しそうに遊んでいた。

  喜ぶ子供達を見るとこちらも嬉しくなり、つい羽目を外してしまう。


  (もし向こうの世界に帰ることになったら、今までの仕事を辞めて、保育士になるのも良いかもしれないな・・・でも、帰ったらこの子達やラフィが悲しむかな・・・)


  「どうしたの?父様達が呼んでるわよ・・・」


  考え事をしている俺の顔を覗き込んでラフィが話し掛けてきた。


  「いや、やっぱり子供は良いなって思ってさ・・・」


  「何よ・・・子供が欲しいなら私はいつでも良いわよ!?貴方の子供ならいくらでも産んであげるわ!!」


  「あのさ・・・そこまで力説されると、逆に萎えるんだけど・・・」


  俺は呆れて彼女に言った。

  彼女が魅力的なのは認めるし、彼女の事が好きではあるが、やはり女性は奥ゆかしい方がグッとくる。


  「面倒くさいわね・・・私くらい貴方を想ってくれる物好きな女の子なんて、この先居ないかもしれないわよ?」


  「あぁ・・・確かにそうかもね・・・。さてと、クルーゼさん達を待たせたら悪いし、そろそろ行こうか・・・」


  俺は項垂れながら彼女に言い、皆の待つ広場へと向かった。

  彼女は憮然としていたが、俺の後ろを少し離れてついてくる。


  「アキラの馬鹿・・・」


  後ろで小さく呟く声が聞こえた。






  「おっ!今日の主役の登場だ!」


  俺達が広場に着くと、クルツが気付いて手を振ってきた。


  「2人はこっちに座ってくれ!酒は今から持ってくるよ!」


  クルツは俺達を上座へと座らせ、酒を取りに行った。


  「なんか歓迎会よりも盛大じゃない?」


  「それだけ貴方を認めてるって事でしょ?村の仲間として・・・家族としてね!」


  唖然として問いかけた俺に、ラフィは笑顔で答えた。


  「なんか嬉しいな・・・。やっぱり、この世界に来て良かったよ・・・俺、君やこの村の人達に出会えて幸せだよ・・・」


  俺は目頭が熱くなるのを感じた。


  「ちょっと・・・飲む前から涙ぐまないでよね・・・。私も貴方に会えて嬉しいわ・・・貴方が居なかったら、村の皆んなとの関係も進展しなかったし、人を好きになる事も無かったもの・・・。私も今幸せよ・・・!」


  彼女は泣きそうな俺を呆れた様に見た後、小さく笑って言った。


  「はいお待ちどうさま!じゃんじゃん飲んでくださいよ!!今日の為にクルーゼ様が用意した上等な酒ですからね!!」


  クルツが酒を2人分用意して戻ってきた。

  クルーゼは胸を張っている。


  (あのおっさん・・・たんに自分が飲みたかっただけじゃないのか?)


  俺の視線に気付いたのか、クルーゼは慌てて居住まいを正した。


  「ゴホン・・・!今日は、明日旅立つアキラ君と娘のラフィの送別会という事で、皆んなには朝から準備をして貰ってありがたく思う!2人とはしばらく会えなくなってしまうが、無事に帰って来てくれる事を祈って乾杯をしよう!では・・・乾杯!!」


  クルーゼが軽く挨拶をしてジョッキを掲げると、皆んな一斉に飲み始めた。


  「このお酒美味しいわね・・・」


  「うん・・・流石クルーゼさん・・・酒を見る目は確かだね・・・」


  「アキラ君、それは褒めてないよね?酷いなぁ・・・」


  俺の呟きを聞いたクルーゼが絡んで来た。

  すでに何杯か飲んだのか、顔が少し赤くなっている。


  「クルーゼ様!アキラさんを独り占めは駄目ですよ!?私も話したい事があるんですから!!」


  ジョッキを片手にクルツもやって来た。

  彼もクルーゼ同様顔が赤い。


  「アキラさん、子供達の遊び相手をしてくれて助かりましたよ・・・。あの子達も喜んでました。また帰って来てくださいね!!」


  クルツは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。

  イケメンが台無しだ。


  「気にしないでください・・・俺も楽しかったですし、あの子達には感謝してますよ!でも、一つだけ忠告しときますね・・・」


  「何でしょうか・・・?」


  クルツは不思議そうに聞いて来た。


  「クルツさん・・・いくら綺麗な奥さんと一緒に寝てるからって、夜の営みを子供達に見られるのはどうかと思いますよ?」


  クルツは手に持っていたジョッキを落として愕然とした。

  ラフィと話をしに来ていたセシルも、顔を真っ赤にしている。


  「何で知ってるんですか・・・!?」


  2人は慌てて聞いてくる。


  「この前息子さん達が言ってましたからね・・・お父さん達は、夜に裸で抱き合ってるって・・・。誤魔化すの大変でしたよ・・・」


  「ありがとうございます・・・以後気をつけます・・・」


  2人は項垂れながら礼を言った。

  それを見ていたラフィは苦笑し、クルーゼは爆笑してセシルに睨まれていた。

  その後も、俺とラフィは村の人達に囲まれ、1人ずつ挨拶をした。

  皆別れを惜しみ、口々にお礼を言ってくる。

  宴は夜遅くまで続いたが、楽しい時間はあっと言う間だった。

  俺もラフィも皆んなと一緒に広場で寝た。

  最後の夜を皆と共に過ごし、楽しい思い出を作れた事が嬉しく思った。

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