第28話 怖気
『意外と勘が良いんだね・・・』
!?
「はぁっ・・・はぁっ・・・痛っ!?」
俺がベッドで寝ていると、頭の中に直接声が響き、飛び起きた。
全身に鳥肌が立ち、冷や汗をかいている。
しかも、頭が割れそうな程痛い。
「アキラ・・・どうしたの?」
隣で寝ていたラフィが俺の異変に気付いて起きてしまった。
「うっ・・・!」
俺は強烈な吐き気を感じ、心配そうに覗き込む彼女を押し退けてトイレに駆け込んだ。
「ゲホッ!ゲホッ!」
俺は、胃の内容物を全て吐き出し咳き込んだ。
「アキラ!大丈夫!?貴方顔色が悪いわよ!!」
あとをついて来たラフィが、俺の背中をさすりながら心配そうに涙ぐんでいる。
「ラフィ!どうかしたのか!?」
騒ぎを聞きつけ、クルーゼも慌ててやって来た。
「父様・・・アキラが・・・!」
「大丈夫かアキラ君!?」
彼は俺に駆け寄り、俺を壁に寄りかからせる様に座らせた。
「ゲホッ!ゲホッ!もう大丈夫です・・・心配を掛けてしまってすみません・・・。ラフィもありがとう・・・」
俺が答えると、彼等は安堵の溜息を吐いた。
「一体何があったんだい?昨夜は普通そうにしていたが・・・」
「それが・・・寝ていたら、急に頭の中に直接声が響いたんです・・・。酷く不安定で、男か女かもわからないような声で・・・感情は篭ってないように聞こえましたけど、心の底から寒気と恐怖が湧き出る様な声でした・・・」
俺が力なく答えると、クルーゼは考え込むように俯いた。
「その声は何と言っていたんだい・・・?」
「意外と勘が良いんだね・・・と言われました・・・。クルーゼさん・・・もしかすると・・・俺をこの世界に転移させた奴かもしれません・・・」
「恐らくそうだろう・・・。しかも、そいつには常に監視されていると考えた方が良さそうだ・・・」
彼は苦々しく呟いた。
「だとしたら、やっぱり予想が当たってるって事ですよね・・・」
「あぁ・・・君を転移させた奴は、転移者を利用してこの世界を変えようとしている・・・。何故そのような事をするのかは分からないが、これは一大事だ・・・。監視されているからと言って、手をこまねいている場合じゃないな・・・早速今から皇帝陛下や他国の知り合いに知らせよう!」
彼は決意の表情で立ち上がる。
「いえ、それは待ってください・・・。もしその事が広まれば、混乱が起きます・・・もしかすると、それが奴の狙いかもしれません。人間以外の種族が減り続けているって事は、奴にとっては人間以外は邪魔な存在なのかも知れません・・・。それが他の種族にバレてしまったら・・・」
「最悪、戦争になるか・・・。どう言う風に受け取るかは人それぞれだからな・・・。もし戦争になってしまえば、人間の方が圧倒的に数が多い・・・それに装備も充実している。物量で押し切られては、他の種族に勝ち目は無い・・・!」
彼は立ち止まり、拳を震わせ悔しそうに呟いた。
「はい・・・。それと、もしその事を人間と他種族が知った後で、戦争を回避し、一致団結した場合・・・矛先が転移者である俺に向かうでしょう。別にそれは構いません・・・ですが、俺を匿っていたクルーゼさんやこの村が巻き込まれる可能性があります・・・それは避けたいんです。あと、俺を殺したとしても実はあまり意味が無いんです・・・俺を殺しても、元凶をどうにかしなければ、また別の転移者を用意するでしょうから・・・。そうなると、その間にも人間以外の種族は減ってしまいます・・・結局堂々巡りです。そして、最後には人間以外は居なくなってしまいます・・・」
クルーゼとラフィは俺の言葉を聞いて押し黙っている。
元凶を断たなければ、どちらに転んでも奴の思惑通りに進んでしまう。
早いか遅いかの違いでしか無いのだ。
だが、現状では打つ手が無いのが事実だ。
「ならどうすれば良いの!?このままじゃ・・・!!」
ラフィが涙目で叫んだ。
正直絶望的な状況だ。
誰だって叫びたくはなるだろう。
「そうだね・・・だからこそ俺は旅に出ようと思うよ・・・。奴によって姿を見せなくなってしまった精霊や神々、魔神達に会わないといけない・・・!彼等の協力を得られれば、打開策が見つかるかもしれない!」
「確かに打開策が見つかる可能性はあるかもしれない・・・だが、彼等が君に会ってくれる確証は無いよ?基本的に、彼等は全ての事象に対して無関心だ・・・。旅に出る事を勧めた手前こう言ってはなんだが、可能性は無いに等しいよ・・・」
クルーゼは項垂れながら言ってきた。
「何もしなければ結果は変わりませんよ・・・。無いに等しいと言っても、会う会わないの二択で考えれば可能性は五分ですよ!やらずに後悔する位なら、やって後悔したいです!なので、他の人達に知らせるのは少し待っていて貰えませんか?クルーゼさんのお知り合いを信用していない訳では無いんですが、俺が実際に会って直接伝えた方が良いと思います・・・」
「わかった・・・皇帝陛下や友人には、内容は伏せて協力をお願いしよう。君達が旅先で安全を確保出来るように頼んでおく・・・。だが、決して無理はしないでくれ・・・この世界の事も心配だが、私は君達の方が大事だ・・・」
俺とラフィは、クルーゼに力強く頷いた。
俺は彼の為にもラフィを守る。
彼の唯一の肉親である彼女を危険な目に合わせる訳にはいかない。
「ありがとうございます!まだ準備もありますし、発つのは予定通り9日後にしようと思います・・・。まだ地理の把握や国毎の習慣などを調べる時間が必要ですから・・・」
「私もそれまでに必要な物を手配しておこう・・・ラフィ、お前にこう言うのはおかしいかもしれないが、アキラ君を守ってやってくれ・・・。私にとって、お前だけじゃなくアキラ君も家族だ・・・その事を忘れないでくれ!」
「そんな事、言われなくてもわかっています!アキラは私が守ってみせます!!」
彼は力強く頷いた娘を見て、笑顔で頷いた。
「さてと・・・まだ朝まで時間がありますし、もう一眠りしようと思います・・・」
俺は、彼等と今後について話し合った後、眠気に襲われて呟いた。
彼等は呆れたように俺を見てくる。
「あんな事があった後によく寝ようと思えるわね・・・」
「アキラ君はなかなかにメンタルが強いね・・・」
「だって、昨日の追いかけっこで疲れてますし・・・それに、気にしてたら、この先ずっと寝られないじゃないですか・・・」
俺は肩を竦めて彼等に言った。
「それもそうね・・・心配だし、私も一緒に寝るわ。構わないでしょ?」
「そうしてあげてくれ・・・流石に心配だがらね。アキラ君、なんならラフィを抱いても良いんだよ?」
ラフィはクルーゼの言葉を聞いて、頬を染めて頷く。
(さらっと言いやがった・・・こいつらの方がメンタル強いんじゃないか・・・?)
俺は内心呆れながら項垂れた。
「それは遠慮しときます・・・それは答えを出してからって決めてますし、何よりさらに疲れてしまいます・・・」
「その方が良く寝られるじゃない・・・」
ラフィは残念そうに呟いたが、俺は敢えて無視をした。
「まぁ、取り敢えず寝直そうか?2人共おやすみ・・・」
俺は、残念そうに項垂れながら部屋に戻るクルーゼを見送った後、再びベッドで眠りについた。
その後は、朝まで奴の声が聞こえることは無かった・・・。