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第22話 互いの気持ち

  「さて、復習でもしようかな」


  俺はクルーゼとルーカスに昼食を差し入れした後、もう一度書庫に籠る事にした。

  昼からは俺一人だ。

  ラフィは村の人達の手伝いをしている。

  俺が旅に出る時には、ラフィも一緒に行く事にはなったが、もしはぐれたりした場合には、自分の力で乗り切らなければならなくなる。

  その為にも復習は大事だ。





      コン  コン  コン


  しばらく書物とにらめっこをしていると、誰かが書庫の扉をノックした。


  「どうぞ・・・」


  「失礼します。アキラ様、旦那様がお呼びです。先日の手紙の返事が来たそうですよ」


  扉を開けてルーカスが伝えて来た。


  「本当ですか!?かなり早かったですね・・・もうちょっと掛かると思ってましたよ」


  「こちらの世界では、郵便物の配達には力を入れておりますからね。昔は郵便物を狙った強盗などもおりましたが、この国の現皇帝陛下が各国の王様達と共同で法改正をし、郵便物を狙った場合、最高で極刑に処すとの御布令を出されました。仕送りや冠婚葬祭の手紙、家族の無事を案ずる手紙など、大事な郵便物が届かなくなってしまっては、民衆が困ると考えられたそうです・・・。旦那様の仰る通り、現皇帝陛下は民の目線で物事を判断してくださいます」


  「俺の国にいらっしゃる天皇陛下も素晴らしいお方ですが、こちらの皇帝陛下にも一度お会いしてみたいですね!」


  「機会があれば、お会いする事もあると思いますよ。では、旦那様がお待ちですので書斎に行きましょう」


  俺は少しだけ彼と話をし、クルーゼの待つ書斎へと向かった。






  「やぁアキラ君、さっき来て貰ったばかりだったのに申し訳無い。ルーカスに聞いたと思うが、先日の手紙の返事が来たよ」


  俺が書斎に入ると、クルーゼが申し訳無さそうに言って来た。


  「いえ、俺としても嬉しいですから構いませんよ・・・で、何かわかりましたか?」


  問い掛けられた彼は、渋い顔をした。


  「いや・・・やはり我々が知っている以上の情報は無いようだよ・・・。やはり手当たり次第に遺跡などを回るしか無いかもしれない・・・。友人達も何か解ったら連絡してくれると書いてはあるが、どれだけ時間が掛かるか分からないな」


  そう言うと、彼は肩を落として項垂れた。


  「気にしないでください・・・異世界からの転移なんて、本来ならそうある事は無いでしょうし、俺も覚悟はしてましたから!クルーゼさんには色々とお世話になって感謝してます!!」


  「そう言って貰えるとありがたいよ・・・」


  彼は、俺の言葉に力なく笑った。


  「取り敢えず、まだこの世界については分からない事ばかりですから、もう少し勉強したいと思います!もし発つ時は前以て言いますから、準備を手伝って貰えると助かります・・・」


  「分かった。私も君にはお世話になったからな・・・。出来る限りの事はさせて貰うよ!」


  「では、もう少し読み書きの勉強をしてきます・・・。クルーゼさん、何から何までありがとうございます!」


  彼は笑って見送ってくれた。






  俺が書庫に戻ると、ラフィが机に突っ伏して眠っていた。


  「ヨダレ垂れてるし・・・美人が台無しだなぁ・・・」


  俺は彼女の寝顔を見て若干引いた。

  彼女は俺と居る時や、誰も見ていない時はかなりダラける。

  気を許してくれていると考えれば悪い事では無いが、こうも見せ付けらると呆れてしまう。


  「ん・・・アキラおかえり・・・」


  俺が席に着くと、音で彼女が起きてしまった。


  「ゴメン、起こしちゃったね・・・。ラフィ、ヨダレ垂れてるよ?」


  俺は彼女の口元をハンカチで拭ってやる。


  「あ・・・ごめんなさい・・・。ありがとう・・・」


  彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめてお礼を言った。


  「どういたしまして。手伝いはどうだった?」


  「そうね・・・皆んな最初は遠慮してたけど、最後は嬉しそうにしてくれてたわ・・・。貴方のおかげで、皆んなと仲良くなれた気がするわ」


  そう言った彼女は、優しい顔をしていた。


  「俺は何もやってないよ。君が勇気を出したから、皆んなも解ってくれたんだよ・・・」


  「違うわよ・・・貴方が後押ししてくれなかったら、私はこれからもずっと皆んなと打ち解けられなかったわ・・・。だから、貴方のおかげよ・・・」


  彼女は照れている。

  こうした顔はやはり可愛い。


  「アキラ・・・この世界に来てくれてありがとう・・・。貴方にとっては辛い事ばかりかも知れないけど、私は貴方に会えて良かったわ・・・貴方に会えて無かったら、私は今も・・・そしてこれからも変われなかったわ・・・」


  彼女の瞳には涙が浮かんでいる。


  「確かに最初は驚いたし、何で俺がって思ったけどさ・・・俺もラフィに助けられて、君のお父さんやルーカスさん、村の皆んな、ダリウスさんやララさん達に会えて良かったと思うよ・・・この世界に来てなかったら、知り合う事が出来なかった・・・。辛く悪い事ばかりじゃなくて、良い事も沢山あったよ!だから、俺はこの世界の事好きだよ!」


  彼女は俺の言葉を聞いて涙を浮かべながら微笑んだ。


  「アキラ・・・何度も言うけど、私は貴方の事が好きよ・・・ずっと一緒に居たい・・・。でも、貴方は向こうの世界に家族が居る・・・。だから本当は、無理に引き止めて貴方を困らせたくは無いの・・・でも、自分の気持ちにも嘘をつきたく無い・・・私はどうしたら良いの?自分でも判らないの・・・」


  彼女の顔は真剣だった。

  はぐらかす事も出来る・・・だが、そんなことをしたら彼女に失礼だ。

  俺はしばらく考えて、ゆっくりと答えを探した。


  「ごめん・・・俺にも判らないよ・・・。でも、君の気持ちは凄く嬉しいよ・・・。俺も、自分がこの世界の人間だったなら、こんなに悩む事も無く君を選んでると思うよ・・・。でもそうじゃ無い・・・俺はこの世界の人間じゃないんだ・・・。君を選んでも、また急に帰らされる可能性もある。俺が君と別れるのが辛いのもあるけど、何より君が心配なんだ・・・。それに、実は向こうに帰るのも心配ではあるんだ・・・」


  「何故・・・?」


  彼女は不思議そうな顔をして聞いて来た。


  「この世界と向こうの世界が同じ時間軸上にあるのかが判らないんだ・・・もしも向こうに帰った時、向こうの世界の時間がこっちの世界より何倍も先に進んでしまっていたら・・・。もしくは逆に、何十年、何百年も過去に戻ってしまったら・・・そう思うと、怖くて仕方ないんだよ・・・。家族や友人達が居ない世界かも知れない・・・そう思うと、帰るのが怖いんだ・・・!でも、家族や友達に会いたいんだよ・・・帰りたいんだよ・・・!」


  彼女は黙って俺の頭を抱き寄せた。

  いつしか、俺の頬を涙が伝っていた。


  「ごめんなさい・・・一番辛いのは貴方なのにね・・・。私の事は気にしなくて良いわ・・・貴方が納得出来る答えが出たなら、私は貴方の答えを尊重するわ・・・だから、お願い・・・泣かないで・・・貴方には笑顔が似合うもの!」


  彼女も涙を流していた。

  俺はしばらく彼女の胸に抱き寄せられながら泣いた。

  彼女の身体は暖かく、甘い匂いがして、ゆっくりと・・・しかし力強く響く鼓動が俺の心を落ち着かせてくれた。





  「ごめん・・・せっかく君から相談してくれたのに、逆に心配させちゃったね・・・」


  俺は何とか泣き止み、彼女に照れ臭い気持ちで謝った。


  「気にしないで・・・貴方の泣き顔が見れただけでも収穫があったわ・・・!」


  彼女は優しく微笑んで答えてくれた。


  「ラフィ、俺も君の事好きだよ・・・でも、答えはもう少し待ってて貰えるかな?俺と君が後悔しない答えが無いか探したいんだ・・・」


  「えぇ・・・いつ迄も待つわ・・・。だって、貴方ならきっと後悔しない答えを出してくれるって信じてるもの・・・。アキラ・・・大好きよ・・・」


  彼女は俺の顔を両手で包み、そっとキスをしてくれた。

  俺も、抵抗する事無く彼女を受け入れた。


  「もし旅をする事になったら、後悔しない方法を一緒に探してくれるかい?」


  「えぇ・・・必ず力になってみせるわ・・・!!」


  俺の問い掛けに、彼女は力強く頷いた。


  「ありがとう・・・これからもよろしくね、ラフィ・・・!」


  今度は俺から彼女にキスをした。

  彼女もそれを嬉しそうに受け入れてくれた。

  

  (彼女とならきっと答えが見つけられる・・・いや、見つけてみせる!俺の事を好きになってくれた彼女の為に・・・そして、俺が好きになった彼女の為に!)


  俺はそう心に誓った。

  


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