第1話 トイレ→???
「ぬおおおお・・・!腹が・・・!腹が痛い・・・!」
俺は今、買い物で訪れているショッピングモールの個室トイレに籠っている・・・。
昼に食べたカレーがあまりにも辛く、食べ終わっ後に胃がおかしくなり、トイレに駆け込んだ。
チュンチュン チュンチュン
トイレの中に小鳥のさえずりが聞こえる。
なぜかこのトイレは森の中のようなBGMが流れている。
「あんなもん出すなよな!せめてメニューに説明書いててくれよ・・・!」
俺は便座に腰掛けながら愚痴をこぼした。
それから10分後、なんとか落ち着いた俺は立ち上がり、水を流そうとした。
「あれ?流れない!?最悪だ・・・」
流し忘れなどは、次に利用する人達の迷惑になる。
俺だって他人の汚物など見たくはない。
だが、何度やっても水が流れない・・・。
このトイレはボタンを押せば流れるはずだが、全く反応しない。
俺は便座のコンセントを確認するが、しっかりと繋がっている。
「完全に壊れてるな・・・。注意書きくらい書いててくれよ・・・」
俺は諦めて項垂れ、トイレを出た。
チュンチュン チチチチチチ・・・
今迄とは違うパターンのさえずりが聞こえ、俺は顔を上げた。
!?
俺は愕然とした・・・。
目の前には、鬱蒼と茂った樹々が立ち並び、辺りは薄暗い。
「えっ!?何で!!?」
俺は後ろを向いて今しがた出てきたトイレを見る。
まだそこにはトイレがある・・・。
俺は混乱しながらも、もう一度トイレに戻り、便座の蓋の上に腰掛けた。
「ふぅ・・・。まだ、あわあわわわ慌てる様な時間帯じゃあない・・・。ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!」
俺は深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「よし・・・行くか!!」
俺は目を瞑ってトイレから出た・・・。
ズシャァッ!!
俺はゆっくりと目を開けて、外の光景を見て崩れ落ちた・・・。
その時、崩れ落ちた俺の身体にトイレのドアが当たり、閉まってしまった。
「あっ!ヤバい!!」
俺は急いで後ろを確認したが、トイレは忽然と姿を消していた・・・。
「おい!?マジかよ!!これどうやって帰れば良いんだよ!?」
俺は叫んだ。
だが答える者は無く、辺りには鳥のさえずりだけが響いている。
「はぁ・・・仕方ない・・・。取り敢えず、進んでみるか・・・」
俺はこれ以上ここに居ても埒があかないと判断し、森の中を進む事にした。
トイレのあった場所から歩き始めて2時間経つが、未だに森を抜けられない・・・。
「どんだけ広いんだこの森は!?」
俺は叫んだ。
慣れない森の中を歩き続け、すでに体力は尽きかけている。
樹々の間から覗く空は、茜色に染まっている。
「ヤバいな・・・早く森を抜けないと夜になっちまう・・・」
俺は両手で頬を叩き、気を取り直して歩き出した・・・。
「くそっ!完全に夜になっちまった!!周りが見え無えぞ!?」
俺は歩き続けた疲労と、見知らぬ森に出てしまった不安から、悪態をついた。
ホー ホー ホー
梟だろうか・・・鳴き声がこだまする。
俺は進む事を諦め、野宿する事に決めた。
「これ以上は危ないな・・・。暗い中歩いて、崖とかから落ちたら危ないからな・・・」
俺は木の幹に背中を預けて座り込んだ。
「マジで何なんだよ・・・一体ここは何処なんだ・・・?」
俺は不安になり、涙目になった。
辺りは真っ暗で、時折遠吠えが聞こえてくる・・・。
もし、この状況で狼や熊に遭遇したら、まず助からない。
だが、行く当てもない・・・。
「どうすれば良いんだよ!!」
俺は、足元にあった木の枝を投げた。
「痛っ!何すんのよ!?」
俺は驚いた。
木の枝を投げた方から声が聞こえたのだ。
「うおっ!誰だ!?」
俺は声の主に話しかけた。
「痛いわね!いきなり枝を投げるなんて何考えてんの!?」
声の主は、怒り心頭といった感じで、茂みの中から現れた。
樹々の間から差し込む月明かりに照らさた人物を見て、俺は息を飲んだ・・・。
絶世の美女だった。
いや、美女と言うほどの年齢ではなく、美少女と言った方が正しいだろう。
身長はさほど高くはないが、スレンダーな身体付きで、モデルのような体型だ。
髪は腰の辺りまであり、ふんわりとして柔らかそうだ。
動きやすいように、先をリボンで結っている。
「ちょっと!聞いてんの!?まったく・・・見慣れない服を着た奴が居るから後をつけてきたら、とんだ災難だわ!!」
その美少女は、怒りながら頭をさすっている。
彼女のボリュームのある長い髪の隙間から、長く尖った耳が見えた。
「エ・・・エルフ!?」
そう、エルフだ・・・漫画やアニメでしか見た事は無いが、この特徴のある耳はエルフだ。
「何よ?別に珍しいもんじゃ無いでしょ?」
彼女はまだ頭をさすりながら、驚く俺に言ってきた。
(言葉が理解出来る・・・。ここは日本じゃなさそうだけど、一体何処なんだ?エルフが居るって事は、まさか異世界か!?はっはっはっ!コスプレかも知れないし、まさかそんな事は無いよな!無いよな・・・?)
俺が逡巡していると、エルフの少女が話し掛けて来た。
「で、あんたは何者なの?何処から来て、何処に行くつもり?この先には、私の住んでる村しかないわよ?」
混乱していた俺は、彼女の言葉に我に返った。
「俺は東雲 晃、人間だよ・・・。ショッピングモールのトイレから出たら、この森に居たんだ・・・。何処かに行こうにも、右も左も分からない状態だよ・・・」
「シノノメアキラ?ショッピングモール?何か変な名前ねぇ・・・?」
「アキラで良いよ・・・。ショッピングモールは沢山のお店が集まった建物だよ・・・」
俺は不思議そうに呟く彼女に簡単に説明した。
「私はラフィエル・ウインダムよ。ラフィで良いわ!あんた、悪い奴じゃ無さそうだし、行く場所無いなら村に来る?私は村長の娘だし、多少の融通は効くわよ?」
(ウインダム・・・昔あった車みたいなカッコイイ名前だな・・・)
「あぁ、そりゃあ助かる・・・。じゃあ、お世話になるよ・・・」
俺はラフィと名乗った少女に頭を下げ、彼女の後ろをついて行った。
(この子も悪い奴じゃなさそうだし、大丈夫だろ・・・。何より、これで野宿しなくて済む・・・)
俺は安堵のため息を吐き、彼女の村へと向かった・・・。