6.5.地理と歴史
魔法という概念が存在する世界「ウィルガルム」
クリーチャーや悪魔が生息し、魔術の知識を持った種族もいるという。
この話は術師達の中の「神出鬼没の異端術師」と呼ばれ、伝説となった
いろいろな場所に突然現れるという魔術師たちのお話。
時は半月前まで遡る。
その日、エドはリズとケルトに地理と歴史を教えてもらう事になった。
有益な情報を手に入れても場所が分からなければ捜しようが無いからである。
「じゃあまず大陸から始めましょうか」
かなり大きな地図を机に広げて指差す。
「まずここが私達がいるエイドラ大陸、その隣にあるのがアルヴ大陸よ」
地図の2割を占めるエイドラ大陸に対してその3分の1ほどのアルブヘイム
「アルヴ大陸は精霊種が住んでいる大陸よ、エルフとか精霊とかね。
もちろん魔法についての研究だと私達は遠く及ばずね」
「アルヴ大陸にはエルフの他にトロールやゴブリン、それにドラゴンもいると聞いたことがありますね」
「ドラゴンて…それ神話の世界じゃんよ、絶対死んじまう…」
「アルヴ大陸の周りには沢山の小島があって、そこにもいろいろな種族が生活しているらしいわ」
次にケルトがもう一つのエイドラ大陸より少し小さな大陸を指し示す。
「そして、この地図ではアルヴの右上にあるのがギリー大陸だと思われます」
「この地図では、ってどういうこった? ケルトも勉強不足なのか?」
「違うわよバカ。ギリー大陸は年々場所を移動してるみたいなのよ。常に大陸が固定されてないの」
「航海者達も、探索眼使って探すらしいんですがそれでも見つからないらしいですね」
「だからこの地図には過去に見つかった時の位置しか載っていないのよ、お分かり?」
「ギリー大陸は常に場所が変わるのでそこで停泊したりしないらしいんです。だからギリー大陸は謎だらけで情報も
まったくありません」
「それは大陸って言うのかおい…」
「あと残ってるのはフェルド大陸ですね」
他の大陸に比べて複雑な形をしていて、島も他の大陸と比べて多く感じる。
「フェルド大陸は、俗に魔族と呼ばれる人たちが住んでいて、とても強力な魔法を使うと聞きます」
「えぇ、魔族ぅ? ドラゴンといい魔族といい会いたくねぇやつばっかりじゃねぇか…」
「他にも大陸があると考えられています。まだ人類が到達したのはこの4つだけですからね」
「もう出てこねぇでいいよ…」
「泣き言言ってるんじゃ無いわよ、まだ大陸4つだけよ?」
次はエイドラ大陸の拡大地図を持ってきた。色や大きさの違う点がいくつも書かれていて覚えるのは大変そうだ。
「まず私達がいるアルラード帝国はここね」
地図の左上を指し、そこにある大きな点をトントンと叩く。
「この帝国の付近には私達が出てきた森が帝国の南東にあるわね、それ以外だと城塞都市ガルドと少し遠いところにファミルア魔術学院、学院は他の国からも生徒を募集しているようよ」
「で、とりあえず一気に国だけ頼む。覚えられねぇ」
「エイドラ大陸に存在する大きな集まりは全部で6つあるわ」
アルラード帝国 グリント共和国 ミラヴァル宗国 マジェンテ王国
ジェントン魔術同盟 港国オルディア
「この6つの国は友好関係がとても複雑なのよね、私でも今の情勢はあまり分からないわ」
「確か帝国は今ミラヴァル宗国と関係が悪いはずです、あとは魔術同盟は共和国以外のすべてに宣戦布告をしていると聞きます。グリント共和国は全ての国と友好関係にありますね」
「まぁ外交関係に関しては常に情報を追い求めるしかなさそうね」
「俺は勉強なんてこれ以降無しにしてほしいぜ…」
「港国オルディアはアルヴ大陸に船を出してますね、ギリー大陸を最初に発見したのも
オルディアだと言われています。私が使ったあのマジックアイテムもここで輸入しています」
エドは前に助けてもらったときにケルトが使っていた逆魔法を思い出す。
「あの時は知り合いの強化術師から高値で買わされたんですが、今覚えば買ってよかったと思えますね」
もう持っていませんがという風にポケットを裏返して見せるケルト。
「まぁ、それはリズがいるから逆魔法は任せるとするか」
「それにしてもエドさんの剣は素晴らしいですよね…一体どうやって鍛造なされているので?」
「あぁ、こいつを作るには精霊魔法の力が必要なんだわ」
「私が初級の火霊をエドに分けてあげたの」
「んでその流れてくる精霊を剣に注ぎ込んでから耐久力を向上させれば魔法剣の出来上がりってわけ」
ごく普通の事のように言ってのけた二人だが、この剣は魔力コントロールを完璧にこなすリズと、他人の魔力を自分の魔法と混ぜて100%の魔力を剣に注ぎ込む技術を持ったエドにしか出来ない業物だろう。
これだけの技術を持っていながら何故に無名なのかがとても気になる。
「まぁ俺めんどくさがりだし基本この1本の剣があれば他のものはいらないんだわ」
「な、なるほど…。あの…よければ私に作っていただけないでしょうか?」
「ま、気が向いたら作ってもいいぜ。召喚魔法を媒体にして作ってみるのも面白そうだしな」
「こらこら、話が脱線してるわよ? それじゃ地理はこれぐらいにして、歴史に行きましょうか」
机の上から地図をどけると本棚から人の頭部ほどもあるだろう分厚い本を取り出す。
「うっわ…これ作った奴頭大丈夫か…」
「さすがに全て教えてると、時間がいくらあっても足りないから、帝国の歴史だけにするわね」
「とりあえず、帝国の興りから教えるのが妥当かと思いますよ」
「そうね、じゃあ最初から教えましょう」
分厚すぎる歴史の教科書を開いて指差し説明を始める。
「帝国は元々小さな集落だったけど、ある日突然とても強い魔力を持った子が生まれたのだけど
その子供が後の初代帝王ね。伝承だと帝王の子供も孫も強魔力で恐れられたそうよ」
「今の帝王も強魔力なのか? 商店街では全く帝王の話は聞かねぇけど」
「それはですね、今の帝王は初代帝王の血筋ではないのですよ」
「答えになってねぇし意味分からん、馬鹿にも分かるように頼む」
「最強の帝王だったけれど恐怖政治のせいで反乱が起きたの。そのときに反乱軍によって帝王は処刑され、その時の帝国は再起不能だと思われていたそうよ」
「そのとき国を治めたのが今の帝国一族です。初代帝王の兄弟で魔力は微妙、ですが子供の頃から内政を任されたりするほどで、弟一族全員が秀才だと言われています」
「つまり、その秀才帝王様が今の帝国を築き上げたって事か?」
「そういうこと。旧帝王の弟が初代新帝王になってから現帝王は5代目よ、わずか5代でここまで築き上げるのは、そう簡単に出来ることではないわ」
リズはさすがだわと感嘆すると同時に真面目な顔になる。
「そしてこの前入手した情報によれば、兄の一族には生き残りがいるらしいの。噂では名のある盗賊で大きな盗賊団を率いているみたい」
「なるほど、じゃさっそく歴史が役に立つってわけか。場所はどこなんだ?」
「場所は城塞都市ガルドから南に進んだ先にある洞窟、その地下に潜んでいるらしいわ」
「とりあえず乗り込んでつぶせば良いってことだな」
「そういうわけにも行きません。噂通りであれば旧帝王の末裔がいますよ、当然準備も必要です」
「じゃあ次は装備の強化と魔力強化に取り掛かりましょう」
「あー…やっと長いお勉強の時間が終わった…」
「またいつか勉強するときが来ると思いますよ…未来視ではなく勘ですが」
そしてまた三人は新たな目標を掲げて行動を開始するのだった。
ネーミングセンスの無さに苦労中の狼兎です。
今回は一気に設定を放出してみましたが時々見る程度が丁度いいかもですね。
次は7話を予定していますがもしかしたら魔法について
詳細設定を先に投稿するかもしれません。