13.失敗と決断
今回は8500字となっています。
「ねぇ、君達ってさ、魔族って見たことあるかい?」
カルガントロのユニオンリーダーであるジョージ・フランクの変わり様に、驚きを隠せない様子のカルガントロメンバーの三人とエド達三人。ジョージは夕焼けの空より紅い瞳を一人ひとりに向けて問いかけ始める。
「ジョージ...お前、ジョージだよな...?い、一体その魔族みたいな目はどうしたんだよ...」
「魔族の特徴として教えられてきたことは何がある?夕焼けより紅い瞳?頭から突き出た二本の角とかかい?...それは魔族全員に共通する事だって教えてもらったかい?」
人類に魔族の特徴として伝えられている話として、夕焼けより紅い瞳を持ち、頭から二本の角が突き出ている。そしてそれはすべての魔族に共通している事実だと伝えられている。他にも翼が生えているだとか角が三本や一本だったり、人型ではないという説もあるが、それらはすべてただの船乗りの証言であり学者である我々の説が一番だという学者の意地によって隠されたり嘘として流される事が大半だ。
「魔族の特徴って教えてもらったんだったらそれは間違いだね。魔族は人型では無い事が多いし、なおかつ角の本数は家系と魔法の才によって左右されるんだ。」
「じ、じゃあお前も魔族...だったのかよ...?」
「残念、それも間違いだよ」
「だったらお前は何者だ、ジョージはどこにいる!俺達のリーダーを返せ、魔族め!」
「ここにいるじゃないか?僕が正真正銘のリーダーのジョージだ。ずーっと一緒にいたじゃないか?まさか忘れたなんて言うんじゃないだろうね?」
「嘘つけ、ジョージが魔族なわけがないだろう!?俺達のリーダーのジョージは瞳が紅くなったことなんて一度も無かったぞ!」
「まったく...君は相変わらず馬鹿だなぁ。しかたないからヒントをあげるとしようか。魔族の特徴と人類の体を合わせ持つ、というと考えられるものは限られるね?」
「...あなたは魔族と人間の混血....ということかしら?」
リズの答えにジョージは嬉しそうに頷いた。
「さすが、お嬢ちゃんご名答。そうさ、僕は魔族と人間の混血だ。普段は人間だが魔力を解放すれば一時的だけど擬似的な魔族になることができるんだよ。いつも抑えている力を解放した時の全能感は最高だよ....」
紅い眼で自分の人間ではなくなった身体を眺めて酔ったように呟いている。
そしてふと、ケルトは思いついた疑問を投げかけた。
「なぜ....何故、魔族との混血のあなたが今いきなり正体を明かしたのです....?」
「何故今か。そもそも僕がこの大陸に足を踏み入れたのは6年前、帝国の王子?とかいうのが僕を呼んだんだ。100年に一度の人間と交換で自分を帝王にしてくれってね」
「チッ、貴族に売り渡すなんてまったくの嘘かよ...あの野郎...」
6年前、100年に一度の人間、帝国の王子。この単語が意味することは他でもないリズの誘拐事件だろう。あの6年前の出来事の裏ではこの魔族が呼び寄せられ、それが今を作り出しているということになる。これらすべての元凶は間違いなくロルドだろう。
「でも、なんだか失敗しちゃったみたいだったから、僕は潜伏することにしたんだ。人間の力というものを知る為に。もちろん魔族だって人間のことをすべて知っているわけではないからね」
「そんな...嘘だよな?。カルガントロを作ったのも、俺たちを訓練したのも、今までの活動も、すべて人間について探りを入れてただけだってのか....?なぁ、嘘だろ?.....答えろよ!」
カルガントロのサブリーダーの男はもはや崩れる寸前だ、今までの生活すべてが偽りだと知ったのだから仕方ないのかも知れない。他の2名も今の状況を理解できずにただ立ち尽くしている。
「まったく...君たちといるととても疲れるよ。何を言っても理解せず成長も少ない、ここまで育てて来たけど君たちはもう用済みでしかないんだから黙っててもらえるかな?いい加減僕も怒っちゃうよ?」
優しい口調とは裏腹にジョージの額に青筋が浮かんでいて、怒りを抑えている事が分かる。
「黙れ...黙れ!お前はジョージじゃない、俺たちのジョージを返せえええ!」
仲間の静止も聞かず、サブリーダーの男は剣を抜きジョージに向かって走り出す。
「まったく....何度言っても理解できないのは人間の習性かい?」
ジョージは、腕を上げて横に薙ぐ。
すると、見えない刃が空を走ったかの様に男の鎧が横に割れ、衣服が血に染まってゆく。
男がうめき声をあげて、膝を折ったところでもう一度、腕を横に薙ぐ。
そして今度は首が落とされた。わずか腕を2回横に薙いだ、唯それだけで息絶えた。
「嘘だろ....」
カルガントロの2人は、リーダーのジョージが仲の良かったサブリーダーの男を殺した事に対していまだに理解が追い付いていないようで、まるでいやな夢を見ているかのような表情をしている。するとジョージの目が残った二人に向けられ、その視線からは強烈な殺意が放たれていることがわかる。それを向けられた二人はその場に立っているだけで精一杯といった感じだ。
遂に耐えられなくなった一人が走り出す、そこに向かってジョージは手を振り上げると、さっきと同じように腕を横に薙ぎ、逃げたメンバーの背中がまっぷたつに裂けたのが見えた。これで残り4人になってしまった。立ち向かっても勝てない、逃げても一瞬で殺される、自分へと向けられている強烈な殺意のせいで体が動かない。ああ、何故こんな事になってしまったのだろうか。
まったくもってこんなはずではなかった。子供の頃から魔法が使えるということだけで優遇され、両親や環境にも恵まれて育った自分は、将来に対する不安などまったくなかった。事実、学校では成績優秀で授業でできないことなどなかった、大人になって魔術師と呼ばれるようになってからも功績のあるユニオンである、カルガントロへの加入を果たし、さぁこれからが魔術師人生の第一歩だと、そう意気込んで期待に胸を膨らませていた。はずなのに、なぜ、何故自分はこんな事に巻き込まれてしまったのかと―――。
さて、カルガントロの2人が殺され、残りの一人となってしまった。目の前で人が殺されているというのにエド達が助けに入らないのには理由があった。ジョージの正体をリズが暴き、ケルトはジョージの意識をカルガントロに向けさせるための質問を投げかけた。その質問のおかげで、裏でロルドが手を引いていたことも分かった。サブリーダーの男がジョージに対して攻撃を仕掛けた時、エドも剣を構えて突撃しようとした。それをケルトに止められた次の瞬間、男の鎧が二つに割れ、次に胴体が裂けた。ケルトに止められずに助けに入っていれば助かったかもしれない、そう考えると怒りが湧いてきた。ジョージに会話が悟られないようにしながらも怒りをぶつける。
「何で、何で止めたんだ!!」
「落ち着いてください、今は動く時ではありません。」
「人を見殺しにしてでも動くなっていうのかてめぇ!」
「今動けば、確実に全滅します。ですから今は動いてはいけません、敵の攻撃を見極めて作戦を練らなければ生き残れない...見殺しだろうがなんだろうが私はできるだけ最小限の被害でこの場を収めなければならないのです!」
ケルトの心からの叫びであることはエドにも分かる、だがそれであっても見殺しにすることはしたくなかった。それはケルトも同じだったが、全員が殺されてしまうことは避けなければならなかった。そのために切り捨てなければならない事もあったのだ。
「エド、私も見殺しにはしたくないけれどケルトの言うことも正しいわ。でも、私も二人を失いたくないの....だから、冷静に、考えましょう?」
「....分かった」
リズの言葉もあり、とりあえずケルトの意見を聞くことにした。
「まず、私たちは敵を倒す、または退けるだけの力を持っていると思われます。ですが、今欲しいのは確実な勝算です。敵の攻撃手段の一つはこの目で見ました、そして威力も。1回で真鍮の鎧を割る威力ですが、エドさんの装備であれば3発で耐えられるはずです」
3人の装備はエドとリズが魔力を込めた胸当てをエドが装備し、ケルトは自衛の為のコウモリを強化しているし、リズはエドお手製の、食べれば魔力をある程度まで回復出来る飴(事前にリズの魔力を込めてある)を10個は持っているので魔力枯渇の心配はないだろう。
「そして一番重要なのが、ジョージの疑似魔族化が一時的ということです。おそらく、魔族化が解ければあの見えない刃の威力も落ちる、もしくは使えなくなるはずです。それを狙ってなんとか時間を稼ぐべきだと考えます」
この話をしている間に、もう一人が背中を裂かれて死んだ。そして残るは4人。そして今度はジョージの方から、ゆっくりと確実にカルガントロ残りの一人と距離を詰めてゆく。男は逃げも攻めもせず固まっている。
「....いつ、いつ動くんだ....」
「では....行きましょうか...。必ず3人で帰りましょう、何があっても」
ジョージが腕を上げたその瞬間、エドが全力で駆け出し、ジョージめがけて剣を振り下ろす。やはり一時的といえども、魔族化しているジョージの腕で止められてしまう。それでも、次から次へと攻撃を加え続ける。対するジョージは、装備している剣を使わずに腕だけで、すべてを受け流してしまう。その間にカルガントロの一人は逃げ切ることが出来たようだ。
ジョージは魔族化しているために、疲労はあまりないかもしれないが、エドは人間なので、いずれは疲れてしまう。そして段々と動きが鈍くなり、剣の振りも遅くなり始め、ついにエドが少し体勢を崩し、連撃に一瞬の隙が出来てしまった。その少しも命取り。ジョージが一薙ぎ、胸当てに直撃したが、傷ができただけで体へのダメージはほぼ無い。事前に作成、装備しておいた強化防具が役に立ったということだ。
「強化済みの防具か....。でも、胴以外はがら空きだよ?」
エドはまだ体勢を崩したまま、次の攻撃は、明らかに首を狙っているために防ぐことはできない。そして、ジョージが首に向けて腕を一薙ぎ――
「 忠実なる人形よ、我らを護りし兵となれ! 巨造兵 」
「 山が怒らば万物を吹き飛ばす! 大砲岩!」
――する直前に、リズの土魔法で岩を飛ばして、見えない斬撃を防ぎ、壁を壊そうともう一薙ぎしようとするジョージに金属の巨造兵が体当たりして吹き飛ばす。
「エドが疲れて隙が出来るなら、別の物で埋めてしまえばいいのよ。エドは私達が守るわ」
「私も、時間を稼ぎます。直ぐに体勢を整えてください!」
二人が稼いだ時間を使って体勢をしっかり立て直して、集中しなおす。
「くっ...3対1とは卑怯だなぁ。僕だって一応人間なんだから手加減してくれてもいいじゃないか?」
「その見た目でよく言うぜ....。このままじゃ埒が明かねぇ、一気に行くぞ...!!」
そしてエドは魔法剣を解放すべく、剣を構えて集中して、詠唱を開始する。その詠唱を見て危険と判断したジョージが、詠唱を中断させるべく再び攻撃を開始する。
「そんな見え透いた必殺技なんて、発動出来ると思ってるのかな?」
「ええ、もちろん出来るわ。私達がいれば、ね?」
「忘れて頂くと困りますね...」
エドを守るように巨造兵と、土の人形が立ちはだかる。この人形は、前に影の襲撃を受けたときに「自分も使えたら便利なのではないか」と考えて、リズが練習したものだ。今では、6属性すべてとは言わないが闇と光以外の4属性の人型を1体だけ、出現させる事ができるようになっている。ジョージの刃を受けても、ゴーレムは弾き、土の人形は崩れてもすぐ再生する。今のこの状況では無限の壁と化していた。
そして、ついにエドの詠唱が完成する。それと同時にゴーレムは消滅し、土の人形は大地に帰った。
「 剣に宿りしその劫火、今こそ力を解き放て! 強化解放! 」
完成した詠唱は以前と同じ。しかし、威力は倍以上に造り直してある。エドの詠唱が終わった剣には劫火が纏い、すべてを食らい尽くさんと荒れ狂っている。
「さあ、今からは俺のターンだぜ?」
「それはどうでしょうか?まぁ少し威力が高くなったようですが、たかが人間がッッ!!?」
たかが人間が魔族に勝てはしない、そう言おうとしたその時、少し離れた場所にいたはずのエドが一瞬にしてジョージに肉薄する。咄嗟に避けるも間に合わずに、軽くは無い火傷を負ってしまう。反撃のために腕を薙いだ時には、一瞬にして背後に回っている。そしてもう一度劫火の剣が振るわれ、火傷を負う。
「.....何だ?何が起こった?何をした?」
「さぁ?何が起こったんだろうなっ!」
そしてまた、ジョージの目の前に一瞬にして肉薄するエド。種はとても単純で、事前にエドの靴に筋力強化を施しておいたのだ。すると、高速で移動することができるようになった。だが強化されているのは靴だけで、高速移動をした際に下手をすると、上半身が加速に耐えられずに折れるという最悪のデメリットが存在するほどなので、連続しての仕様はかなり負荷がかかる。つまりずっとは使っていられないし、下手をするとピンチどころか命が危ないため、最後の切り札という事になるだろう。
両者の実力は五分五分で、一向に決着がつかない。ジョージは皮膚が焼けて所々爛れている、エドは全身に切り傷ができ右肩に少し深い傷を作っている。このままでは3人に勝ち目はない。
「ちっ...。ケルト、リズ、バックアップ頼む」
「任せなさい」 「了解です...」
3人は攻撃しながら少しずつ後退を始める。しかし、上空から隕石の様な尖った岩が無数に突き刺さり、逃げ道をふさがれる。これはジョージが土属性の魔法を無詠唱で使ったとしか考えられないが....。
「舐められたものだねえ、僕が魔法を使わないと思ったのかい?」
「無詠唱...ですって...?」
「君たち人間は何も知らないんだね...」
逃げ道をふさがれ、無詠唱でおそらく高位の魔法を使用されたことで動揺が走る。魔法を発動の最低条件は、魔法の名称を言葉に出すことが必要不可欠、という魔術ギルドの説が有力であった。そして容赦なく見えない刃が撃ち込まれ、防ぐことで手いっぱいになってしまう。これは持久戦になる、そう読んだ3人は魔法を切り替える。リズは飴をエドに3つ投げて解放を維持できるようにして、リズは大砲岩を小さくして使い、ケルトも毒大蛇のような小さな蛇を召喚してジョージに襲い掛からせる。
一旦体勢を整えたところで、少年少女が視界の端に映った。まさか、とは思ったが、服装やその驚愕している顔を見る限りやはり学生だ。そしてケルトは、途中で学生を拾って行ってくれとギルド長が言っていたことを思い出した。ジョージにも既に気づかれて若干の殺意を浴びているだろうし、まだ戦闘経験も無さそうでとても心配だ、そう頭の端で考えているとリズが警告を発する。
「あなた達今すぐそこから離れなさい!!」
その言葉を聞いて咄嗟に後ろへ跳んでいるのが見える。いくら学生とは言えども成績優秀な生徒を集めたのだろうと推測できるが、仲間の一人が怪我をしたようで戦場から離れてゆく。
エドは必死に攻撃を防ぎつつ、隙を見つけては火傷を負わせられている。3人の目的であるジョージの魔族化解除を狙った作戦はもはや失敗だろう。今もジョージは魔族化しているし、魔力も切れそうな様子はない。魔族化は一時的と言っていたが、それはどれだけの間なのかは、既に分からなくなってしまっていた。エドが斬り下がり2人が魔法を打ち込む、それを繰り返して時間を稼ぎその間に作戦を練る。あわよくばジョージの魔族化解除を狙う。
何度打ち合っただろうか。突然、リズとケルトの隣に先程下がっていった学生達の中の2人が駆け寄ってきた。一人は背が小さく金髪の男子生徒、もう一人はやんちゃそうな黒髪の男子生徒だ。2人は戦闘の余波を食らわないように移動している、しっかりと攻撃範囲内を避けて機敏に駆け寄ってくる姿を見て、驚きを隠せない。下がっていってからの間、戦闘を見ていただけで攻撃範囲をしっかりと見極めた事に対して、だ。そして2人の学生はこちらへ辿り着き、ある提案を始めた。
「俺達はファミルア学院の生徒で、学院長から討伐隊への参加を要請された。俺はジークでこいつはルアンだ。俺達から提案があるんだが聞いてくれないか?」
リズとケルトは顔を見合わせて、とりあえずこの状況を打開するためになるかもしれないと聞くことにした。
「ルアンは異端魔法が使えて人も4人までなら転移させられる。それで4人をまとめて転移させれば逃げ切れるんじゃないかって思ったんだが、どうだろうか」
「転移魔法....それなら逃げ切れるかもしれないけど、この場にいるのは5人だわ?一人残らなきゃならないじゃない。誰か一人を見捨てて逃げるのは私は賛成しかねるわ」
「この状況下で我々が勝つ確率は0に近いと言っていいんだ、最悪の事態を避けるために一人だけを残しても逃げる方が得策かもしれません...」
「でも....誰かがここに残らなきゃならないなんて、誰が残るのよ!?」
「俺が、俺が残る」
「ジーク、といったかしら。あなたはまだ学生なの、まだ未来があるのにこんなところに一人残すわけにはいかないわ」
「ハッ、あんたには言われたくないね。俺は今年で14歳なんだ、あんたに比べたらかなり生きた方だぜ....ルアン、そろそろ詠唱始めとけ」
「わ、分かりました....」
ジークの言葉でルアンが、魔法発動のために魔力を溜め始める。詠唱には時間がかかるために早いうちに詠唱をさせておこうというジークの判断だ。これによって誰が残るかという議論にタイムリミットを作るという目的もあったが。
「俺は、誰に何を言われようと残る。心配はいらないぜ?」
「....分かったわ。それならエドも残すわ、それで何としてでも帰ってきなさい。あとこれ、エドに渡してくれるかしら?」
リズはポケットから残っていた飴玉5つをジークに手渡した。....知らない間に話が進んで置いて行かれるなんて可哀想....とかいう思いもあったが、残してくれるというのなら心強い。
「それぐらいなら任せてくれ。....それじゃあルアン、頼んだぞ」
そしてルアンは魔法を発動させる。もともと転移魔法には詠唱が存在せず、ただ唱えるだけで発動する。必要なのは発動時に消費する大量の魔力だけである。
「 行くよ...。空間転移」
転移魔法が発動すると、ルアンとケルトにリズの体が光に包まれて合体し、一つの塊になったと思うと音を立てて弾けた。おそらく転移が成功したのであろうと考える。
戦闘の中心へと目を向けると、いまだにエドと呼ばれた男と魔族のような奴が戦っている。今からあの中に入ってゆくのかと思うとゾッとするが、自分から言い出したことなのだからやるしかない。やらなければならない。生き残るために。まずは深呼吸をして精神統一、そして得意とする水の魔法を発動する。
「 海を揺さぶる波の如く、押し流せ! 破流波! 」
ジークが手を地かざすと、水が湧き出し小さな池を形成する。そして手を動かして魔族の男に標準を定め、一気に解き放つ。海の波が陸に上がり泥土を巻き込みながら流れる様は、まるで土砂崩れの様だ。ジョージもエドも、目の前での戦いに必死でこちらの攻撃に気づいていない。そしてエドが後ろ吹き飛ばされたタイミングを狙って、ジョージを泥波で包み込んで圧し潰す。その間にエドの元へ駆けて行って、自分達の案で他3名を転移させて安全なところへ避難させたこと、自分とエドでなんとかこの魔族を退けて皆の元へ帰ると約束したことを説明した。
「おう、そうか...。とにかく逃げて帰るしかなくなっちまったな」
「分かったらとにかく攻撃を続けてくれ。あと飴だ、渡してくれって頼まれた」
ジークは、懐から先程渡された飴をエドに手渡す。受け取ったエドは即座に1粒を口に放り込んだ。かなり魔力を消費していたようで、剣の劫火もかなり弱まっていたがまた元に戻ったようだ。
「ふう...助かったぜ。ありがとさん」
「くっ...もう持たない....来るぞっ」
急激に魔力の消費が大きくなり、ジョージが中で泥波からなんとか抜け出そうとしていることが分かり即座に警告を発する。エドもすぐに理解して剣を構えて、再度気合を入れなおす。そして数秒後、ドゴォオオンという爆発音とともにジークの破流波が消し飛ぶ。中から出てきたジョージは明らかなダメージを受け疲労の顔をしており、思った以上の効果が望めたようだ。
「やってくれるね....。僕だって君たちと同じ人間なのにひどいねぇ」
「一時的とはいえ魔族は魔族なんだろ?別に問題ねぇだろてめぇなら」
ジークの言葉に対してジョージから強い殺気が放たれる、思わず後ずさりしてしまいそうなほど。だが俺は一歩も引いてやらない、むしろ前に一歩踏み出す。
「何が何でもてめぇをぶっ潰して俺はあいつらの元に帰るッ!」
どうも、最近リアルが忙しくなってまいりました狼兎です。
遅くなりましたが「神出鬼没の異端術師」13話を投稿致しました。
ちょこちょこ5000字程度で投稿していくのもいいかなと思いましたがどうせならこれからもずっと8000字付近をうろちょろさせて書きたいですね。
今回は12話時のエド・リズ・ケルト視点とその後を書きましたがいかがでしたでしょうか?心理描写やら新登場の魔法詠唱やらを考えていたらかなり時間がかかってしまったのです...。15話もまだまだ時間がかかると思われますが、これからも「神出鬼没の異端術師」をよろしくお願いします。