10.準備
今回はまま長めになっています。
三人は戦いに備えるためにピクニックに来ていた。
場所は帝国を出て森林の反対側の平原、昼まではまだ時間があるために修行を始めるようだ。
「じゃあまずはエドからやりましょう、まず私から言わせてもらうとエドは魔法に頼りすぎなのよね」
確かに言われて思い出してみれば、大抵の場合は剣で戦うというよりも籠められた魔法で戦っている。
「だってよぉ、俺が丹精籠めて造った剣だし、魔法のほうが威力高いしよぉ?」
「言い訳無用よ!とにかくエドは剣術そのものを磨きなさいよ。まず最初は素振り1000回よ!!」
「魔法の鍛錬じゃねぇっ!?どういうことだぁ!」
エドが何やら文句を言っているようだが聞いてない振りをして無視しつつケルトにしゃべりかける。
「それでケルトには装備を買ってきて欲しいんだけど大丈夫かしら?」
「任せてください、こう見えて品定めには自信がありますので」
「それは安心ね、頼んだわよ。あそうだ、ついでにピクニック用のサンドイッチとか買ってきてー!」
「ピクニックに出かけてから気付くかそれ...もしやリズって意外と抜けてガハッ!?」
リズの拳骨がエドの脳天に直撃する。
「馬鹿言ってんじゃないわよ!さっさと剣術を磨きなさい!」
「そんな簡単に上達できたらとっくにやってるっての.....んでお前は何するんだよ?」
「私?私は魔法強化が目標ね。ほら、私の鳥篭だってすぐに壊されちゃったじゃない?」
「あぁ、あの雑魚の爪にあっさりとガハッ!?」
再度エドの脳天に衝撃が走る。
「エドも人の事言えないでしょ!あんな雑魚に傷を作るなんてね?」
「うっ....それは.......」
「まぁとにかく魔力を注ぎ込んで鳥篭を作っておけば逃げられないですんだのよね....まったく、私とした事が失態だわ....」
エドは内心その後の出来事を思い出さないかと冷や汗だったが、意外と本人は気にしていない様子でホっと一息付く。
「そ、そうかい。.....んで、この素振りいつまでやってれば良いんだ?」
「1000回よ?魔法剣が無い今はただひたすら剣術を磨くしかないじゃない?」
「いやいやいや、俺の魔法で剣作れるだろ。今作ればいいんじゃねぇか?今だったらリズもいるし精霊籠めてもらえるしよぉ、この剣だったら今からでもできるって」
しばらくリズは考え込んだ後に昨日の出来事を思い出しふと質問する。
「.....ふと思ったんだけど、あなた昨日巨造兵に魔法使ってたわよね?」
「話そらすなよっ!はぁ、えっとだな、他人の魔力と混ざれば俺の強化は成功するらしいんだよ」
「え?つまり魔力の塊の巨造兵と自分の魔力を合成して強化したってこと?」
「さっきから質問多いな...まぁそうなる。で、魔法剣作りたいんだけど、今できるか?」
剣を鞘から抜いて地面に置くと手を合わせてお願いポーズをする。
「まぁいいわ、造るの手伝ってあげるわよ。でも今は解放しないで頂戴ね?」
「助かるぜ、とにかく魔力たくさん送ってくれよな!」
一方ケルトはリズに頼まれた通り帝国へ戻ると商店街で材料を集め始める。
集めているものは自分たちの体に合った大きさの装備だったり、リズから頼まれていた食料だったりする。
「いやぁ、相変わらず賑やかでいいですね」
商店街はいつもより賑やかだ。
理由はおそらく、三人が夜に現れる影の原因を突き止めて術者を倒したことをギルドに報告したからだろうと推測できる。この調子だと夜も盛大なお祭り騒ぎのような光景が見られるだろう。
すると突然、ケルトは武具屋の前で足を止める。
「この剣、精巧に作られててとても良い品ですね。しっかりと鍛え上げられた刀身も美しい....」
しばらく商品の剣に見惚れていると武具屋のおじいさんに声をかけられる。
「お兄さんいい目してるね、そいつはつい今朝仕入れたんだよ」
ケルトが「どなたかが納品していかれたのですか?」と聞くと、
「いや、それはアルヴ大陸から帰ってきた商人が売りに来たんだよ。港町あたりからここまで来たって言ってたかな....気になるなら多分そこらへんにでっかい皮袋背負ったゴロツキに声かけてみたらどうだい?」
ケルトは剣を買い、おじいさんに感謝の言葉を述べて剣を片手に商人を追いかけた。
すこし探すとおじいさんの言葉通り、人ごみの中にいても目立つ大きな皮袋を背負った男を発見する。
「すいません!そこの皮袋背負った商人さーん」
ケルトが呼ぶとすぐに反応してこちらを向いてくれる。
振り向く際に袋が何人かの頭を叩き、嫌な顔をされているが本人はお構いなしの様子。
「はいはぁい!この大商人アンドリューに何か用かなー?んー?」
見た感じの印象はおっさんが言っていた通り「ゴロツキ」である。
顔に走っている傷跡や歴戦の戦士を思わせる体は船乗りの雰囲気を纏っている。
おそらくこのアンドリューという男がアルブ大陸から帰ってきたという商人だろう。
アンドリューはケルトの手に握られていた剣を見て
「おやおやぁ?その剣はオレがさっき売った剣じゃないか?」と気付いた様子だった。
「ああ、とても見事な剣だったのでつい。武具屋のおじいさんがあなたに売られたと教えてくださったので興味本位で追いかけてみたのです」
「なるほど。で、何か品物でも見てくか?」
「おお、出来ればお願いしたいですね」
ガッテン承知!と路地裏に入ると袋をシートのように広げて品物を並べる。
その中には思わず目を見張るようなものが大量にあったのだ。
アルヴ大陸に住んでいるという精霊やエルフ達が持っていただろう書物や武具もある。
そして何より、出来れば手に入れたかった品物もあった。
「これ、ひとついくらで売っていただけますか?」
「これはだな、多分一個4000ダクスだな。どうだ、買っていくか?」
ケルトは残念そうに首を振る、とても買える値段ではないのだ。
4000ダクスとは我々の世界でいう2000万に等しい金額である。
ちなみに1ダクスは1万あたりでその下はルクスという銀貨になる。
先ほど買った剣でさえ7ダクスもしたのに4000ダクスなんて到底払えるはずも無い。
「そんな悲しい顔するなって!初めてのお客さんには超特価サービス一個4000ルクスでご提供しましょう」
「ほ、本当ですか!?これかなり高価なものなのでは...?」
「いやいや、航海すればすぐ手に入る品物なんでね、お安くしときますよ?」
手もみをしながらアンドリューは問いかける。
実に商売上手な男だから自称大商人というのもあながち嘘では無さそうだ。
「もちろん買わせていただくよ、5個頂けますか?」
お金渡して品物を受け取るとアンドリューは毎度あり!と言うや否やさっさと歩いていってしまった。
「なんだろうな....彼とはまたどこかで会う気がするよ...」
なんとなく勘でそう思った。
後々、実際に再開を果たすのだがこれはまた別の話。
「さてさて、そろそろリズさん達の所に戻りましょうか」
丁度そのころ、二人は魔法剣を作成し始める。
エドが剣に触れると刀身がにわかに白い光を帯び始める。
リズはエドの肩に手を置き、魔力を多めに送ると剣の光が強くなった。
その状態で少し待つと刀身の光が赤く染まってゆく―――
ピキッ
何か音がした、とても嫌な音が。
まさかと思い剣を見てみると刀身に一筋のヒビが入っている。
「こ、これって魔力注ぎすぎて剣が自己崩壊起こしてるんじゃないかしら....?」
リズが言い終わるとまさにその通りと言わんばかりに数本のヒビが入る。
そして目を焼き尽くすほどの光の爆発が起きたかと思うと剣が跡形も無く消え去っている。
「た、たまにはこういうこともあるよな...そこらへんに売ってた奴だから魔力に耐性がなかったんだな、うん。そうに違いない」
アハハと笑って誤魔化す。が、時すでに遅し。
「まったくもう!エドって馬鹿はぁああ!!」
「しょうがねぇだろっ!?魔力過多で崩壊したことなんて無かったんだからよ!」
いろいろと説明《言い訳》をして何とかリズを落ち着かせる事に成功する。
「で、どうするのよ。練習に使う剣が無くなったじゃない」
「そう言われてもよ、補給する当てが―――」
無いだろと言おうとしたその時、突然地面に大きな影が映る。
敵襲か!?と上を向くと、そこには鷲獅子に乗ったケルトが居た。
「エドさーんリズさーん良いもの買ってきましたよー!」
バサバサと突風を起こしながら降りてくる鷲獅子に吹き飛ばされないようになんとか耐える二人。
鷲獅子が地上に降り立つと霧のように消え去り、ケルトがそこにいた。
「ケルト、少しは周りの事を気にしたほうが、って何がそんなに嬉しかったんだ?」
顔に明らかな喜びの色を浮かべるケルトに問う。
「いやいやエドさん!これが手に入ったんですよ!」
ケルトはリュックの中から見覚えのある札を取り出す。
「これって...前にエドに使ってた回復札よね?どうやってこんなに...?」
ケルトは商店街について剣を買ったことと丁度そのときアルヴ大陸から帰ってきたという
(自称)大商人アンドリューと出会って手に入れたことを話す。
「なるほどね...アンドリューさんに会えてよかったわね。...それとエド、ケルトが剣を買ってきてくれたわよ?」
「なんだってぇ!?リズ、さっさと強化するぞ!」
「はいはい...落ち着きなさいよ...」
エドは剣を受け取るとよく眺めると思わず呟く。
「とてもいい剣だな、刀身もしっかり鍛え上げられてるぜ...」
「私も思わず買ってしまいましたよ、あまりに見事な業物に見えましたから」
「多分この剣ならリズの魔力にも耐えられると思うからたくさん注ぎ込めよ?」
「それで壊れたら私もう知らないわよ?素手で修行しなさいね?」
再び剣に手を置き肩に手を置かれると魔力が流れる。
先ほどと同じように剣が強く光りだすが先程の比ではないのが見てわかる。
光は太陽のように煌々と輝いている。注ぎ込まれる魔力量が尋常ではないのが見て取れる。
しばらくその光景が続いた後、光は剣に吸い込まれるようにして消えた。
「よし、成功だな。やっぱ剣の鍛錬にも左右されるんだなー」
完成した剣は常に刀身の周りを紅い光が包んでいる。
「ほう、これがエドさんの強化魔法ですか。見た事もない造り方ですね」
「まぁ一日五本が限界だけどな、たくさんは造れないから売り物にもできない。つまり俺が有名になってないのはこの魔法の制約って訳だな」
「要約するとエドはめんどうくさいから造らないって事よ」
まぁそういうこった、とエドが反応する。
「なるほど。....そういえばリズさんには何か造らないんですか?」
「リズにはいらねぇよ。前に一度腕輪を造ったことがあるんだけどな、リズの魔力の強さに耐えられなくて身につけた瞬間に砕け散ったんだわ」
「でも、それも先程の強化と同じなのであれば鍛錬度か材質を変えれば出来るのではないですか?」
「出来るかも知れねぇけど、この剣の材質がアルヴ大陸のものだったらエルフに会いに行くまで造れねぇじゃん?それ以外に手に入れる方法は商人から買うしかねぇけどアルヴ大陸から帰ってくる奴そうそういないぜ?」
「私達が行けばいいんじゃないかしら?まだ当分先になると思うけれど」
「まぁそれもそうだな。いつかいい腕輪とか手に入ったら造ってやるぜ」
「あそういえば、防具も買ってきたんですけど1日5個できるのでしたら後4つ防具強化していただけませんか?」
「ええ、めんどくせぇなおい。...明日じゃダメか?」
「ダメよ。4つ造り終わるまでエドはお昼抜きね!」
リズはケルトと一緒にピクニックの準備を始める。
後ろで何やら抗議の声が聞こえるようだが聞こえない振りをして無視をする。
「さーてサンドイッチ食べるわよー!!」
「あ、パン買い忘れてました。サラダですかねー。卵いります?」
「.........」
こうしてなんだかんだで全員の装備が整った。
ここから数日間、魔法の特訓やら剣の特訓やらをしてエドが過労死しかけるのだが、これはまた別のお話。
どうも、無事に10話までたどり着いた狼兎です。
今まで散々に解説を入れる入れると言っておきながら後回しにしていたので次こそ本気で書かせていただきます(笑)
内容も全体的には固まってきているのですがまだまだ設定とか登場人物とかまだまだ足りないのでがんばります!
意見や感想、誤字等ありましたらお願いします。
つ、次こそ魔法の解説を入れます!
(完全な解説かストーリー含めた解説かは考え中)