9.悪夢の始まり
魔法という概念が存在する世界「ウィルガルム」
クリーチャーや悪魔が生息し、魔術の知識を持った種族もいるという。
この話は術師達の中の「神出鬼没の異端術師」と呼ばれ、伝説となった
術師の集まり、突然消えて突然現れるという者達の話である。
「やぁ、久しぶりだね。チェルちゃん?」
男はとても優しい声色で語り掛ける。が、全身が逆撫でされたような悪寒に襲われる。
洞窟の出口に立ち、おぞましいオーラを抑え切れていない。
盗賊風の装備を身につけていて、顔は目を出している以外はまったく分からない。
「ロ....ロルド・クライス・アルラード.....どうしてここに...」
「やぁやぁ....あれ?隣にいるのはバルド家のご長男様じゃないかな?」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇ。お前と仲良くなった覚えは無いぜ」
「相変わらずだね....おやおや、もう一人は裏切り者じゃないか?」
「団を裏切ったのは確かですが....恨まれる事は一切していませんよ」
ロルドと呼ばれた男は四人と面識がある。
突然、拘束されている盗賊が声を上げる。
「と、頭領!助けてくれぇ!!」
「....なんだ、君捕まったの?まったく....手のかかる奴だ...」
しばらく考え込んでいたエドが口を開く。
「頭領....アルラード...そうか、お前あの時の...」
「まさにその通りだよ。この僕が旧アルラード帝国第三王子のロルドだ。ご長男様は昔と変わらずに勘が鋭いようだね...?」
「お前...生きてたのか....」
「ええ、何度も死にかけましたがあなたを思い出すたびに力が湧きましたよ....復讐の...ね」
「ど、どういうことですか?旧帝国の王子をエドさんも知っているのですか!?」
「ああ...コイツが王子だった頃に一度戦ったことがある」
「そんなに昔でしたか....僕はつい昨日のように思い出すよ?君がチェルちゃんを....僕のチェルちゃんを奪って、僕の計画を壊して逃げたことも....ね?」
「リズは物じゃないしお前には渡さない。第一俺はリズの両親に頼まれてたんだよ」
もしも私達に何かあったら――リズを頼む、と。
「ハッ、そんなの僕から奪う理由にはならない!!僕の計画を崩す理由にもならないんだッ!!」
ロルドは段々と感情を高ぶらせ、怒りを露にしていく―――
「まずは僕の復讐を果たさないとね....ご長男様の首とチェルちゃんを持って帰るんだ...ハハッ」
リズの体は震え、とても冷たく顔が青ざめている。
とても戦える状況ではなさそうだ。
すると怒りを通り越して狂気に満ちたロルドが三人を襲いにかかる。
「チェルちゃん....僕のチェルちゃんを返せぇええええ」
ロルドの武器は先ほどの盗賊と同じ斬爪だが、見るからに輝きが違う。
恐らく攻撃力は倍以上の高性能装備だろうと推測できる。
しかし防具類には強化魔法がかかっていない為に力は常人レベル。
「そうはさせるかよっ」
咄嗟にエドが剣を抜き応戦する、だがしかし。
ギャイィン―――
エドの剣が斬爪の力に耐えられずに根元から両断される。
「ハハハッ、たかが君の剣では僕の斬爪にはかなわないよ!!」
「なっ....俺の魔法剣がっ....!?」
素手で挑むなんて芸当はエドには不可能、斬爪をギリギリで避けると後退せざるを得ない。
「 忠実なる人形よ、我らを護りし兵となれ! 巨造兵 」
ケルトの詠唱により鋼鉄で作られた巨大な兵士が出現する。
「巨造兵!ロルドを食い止めてくれ!」
「俺からも魔力を飛ばすぜ! 耐久強化!」
エドが強化魔法をに巨造兵施すと、体がうっすらと光を纏う。
「こんな人形なんて僕の爪にはっ.....くっ」
何度も斬りつけるがロルドの攻撃はまったく通っていない様子だ。
対して巨造兵はその巨体をうまく使って三人を護りながら反撃を仕掛けている。
「リズ!逃げるぞ!」
「あ....足が動かないの.....」
「仕方ない....私が運びましょう!」
ケルトがリズを軽々と持ち上げて逃走する。
巨造兵がロルドを抑えているのを確認すると、エドも二人を追いかけて走り出す。
「まてぇえええええええ!!」
見事に主を護りきった巨造兵は、ついに猛攻に耐え切れなくなり崩れ落ちる。
「絶対に....絶対に殺してやる!!覚えてろよ.....」
「頭領....頭領!次は...次こそ俺があいつらを仕留めます!」
怒り収まらぬロルドに盗賊の男は声をかける。
「ああ...君もいたんだったね....」
ロルドは男に歩み寄ると爪を掲げる。
「失敗した雑魚には罰を与えないといけないね?それにあいつらは僕の獲物だ...手出しは許さない...」
「ひぃいいいい!!助けてぇええええ!!」
刹那、斬爪がなぎ払われたと思うと男の首が地に転がった。
「さあ.....僕の復讐を始めようか......クックッ...クハハハ!!」
三人にはしっかりとロルドの笑い声が聞こえた。
その声を聞いたリズは思う。
どうかまた悪夢であって欲しい、と―――
逃走に成功した三人はなんとか宿にたどり着く。
「はぁ....はぁ....逃げ切った...か...」
「....そうですね....リズさん大丈夫...ですか?」
「ええ....おかげさまで何とか....」
疲労困憊した三人は宿で一晩を明かした。
翌日の朝、三人で会議をすることに。
「あの、とりあえず私に....その...お二人の過去をお教え願えませんか...?」
しばらく沈黙が流れたあと、エドがゆっくりと語りだす。
「昔な、リズは森の向こうの村に住んでて少し有名人だったんだ。特に魔力量がすごいから貴族が欲しがったんだよ...その...優位な地位につくための道具としてな...」
「ある日、私の村に盗賊団がやって来たのよ....それで私の両親も...」
リズさんは塞ぎこんでしまった。
仕方ない、とてもつらい思い出を語ってもらっているのだから。
「でもリズは殺さずに奴ら連れて行ったのさ、貴族に売り渡すために....それを俺が助けたんだ。その時にロルドの野郎と戦った、だから二人とも顔見知りって分けだ....」
「なるほど....理解しました。ですがひとつ気になることがありあまして」
先程襲われたあの男の名前アルロードなのだ。
「あぁ...それはアルラード帝国が旧帝王支配だった時代はアルロード帝国だったんだよ。だからアルロードなんだ...」
するといきなりケルトは机を叩く。
「そういう事なのであれば、今は落ち込んでいる場合ではありませんよ」
「....そうね.....今はトラウマなんかに負けてる場合じゃ...無いわよね...。分かった、私克服してみせる....!!」
「リズ....そうか....お前も強くなったな...じゃあ俺も頑張りますかぁ....」
重苦しい雰囲気に包まれていた部屋に、いつの間にか新しい風が吹き込んでいた。
「それではまずエドさんの壊されてしまった剣と防具の類を新調しましょう!」
三人は忌まわしい過去と戦う準備を始めたのだった。
後半無理やり持っていったような気がしますが大丈夫だ!(と思いたい)
そしてまたまた三人は準備に入ります。
というわけで次回は解説でも入れたいなーなんて思ったりします。