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便利な力

それから。

学校へ向かう通学路で、私はぼそっと呟いた。

「今日は靴が無事でありますように

「汚れた机が綺麗になってますように」

「今日返ってくる数学のテストが満点でありますように」

そんな事しか浮かばなかったが、全部口に出してみた。

すると、それらは全部叶っていた。

私の下駄箱の中は荒らされる事も無く、きちんと上靴が入っていた。

ラクガキで汚れていた私の机は、丁度ガタが来て取り替える予定の机だったらしく、教室に着いた時には既に新品の机になっていた。

少し自信のなかった数学のテストも、満点が取れていた。

小さな幸せばかりかもしれないが、願った事が全て叶うのが、嬉しかった。



昼休み。

「田原ぁ、今日もお昼頼んだよー。メロンパンとクリームパンとハムサンドと……」

ああしまった、この女達の事を忘れていた。

「ちょっとぉ、話聞いてる?」

でも、今の私は機嫌が良かった。

「パンと飲み物、買いに行って来るね」

「あ? あ、うん」

私は教室を出た。

「なんか田原、今日やけに素直じゃね?」

「開き直ってんじゃねーっていうか、ちょっとうざいよね……」

コソコソ話のつもりなのかもしれないが、声が大きくてしっかりと聞こえている。

少し不快だったが、黙ってパンと飲み物を買いに行った。


パンと缶ジュースを抱えて戻った私は、女達に囲まれ、怒鳴られた。

「……ちょっと田原ぁ! あたし頼んだのと違うんだけど!」

「え……」

「誰がこんなオレンジジュースなんて買ってこいっていったのよ、今日のあたしの気分ぐらい把握しろっつーの!」

そして女は缶ジュースを開けると。

私に向かって、思い切り中身をかけた。

「うっは、田原きったなー!」

「気持ち悪! つか、こっちにもかかったんだけど! クリーニング代よこせよ」

「……」

ぽた、ぽた、と水滴が髪から落ちる。

見下すような視線。

ギャハハハと笑う、下品な女達。

「やっぱぁ、じめじめしてたほうが田原には似合ってるわ。このまま午後の授業出なよ?」

私の首根っこを掴んで、人間とは思えない程醜悪な顔をさらけ出す汚い女。

「……」

気持ち悪い。

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

気持ち悪い……。

「お前なんか、死んじゃえばいいのに」

「は? 何言って……っ!?」

私の襟元掴んでいた女はその場に倒れ、突然痙攣しだした。

周りの女達は、何が起こったのかわからず動揺した。

そして、汚い女が、1人死んだ。

「ちょ……え? な、なんなの……?」

「田原ぁ! あんたが何かしたわけ!? 最低!」

「……お前らも、死んじゃえばいいのに」

「へ……あッ!?」

「がはっ……!」

汚い女が今度は2人、机に頭をぶつけながら床に倒れた。

片方に至っては、口から血まで吐いている。

痙攣し、動かなくなり、これで私のまわりにある死体は、3体になった。

「はぁ……」

私はため息をついた。

ただ、小さな幸せを望んでいただけなのに。

どうしてこう、みんな私の邪魔をするのだろう。

「い……いやぁぁぁぁ!」

「ば、化け物だ! 田原月子は化け物だぁ!」

「ど、どうしよう!? い、いや、死にたくない!」

教室の女どもが、ぎゃあぎゃあと喚き散らしている。

私の周りで動かない3人を見たからか。

自分も殺されると思ったのか。

ああ、五月蝿い……。

「……教室にいるみーんな、私以外死んじゃえばいいのに」

言葉を紡ぐのに、抵抗は無かった。

ぼそっと呟くと、教室にいる生徒達は床に倒れ、そして誰の声も聞こえなくなった。

立っているのは、私だけになった。

「……はぁ」

またため息を1つ。

これで、何人位死んだのだろう。

「もう、どうでもいいか」

私は自分の席に着いて、購買で買ってきたメロンパンをかじった。

「メロンパン……美味しいなぁ」

静かな教室で、私はメロンパンを味わった。

このまま他のパンも食べてしまおう、とクリームパンの封を切った時。

教室のドアが開き、また五月蝿い叫び声が響いた。

「う……うわぁああああぁあ!」

「な、何で……何でみんな倒れてるの!? ねぇ!?」

私はぼうっと壁掛け時計を見る。

そういえばもう、学食に行った人も帰ってくる時間だった。

「今叫び声が聞こえたが、どうし……っ!?」

教師の声もした。

廊下であんなにキンキンした声で叫べば、誰だってくるか。

「田原……どうしてこんな状況になったか、説明してもらえるか?」

死体だらけの私の教室に入ろうとしない教師が、何か喋ってくる。

「……知りません」

「嘘だろ! まさか、お前が殺したのか? ちょっとこっちへ来い!

「……」

廊下が五月蝿い。

同じクラスも他のクラスも、野次馬が五月蝿くなってきた。

面倒だ。

面倒で面倒で、たまらない。

私は思った。

「……この学校にいる人間、私を除いてみんな死んじゃえばいいのに」

そうすれば、静かにパンが食べられる。


数十秒後。

この学校内では私がパンを食べる音以外、しなくなった。

言霊の力って、便利だ。

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