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科学的な幻使い  作者: 雪 渓
序章
6/21

第五話 入学式5



創夜そうや............なのか?」


 ゆっくりと顔をこちらに向けた少年に、景介は恐る恐る、かつなぜか怒りを滲ませた表情で問うた。だが、そんな景介に構うことなく、少年は特に動揺する様子もなく答える。


「あ、景介さんじゃないですか」


 まさに、ちょうど久しく顔を見ていない友達とたまたま会ったような様子である。無表情に見える瞳はわざとではなく普段の彼自身の物であるようであった。


「何でお前がここにいるんだ」

「日和のボディーガードですけど」


 創夜と呼ばれた少年はまたしても無表情に答える。さもそれが当然であるかのように。


 そんな彼の態度が気にさわったのか、景介は周囲に気を配りつつも最低限の声かつ最大限の威圧感を込めて睨み付けた。


「そんなににらみ付けてもダメですよ。僕は試験を受けたら通ったからとしか言いようがないんですから」

「いや、そういう意味じゃない」

「ではどういう意味ですか」

「だから、俺が聞きたいのは......」


 いるはずのない。と言うか、景介の知っている限りではここにいてはいけないはずの人物が目の前に座っている。その理由を知りたいが、それはこんな大人数がいる大っぴらな場所でできるものではなかった。


「あの、景介。そろそろ静かにした方がいいと思うけど。時間も時間だし」


 だから、出会ったばかりの友達が言ったこの言葉で景介は少年への問いかけをやめた。


 ため息を一つついた景介は、仕方がなさそうに創夜そうやから一つだけ席を開けてで直樹と共に座った。すると、彼らが席につくのとほぼ同時に、あと五分で式が始められるというコールがなされる。

 緊張と興奮で少しざわついていた会場が、その一言で一気に引き締まった。


(創夜にもいろんなこと聞いと来たいけど、今は日和の方が大切だし)


 会場の空気を肌で感じた景介は創夜のことはひとまず置いておき、おそらく、感想を迫って来るであろう日和への言葉を考えるために今は入学式のことに専念することにした。だが、創夜がここにいると知って日和がどういう反応をするのかを考えるとそちらの方が面白く感じられてしまいどうしても頭がはたらかない。


 しばらくすると、壮年の男性が現れ出席者全員の起立が促された。すぐに礼の合図が出されると、そのまま国家斉唱に着席の号令と、入学式は予定通りに進行していく。この辺りのしきたりが西暦では5300年に入ろうとする今の時代でも変わらないというのは、たいそう興味深い部分である。


 そして、普通であれば若者にとって難所とも言える「学校長式辞」が始まった。だが、この学校の校長は他の高校のそれとは一味も二味も違っていた。いや。本当のところこの校長が変わっていることはこの学校に限ったことではない。


 現在和国には八つのハンと呼ばれる大型の地方自治体が存在していて、各藩にはそれぞれ一つの皇立の魔術科高校が設置されている。


 このそのトップには、魔術界の第一線で活躍する、または現役こそ退いたものの世界的に見ても有名な超大物が据えられている。

 その役柄ゆえにそれぞれの事情で常ににいるということは少ないが、入学式という学校きっての一大行事に出席しない理由はない。

 そして新入生にしてみれば、自らの目指す憧れの存在に直に会って話を聞くことが出来るまたとないきかいなのだ。


 講義台へと歩いていくのは、背の高いがっしりとした男だった。年は四十代前半。この年齢の低さも魔術科高校における校長の特色の一つといえるかもしれない。

 講義台の前に立つ校長の、堂々とした風格と他人(ひと)を引き込む魅力に普段いろいろと面倒な理由で場馴れしているはずの景介も少し鳥肌がたった。


「さて、あらためて、よくぞ高校(うち)へ来てくれた。お前らのの入学を心から歓迎する。

 もう知っていると思うが、俺がこの学校のおさをやってる、陽立(ひだで)剛毅(ごうき)だ」


 荒々しくもどっしりとした声が会場に響く。

 ちなみに、学校長のことをおさと呼ぶのは、学校全体を一つの集団とみなし、いざという時には身を呈して若き人材を守るというところからきており、生徒が校長のことを殿とか親方と呼ぶこともある。


 余談であった。

 壇上の剛毅は自嘲気味に笑いながら話を続ける。


「式の場だからいつもの口調は謹んでくれと言われているが、まあ、仕方が無い。見てくれでわかると思うが俺にそんなことをさせること自体が間違いなことくらい誰だってわかるだろう? ............おいおい、ここわ笑うとこだぜみんな」


 本人はボケたつもりかもしれないが、ネットやその他のルートから情報が入っているとはいえ、剛毅のスピーチに大きな期待の目を向けていたの生徒は少し残念そうな、または呆れたような顔をしていた。だが、ごく一部の新入生の顔にはとても楽しそうな笑みが浮かんでいた。無論、その中の一人に景介と創夜は入っていたりする。


「まあ、俺が長々と話したって意味ないだろう。それじゃ白鷺しらさぎあとは任せたからな」


 そう言って剛毅が壇上を下降りると、今度は司会の紹介の後に白髪金眼の少年が壇上に昇る。日本人離れした風貌から流れ出る雰囲気は、やはり周囲を惹きつけ放さないものがあった。


(彩景六門の白鷺家嫡子、白鷺しらさぎハヤトか......)


 空色の制服に映える白髪を揺らして話し出すハヤトに戦慄を覚えながら、景介は心の中で笑った。






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