「新聞部」02
「東雲・・さんは、知ってるかな。凜華・・・、立華凜華の事。」
「あぁ、知っているよ。丁度さっき、りょーくんと立華先輩の事を話していたんだ。何でも、絵で賞をいくつも取ったとか。」
周りから椅子を持ってきて、3人向い合せに座る。女子生徒もとい美術部の桜木秋先輩の話は、先ほど東雲が話してくれた立華凜華の事だった。
桜木秋先輩は、あまり話し上手ではないのか、目線を下に逸らしながら、話を続けた。
「えぇ。凜華はとっても凄いの。絵が描けるようになってから、見る見るうちに上手になってね。・・・あ、ごめんなさい。内容が逸れちゃったわ。」
桜木秋先輩は少し申し訳なさそうに笑い、話を戻した。
「それで、凜華の事なんだけど・・・、最近、スランプ気味みたいなの。」
「スランプ?」俺はおうむ返しのように、聞き返す。桜木秋先輩は、俺の言葉に小さく頷いた。
「実は、今年文化祭で展示する作品、まだ何一つ手を付けてないの。本当ならもう完成しててもおかしくない時期なのに・・・。」
「それって文化祭に間に合うんですか?」俺は再び、桜木秋先輩に聞き返す。
桜木秋先輩は、不安そうな表情で、「凜華だったら、すぐにでも完成させれると思うけれど・・・今の調子じゃ、分からない。」と顔を俯かせた。ブログでも、公表してしまった以上、どうしても文化祭までには完成させなくてはいけないのだろう。
「・・・。」東雲はじっと、桜木秋先輩を見つめる。そして、口を開いた。
「それで、新聞部はどうすればいいの?」
それは励ましの言葉でも慰めの言葉でもない、新聞部としての言葉だった。
桜木秋先輩は、少しだけ言葉を詰まらせる。
「もしもの為に、美術部の事を新聞に載せないでほしい?それとも、立華先輩の事を励ましに行けばいい?」
「・・・――――。」桜木秋先輩は小さな声で、呟いた。声は潰れて、何を言ったのか聞き取れない。東雲は、「もう一度、言ってみて。」と催促する。
「・・東雲さんに、協力してほしいの。」
その時の桜木秋先輩の様子はどことなくおかしかったと後になって気づくが、この時はまだその不自然さに気が付くことはなかった。それからの話は新聞部として頼みを聞くということで、幽霊部員である俺は東雲の強い要望によってその席から外され、東雲が何に協力するのかを聞くことはできなかった。
ただ、今後暫く東雲を一人にしてはいけない。それだけは確信めいた、事だった。
数日後。夏休みの最終日。
桜木秋先輩の遺体が、学校の中庭で見つかった。