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鳥の家  作者: 両角忘夜
3/4

第三話:子供たちに

 くたびれた家に二度目の夏が過ぎ、秋が深まる。

 アキオが欠伸と共に、「なんか、つまんねえや。この頃」とこぼした。

 レイコはだるそうに、「つまんないけど、あたしは幸せ」と言う。

「あっ、そ。俺はもう、ここには来ねえっす」。

 アキオはそう言って立ち上がるが、男やレイコの反応が薄いのを見て座り直す。

「あたしはここにいるのがラク。不満ないし」

「けど、このままだと、つまらんやん」

「何がしたいの」。男が訊くと、「俺、働きたいかもしれんです」。少年は言った。

「あたしと高校行かんの?」

「悪いけど、就職する」

「何がしたいの」

「俺、おじさんみたいに、ダラダラした大人にならんで」。少年の頬が赤く染まる。

「何がしたいの」

「何でもいいやんッ」。少年は立ち上がり、男に背を向けた。

「もういい。アンタ帰れ」。少女が言う。

「お前も帰れよッ」。少年が叫ぶ。

 男はそれを静かに見ていた。

 アキオは怒って家を出た。少女はしばらくポカンとしていたが、小さな声で、「あいつキモいわ。絶交する」と呟いた。

 男は、アキオが自分に吐いた言葉を思った。ダラダラした大人。ダラダラした……

 僕たちは、お互いにすっかり飽きてしまった。この少女も、やがてこの場所を嫌いになるか、自分が彼女を嫌いになって追い出すだろう。

 友達のような、ただ優しい、頷くだけの大人では駄目だ。

 子供たちは、僕から何かを感じたいと思っている。でも、何を与えられるだろう。ダラダラした大人の自分に。ダラダラした……

 それは家だ。男は思った。

 ぐったりした顔で呆けていた少女に、男は言った。「外壁を塗り直そうと思う」

「あ、うん」

「アキオ君を、もう一度連れてきて欲しい」

「いいけど」

 レイコは、不思議そうに笑った。

「一緒にやるんだ」。男は言った。

 翌日、学校が終わってやって来た二人に、作業手順を説明する。まず足場を組む。傷んだ外壁を剥がす。下地の補修。マスキングをして、鏝で壁土を塗る。

 三人でホームセンターに出向き、材料や工具を購入した。壁土は漆喰にする。レイコの意見で、顔料を混ぜ、淡いオレンジ色にすることに決めた。

 足場材は、電話で昔の仲間に事情を話し、借りることにした。明後日、トラックで運んできてくれる。

 足場を組む日、アキオが仲間を三人連れてきたので、手伝ってもらうことにした。足場材を持ってきてくれた工務店経営のセキネも、「今日は本業が休みだから」と、親方気取りで中学生たちに指示を飛ばす。

 賑やかに作業していると、隣宅の夫婦が怒鳴り込んできた。

「何の騒ぎだ。工事するなら、近隣に説明してからじゃないと困るだろ」

 そこで一旦作業を中止し、子供たちを連れて挨拶に回った。中学生と一緒に作業するという話を聞き、怒る人もいたが、面白がる人や、励ましてくれる人もいた。

 翌日になると、興味を覚えた近所住民が見学に来、現場は混乱した。全員の手袋やヘルメットを買い揃えたり、食事を用意してくれる人まで現れた。

 アキオもレイコも楽しそうだった。手や顔を汚しながら、夢中になって汗を流した。

教員や警察も、様子を見に訪れた。

 二週間後、淡いオレンジ色の家が完成した。

 改装祝いに食事や飲み物を揃え、みんなを屋内に招くと、荒れた天井や内壁を見てほとんどの人が驚き、「今度は室内のリフォームをしよう」と言われたりした。

 改装祝いにはアキオの両親も参加したが、レイコの家族は来なかった。「でもウチの親、あたしが元気になったって、喜んでたし」

「俺、やっぱ大工か左官屋になるっす」。アキオが言った。

 男は満足した。




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