第一部 ストーリーは突然に 第一話 開幕
最初はネタがあるんだ、最初は…
「あ〜〜、今日も元気だ。快調だ」
こんな起き方をするやつなどこの世に俺一人くらいだろうと苦笑しながら俺こと影山直也は寝床から這い出す。普段は言わないのだけれど、フム、慣れないことはするもんじゃないな、といった感じだ。
とりあえず制服の学ランを着て、時計を見ると7時15分。
鞄を持ち部屋を出て、食卓に向かうと既に親父がいて朝飯を食べ終わっていた。
「遅いぞ、直也」
俺に気付いた親父が声を掛ける。
「珍しいじゃん、この時間に起きてるなんて。なんかあったの?」
「昨日の朝話したろうが。今日から出張だから電車の時間があるんだよ」
「ふぅーん」
といいつつ朝飯を平らげる。
その間約15分。
「んじゃ、行ってきま〜す。あ、後お土産よろしく」
と家を出て、道行くすがら、不倫相手の若奥様に挨拶していいことがあるようにお参りして普通に登校……
「してたはずなんだけどなぁ」
辺りを見渡して一言
「どこだここ」
周りはなんか山っぽいし、そこらへんの植生から見ても日本じゃないっぽいし、ていうか見たことの無い植物いっぱいだし。
「……もしかしてここ、異世界?ってやつ?」
「はっはー、まさかね」と言った瞬間木の上からありえない色使いの鳥が飛んだ。
「……マジ?」
とりあえず気の赴くままに歩く事にした。
ここはある程度の人が行き来しているらしい。人の流れはないが地面が踏み固められ人二人分くらいの幅の道が出来ている。
「……ただ人の気配がしないんだよね。気持ち悪いくらいに静かだ。これじゃ、手掛かりもへったくれもないよな」
と数分歩いたところで煙りが上がっているのを見て安堵する。
とりあえず人間並の知能を持つ生命は存在しているようだ。
「うっし、頑張って歩くか」
結構距離があるので着いたら飯でも出して貰おう、最低でも屋根のある所で寝かしてもらおう、ここがどこであれ何らかの情報と寝床は手に入れるはず、と皮算用をしながら歩く事数十分。悲鳴が聞こえた。
「なんで私がこんな低ランクの調査しなければならないのよ!」
「ここを通る旅商や旅人達のためですけど?」
人気のない森の中を進む2人の少女。
苛立っている金髪灼眼の少女の名はアメリア=ルナ=シンプソン。その身に装備している鎧は燃えるような朱。見ただけで威圧されそうな豪華な物だ。腰に刺しているのは2振りのレイピア。両方とも匠の技を感じさせる代物だ。
アメリアを宥めている蒼髪銀目の少女の名はリリー=ベル=アリヴィア。その身に纏っているのは白を基調としたローブ。手には無骨な木を唯削っただけの杖。ただ持ち手の部分には色々な文字が彫り込まれた金属プレートが嵌め込まれている。
「だったらランクFやEの奴らがやればいいのよ!こんなのランクBの私たちがやることじゃないわよ!」
「今回の調査は未確認の魔獣の存在が報告されています。そのためランクB以上のメンバーが2人以上いるパーティーに限られています。」
「わかってるわよ!わかってるけどおもしろくないのよ!」
「我が儘言わないで下さい。この仕事が終わったらなんか甘いものでも食べに行きましょう。奢りますから」
「………絶対よ」
「ええ、ですから早く終わらせちゃいましょう」
と言った次の瞬間魔獣ウルバスが現れた。
「……なによこれ」
二人は絶句した。
普通のウルバスならばべつにこの森では珍しくない
しかしそれは普通のウルバスではなかった。
姿形はウルバスだがとてつもなくデカすぎる。従来の2〜3倍はあるのだ。
その巨体から放たれる威圧感により目を反らすことが出来ない。気付いたら体が勝手に後退し背中には嫌な冷えた汗が流れる。隣にいるリリーを見ると涙目になって体が震えて止まらないようだ。頭の中の警鐘はガンガン鳴り響き行動の選択肢はしか思い付かない。
「キャアアアッッッ!!」
リリーの悲鳴を合図にウルバスが動いた。と同時にアメリアもリリーの首根っこを捕まえて脱兎の如く逃げ出した。
もうどれくらい走っただろうか。足が縺れそうになるのを我慢して走る。走る。走る。走る。ただひたすらに。安全な場所を求めて。
「キャッ」
リリーが木の根に躓いて転がる。真後ろにはウルバスが迫って来ている。アメリアはその場からリリーに向かって跳び、突き飛ばした。結果アメリアの目の前にはウルバスの鋭い爪が迫っていた。死を覚悟し、何がしたかったとかはないけどもう少しだけ生きたかったなあ、とか思いつつ目を閉じた。
「…………あれ?」
いつまで経っても爪による痛みが来ないのだ。
少しずつ目を開けて見ると自分とウルバスの間に黒尽くしの衣装を来た男が立っていた。
悲鳴が聞こえた。確かに聞こえた。ということは、だ。助ければなにか情報が得られるかもしれない。いやそうではないだろ。手が届くのに伸ばさなかったら死ぬ程後悔する。どっちだ?自分でもわからんがとにかく急げ!
………見付けた!
素早く腕時計に仕込んである小盾を展開させる。
木の影に隠れてよく見えないが二人の視線で攻撃の方向にアタリを付ける。
………………間に合った。
そして真後ろにいる金髪の少女に声をかけた。
「いよう、大事ないか?」
「…………はい?」
目の前に背を向けてたっている男はまず私にそう言い放った。
ていうかありえない光景が目の前で起きている。3メートルもあろうかというウルバスの攻撃を−−ただの爪撃とはいえ−−腕一本で軽々と受け止めているのだ。
「ん、語尾が上がったな。もう一回だけ問うぞ。大事ないか?」
「…………えぇ。取り立てて騒ぐような怪我はありません」
「そかそか。そいつは重畳。それならさっきアンタが突き飛ばした嬢ちゃんをみてやれ。多分だが気絶してる」
「え?……あぁ!ごめんなさい!リリー。今診てあげるから許して!……怪我はないようだからとりあえず一安心ね」
「ぉk。じゃあこいつをなんとかするか」
目の前の男は信じられないことに受け止めままの体勢から全く下がっていない。
男は、よっ、と軽く盾を流し体勢を崩したウルバスの腕を掴み引き寄せ腹に蹴りを入れる。ただそれだけで獣は倒れた。
「……にしてもなんだぁこれ?アンタわかるか?」
男が振り返った時私は驚愕した。この国にはありえない黒髪黒目。濃蒼ではなく吸い込まれるような漆黒。このラダマンタイト王国の歴史を紐解いてみても人々を魔王の支配から解放し、この国の建国に内から外から携わった四聖が一人サトル=モリモトだけである。
「とりあえず、ありがとうございました助けていただいて。」
「礼ならいいよ、別に。あぁ、そうだ。ちょっと、あんたこっち向け」
「はい?」
「いいからこっち向け」
渋々といった感じで顔を向けた。
パァン!!
渇いた音が響く。一瞬自分は何をされたのか。頬が熱い。痛い。そこまではわかる。だが感覚に思考が追い付かない。今の自分の顔を鏡で見たら驚愕の手本の様な顔をしていただろう。
「このバ〜カモンが」
「バカとはなん……」
手でいきなり口を塞がれた。
「助けるんだったら後の事を考えて助けろよ。自分を助けるためにだれかが死ぬなんてのは後味が悪すぎる」
「………モガ、だったらあそこで見捨てろというのですか!」
「別に見捨てろ、なんて言ってないさ。けどせめて最期の最後まであがけっての。うろたえるな。思考を止めるな。生きることを諦めるな」
「……ごめんなさい」
「謝るんだったら相手が違うだろう。その嬢ちゃんが目を覚ましたら謝っときな」
「はい………」
「さてさて、説経も終わったわけだしこいつの説明をしてくれ」
男は目の前の倒れているウルバスを指した。
「さぁ私にもわかりません………ウルバスの突然変異か、あるいは……いやだけどそれはありえないですし」
「あるいは?あるいは何だよ」
「だから言ったでしょう。ありえない、と。ありえない事を考えてどうしようというんですか」
「ありえない、なんて事はありえない」
「は?」
「俺が一番気に入っている師匠の言葉だ。後は、『考えられる全ての可能性を確たる証拠も無しに否定すべきではない。常識は証拠に成り得ない。相対性理論も運動方程式も全て常識を疑うことで生まれた』というのがある」
なんか懐かしむような顔で言っているが解らない単語が出て来た。
「相対性理論?運動方程式?なんですかそれ?」
男はまるで信じられないものを見る目で
「ちょっと待て。お前最終学歴何だ」
「ラダマンタイト王国立セントラー学院高等部ですけど?」
セントラー学院はこの王国で最も戸口が広いが最も難しい学校だ。だが最近は理事長が私腹を肥やす事に専念し始めた為、貴族のバカ息子やバカ娘の温床となっていると噂が流れている。
「マジかよ………マジで異世界かよ…………」
声がした方向に視線をやるとものすごく落ち込んでいる男がいた。
「異世界?あなた一体何者なん……」
男がバタリ、と倒れた。
滝の様なに汗にまさか、と思い額に手を置いてみる。
「ものすごく熱い……これであのウルバスを倒したの……?」
何がなんだか解らない。とりあえず一つ解るのは介抱しなければならない人間が一人増えたということだ。
次は神☆降☆臨☆




