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彦星に浮気された織姫が叶えた願い

作者: 露(つゆ)
掲載日:2026/10/18

 公園に行くと、そこには織姫様がふてくされながら座っていた。


「出てけ!!」

「っ……!」

 僕はいつものようにお母さんから殴られて夜中に家を追い出された。

「……」

 僕はじんじん痛む顔を押さえながら、とぼとぼと歩き出した。お母さんはお父さんが浮気してからずっとこうだ。

 街を歩いていると、そこかしこに笹や飾りつけられた短冊がある。

「(ああ……今日は七夕か……)」

 みんなが楽しく七夕の日を過ごしているのに僕は……。ため息をつきながら毎度の避難場所である公園に向かった。

 公園のベンチで時間が経つのを待とう。そう思っていたら……。

「ったく……あの馬鹿彦星がよぉ……」

 ……着物? に羽衣、輪っかみたいな髪型……。そんな人が公園のベンチに片膝を立てて座っていた。

「織姫……様……?」

 僕はつい口に出してしまった。いや、あまりに織姫様だから。もしかしたらコスプレってやつをしている人かもしれない。でも、なんかキラキラ光っている……。

「お前、私が見えるのかい?」

 織姫様は僕の声に気づいたのか、話しかけてきた。

「え、あ……」

「まあ、座りな」

 織姫様は自分の隣をぽんぽんと叩く。

「あ、はい……」

 僕はつられて座ってしまった。危ない人かもしれない……。でも、気になってしまうのでとりあえず話をしてみた。

「あの……織姫様ですか……?」

「ああ、正真正銘、織姫だよ」

 ううん……なおさら公園のベンチなんかで何をしているんだ……。

「あの、なんでここにいるんですか? 彦星様とは……」

 僕の言葉に織姫様はダンッと立ち上がって叫んだ。

「あの彦星くそ野郎! 浮気しやがった!!」

 そう言って織姫様はすとんと座った。

「だから下界に来てやった。あんな奴もう知らん」

 神様も浮気とかするんだ……。なんだか他人事じゃないな……。

「僕のお父さんも浮気してます……」

「浮気する奴なんてくそだな」

「でも……」

「なんだ?」

 織姫様は僕を見つめる。

「僕のお父さんとお母さんはもう無理だけど、織姫様達はまだやり直せると思うんです……。こんなに長い間愛し合っているんですから……。まだ、話し合えます……。そう……思います……」

 織姫様は真剣な顔をして、ふっと息を吐いた。

「そうだな……やってみるよ」

「はい」

 少し嬉しくなった僕に織姫様は言う。

「助言をくれたお前に礼をしよう」

「礼?」

「願い事を叶えてやる」

「願い事……」

 僕は考える。僕の願いは……。

「お父さんとお母さんが仲良く……」

「それはお前にとって本当の願いじゃない」

「え?」

「数多の願い事を叶えてきた私にはわかる。お前の本当の願いはなんだ?」

 僕は……僕は……。

「僕っ! 幸せになりたい! 普通の子みたいに幸せに暮らしたい!!」

 僕はいつの間にか叫んでいた。心の底から出た言葉。

 織姫様は笑った。

「その願い、叶えよう」

 そうして織姫様は立ち上がる。

「そろそろ帰ろうかね。なあ、少年。お前の名前は? 最後に聞いておこう」

「星斗(せいと)。星に北斗七星の斗で星斗」

 織姫様はにっと笑みを浮かべた。

「良い名前だ」

 そして、織姫様は天に昇っていった。

「……本当に織姫様だったんだ」

 僕はしばらく呆けていた。


 それから、公園を通りがかった大人の人が僕を見てどうしたのか事情を聞いて、児童相談所に連絡をし、僕は保護された。お母さん達は捕まったらしい。

 児童養護施設で少しの間暮らしていたら里親の人がすぐに見つかって僕はそこで愛情をたくさん貰って普通の子みたいに幸せに暮らした。


「なあ、星斗」

「なあに?」

 今のお父さんが僕に尋ねる。

「毎年短冊に『織姫様ともう一度会えますように』って書いてるけどどういう意味だ?」

 僕は笑って答える。

「内緒!」


 そうして幸せに年月は過ぎていった。僕はおじいさんになっで病院のベッドで寝たきりになったけど、幸せな人生を送って、静かに眠れるならそれで満足だ。

「星斗」

 眠っていると声が聞こえた。綺麗な声が。僕は目を開ける。

「なかなか来れなくて悪かったね」

「ああ……織姫様……」

 ベッド脇にあの頃と変わらない織姫様が立っていた。

「すっかり年食ったね」

 織姫様は僕の顔を優しく撫でる。

「彦星様とはどうなりました……?」

「二度目は無いって言って許してやった」

「それは良かった……」

 僕はくつくつと笑う。

「それにしても七夕の願い事が毎年私に会いたいだけとは……もっといろんなことを願えばいいのに……」

「もう……僕は……一生分の願いを叶えてもらいましたから……」

「殊勝だねぇ」

 織姫様の手は気持ちよくて、なんだか眠たくなってきた。

「眠いのかい?」

「ええ……」

「なら、ゆっくりお休み。お前はもうよく頑張ったから」

「はい……」

 僕は目を閉じた。

 織姫様、僕は世界一の幸せ者ですよ。あなたに貰ったものは忘れません。

 そのまま僕は深い、深い、永遠の眠りについた。

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