彼女が必要な理由
「サーシャさんごめんなさい、またお願いできないかしら……」
縫製室に来て申し訳なさそうに頼みごとを切り出したのは、使者ライナスの部屋付き筆頭侍女 アンジーだ。
サーシャが王女宮に初めて上がった日に、王宮縫製室への荷物運びを手伝った相手が彼女だった。
「なあ侍女さん、その使者殿の片付けって、どうしてもうちのが行かないとダメなのか? おたくも度々ここまで来るのも面倒だろうに」
「いつもお借りして申し訳ありません。私たちがやってもライナス様のお眼鏡にはかなわなくて、あとからご自分でやり直そうとなさるんですよ」
「そんなの、一度おたくらがやり方覚えてあとは同じようにすればいいんじゃないのか」
憮然とするカイに、アンジーは困ったように答える。
「もちろん一度はそうしてみたんですよ。でもほら、あの量でしょう? やっぱりまったく同じにはできていなかったみたいで、本当にあの時のライナス様の悲しそうなお顔といったら……」
アンジーは頬に手を当て、やり切れないとばかりに首を振った。
「それで、サーシャさんが片付けた時はよくわかるようなんです。『地域別とは順当ですね』とか『今日は素材別ですか』とか、それはもう楽しそうにされて、しばらくはそのまま眺めていらっしゃって」
「でもまたすぐ散らかすんだろう? どうにかできないのかそのおっさん……じゃなくて使者殿は」
「まあ! なんて失礼なことを。好奇心と探究心あってこそのあの知識量ですから、できる限りあの方のご意向に沿うというのが、私たち部屋付きだけではなくこの宮全体の方針です」
少しばかりむっとした顔をもとの微笑みに戻し、アンジーは再びサーシャに向き直った。
「あなたも忙しいのに本当にごめんなさい。でも、あなたにやってもらえるとお部屋の状態が長続きする方なのよ、これでも」
そう言って困り顔で笑うアンジーの表情は、彼女の主にどこか通じるものがあった。
サーシャが連れられていったあとの縫製室には、相変わらず顔を憮然とさせたままのカイがいた。
「サーシャさん、最近ここにいる時間、減っちゃいましたね」
寂しそうな声でピコが呟く。
「……まあ仕事は回ってるから、いいんじゃないか」
「でもあたし、いつも思うんです。このままサーシャさんがずっと帰ってこなかったらどうしようって」
情けない声で言いながら、ピコはくすんと鼻をすすった。
「……わからん。俺には、布のことも何もかんも、さっぱりわからないからな」
カイの言葉に軽快に返事を寄越す声はなかった。




