使者ライナス・ジョイフェル
本日3話更新です。よろしくお願いします。
サーシャはその室内の惨状に呆然としていた。
見慣れない意匠の異国情緒あふれる布小物たち。壁に掛かるタペストリーには我が国特有の植物紋が緻密な刺繍で描かれている。それら異なる様相のファブリックを、アイボリーで統一された上質な内装が、気高く融和させている。
見事にしつらえられたその部屋の中央には、色とりどりの布の山に埋もれた一人の男性がいた。
「おお! この混沌に女神が降臨された!」
彼こそが、隣国からの使者 ライナス・ジョイフェルその人であった。
「やあやあ、いきなりお呼びしてすみません。常々片づけの類は苦手なたちでして、特にこの荷解きなんていうものは私の天敵みたいなものです。
ですがやはり滞在初日ともなればあなた、少しくらい格好をつけたいと思いましてね。
みなさんの手を煩わせないようにと張り切った結果が、このようになってしまいました。
それであなた、あなたはスタンリーさんのお嬢さんのサーシャさんで合っていますね?
──ああやっぱり。あのハンサムな商会長さんによく似ていると思いました。あの人はとてもいい。あんなに男前なのに口を開けば気さくで。私の妻には会わせたくない人ナンバーワンです。
おっと、申し遅れましたが、私はライナス・ジョイフェル。元は平民ですのでどうぞライナスと気軽に呼んでください」
まさに立板に水の勢いで話し続けるライナスに、あのローラでさえ話に入るタイミングを計りかねている。
サーシャがただ相槌を繰り返す間にライナスがすべての説明を終え、ようやく自分が呼び出された理由を理解した。
ライナスは自身の趣味である『織物蒐集』のため、商業組合からの紹介でスタンリーに引き合わされたそうだ。
ライナスはスタンリーから様々な生地見本をもらい受け、その際に『娘の方がよく知っているのですが……』と、サーシャのことを聞いた。
そして今日、王女宮に用意された居室で荷解きをしようとしたところ、自国から持参した生地ともらったものとが入り混じって、今回の事態になったということだった。
「そこであなたのことを思い出したのです、サーシャさん。
すみませんが、この生地の山を分ける作業を一緒にお願いできませんか?
スタンリーさんの保証付きであるあなたしか頼れる人はいないのです」
これらの話を、ライナスはずっと布の山に埋もれたままで訴えている。
サーシャはもとより断る気などなく、威厳を感じさせない使者様の頼みを快く引き受けた。
作業の間もライナスは話し続けていた。
生地を手に取っては「これは動物性の繊維ですが植物性の性質も持っている世にも珍しいもので──」と始め、スタンリーからもらった見本を見つけてはサーシャに説明を乞うた。
ライナスの言葉は洪水のように降りかかり、けれどそれを楽しいと思えるサーシャにとって、この作業は適任と言えた。
しかしローラは、そうは思わなかったようだ。
「サーシャちゃん、ありがとう。あと少しだから部屋付きの子に任せるわ。……ライナス様、あなたに見せたくてまた布を出そうとしてる」
そう小声で言われ、サーシャは部屋を辞した。
語り足りないライナスの下がり眉が寂しげだった。




