使者団
「サーシャさん、何かいいことあったんですか?」
休日明け、ひととおり業務の段取りを確認したあと、不意にピコが聞いた。
「うん、ちょっとね。久しぶりに商会に顔を出してきたの」
少しはにかみながら答えるサーシャに、ピコがさらに身を乗り出して訊ねる。
「もしかして、ローディック姉妹の打ち合わせだったりしますか!? また近いうちにお目見えの計画があるとか?」
「おやピコ、あんたサーシャさんが商会に戻ったほうが嬉しいのかい? ここで一緒に仕事するよりも?」
「うっ……それはぁ、もちろん一緒がいいんですけどぉ。でもあたし、ほんとにほんとに二人が好きだったんですもん」
フレネとピコのやりとりを微笑ましく見守るサーシャに、隣のカイが問いかけてきた。
「あんた、商会に帰るのか?」
「私はあくまで臨時雇用ですから、いつかは戻る予定です。でも、もういいって言われるまでは途中で辞めるつもりはありませんよ」
サーシャの答えに、カイはどこかほっとした様子を見せた。
「そりゃ良かった。あんたがいなくなったら、俺は衣装のことなんてまったくわからないからな」
「いい加減、さらりとつるりくらいはわかるようになってくださいね」
そう呆れて答えるサーシャだった。
縫製室の普段どおりの和やかさをよそに、王女宮には朝から物々しい空気が漂っていた。
間もなく隣国の使者一行が、王女殿下のもとへと謁見に訪れる。
朝に顔を合わせたローラも、常になく表情を強張らせていた。今日という日のために、彼女たちがどれほど抜かりなく準備を積み重ねてきたかが伺い知れる。
というのも、かの使者団の参内は単なる表敬訪問だけが目的ではない。今後一年以上にわたってこの宮にとどまり、王女殿下が隣国の文化を学ぶための『講師』を務めるという、極めて重大な役目を帯びていた。
隣国最高峰の知識を携えた使者団一行は、各分野の第一人者と、それを支える精鋭の随行員たちから成る。
この長期滞在の賓客を迎えるにあたり、王女宮において針の先ほどの粗相すらもあってはならないのだ。
「お偉い使者様ってのはどんなお方なんだろうね。私らとは直接関係なくても、やっぱり穏やかでお優しい方々だといいがね」
「どんな人でもサーシャさんを見たらファンになっちゃいますよ!」
「はあ……あんたは本当にサーシャさんのことばっかりだねえ」
そんな穏やかな空気を壊すのは、やはりこの人物だった。
「サーシャちゃん、使者様がお呼びなの! 今すぐ来てちょうだい!」
縫製室に飛び込んできたローラは、朝の緊張感などどこかに置いてきた様子で、ひどく慌てていた。




