過去
本日3話更新です。よろしくお願いします。
「サーシャ、例の知り合いの侍女がお礼を言っていたよ。無事に本来のお仕着せがもらえたそうだ」
ロランツがまたしても縫製室を訪ねてきたのは、『偽物事件』から半月ほどが経った頃だった。
前回とは違ってこの時は執務室にいたカイが、ロランツの顔を見てガタリと立ち上がった。
「おっさん……いや室長さん、あんたヒマなのか?」
失礼なカイの発言を、ロランツは彼らしく笑って受け流す。
「ははは、カイ君も元気そうで何よりだよ。新しい職場はどうだい? 財務にいた時よりも顔色は良いようだね」
「えっ、二人は知り合いで、室長で、財務? え?」
カイとロランツの話についていけないサーシャは目を白黒させている。
苦り切った顔のカイを尻目に、いつもの調子のロランツが彼らの馴れ初めを聞かせてくれた。
「カイ君はねえ、なんと財務部にいたんだよ。けれどあそこは少しばかり権力志向が強くてね。カイ君はこんなだから、馴染めなくて悩んでたんだ」
「カイさんが、悩みですか? それは何というか、意外ですね」
「おいあんた失礼だろ」というカイの声を聞き流し、ロランツの話の続きに耳を傾ける。
「そうだろう? ちょうどその頃、僕も部署が変わったところでね。うまくやれなくて参ってた僕と、ひょんなきっかけで意気投合したってわけだよ」
「意気投合はしてないぞ。けどおっさ……室長さん、あんたと話してからすぐここに飛ばされたんだが、あんたの差し金だろ? 地方調整室長ってのはそんなことまでできるのか?」
「まあちょっとばかり知り合いがいてね。権力と上役はこういうときにどんどん使わないと」
そう言ってロランツが両目をつぶる。ウィンクがしたかったようだ。
どこかで聞いたような言葉に、二人は案外本当に馬が合うのかもしれないとサーシャは思った。
それにしても、こののんびりとしたおじさんの肩書もさることながら、カイが財務部のようなお堅そうなところにいたことも思いもよらないことだった。
「あ、じゃあお仕着せの予算がたくさん割り当てられたのはもしかして……?」
「そりゃあ彼は元 本職だからね。予算の通し方なんて熟知してるさ」
本人そっちのけで蒸し返される話に、カイはついに頭をかき回して立ち上がった。
「あーっ、もう、おっさん早く自分とこ帰れよ!」
言うなり、いつになく早い足取りで部屋を出ていってしまった。
「ははは。あんなこと言いながら自分が出ていってどうするんだろうね」
カイが出ていった扉から目を離さずにロランツが笑う。
「カイ君の眼鏡、そう遠くないうちに要らなくなるかもしれないな」
おじさんの声は、いつも以上に優しかった。




