違い
「……偽物、ねえ」
トルソーにかけたお仕着せを、カイがまじまじと眺めている。
「……悪いが、俺にはよくわからんな。そりゃあ間違い探しみたいに見比べたらわかるんだろうが、これだけ見ても普通のお仕着せだと思って終わりだ」
カイが興味なさそうに言った。面倒ごとに巻き込まれたくないといった空気もわずかに感じる。
サーシャは相談する相手を間違えたと後悔しかけたが、それでもここの責任者であるカイにはどうしても知ってもらいたかった。
「縫い方だけだと分かりにくくても、着ると印象が全然変わってくるんです。これは王宮の縫製室の信用にも関わりますよ」
「……そんな大げさな。見る人が見りゃわかる程度の違いだろ? 問題になるほどのことなら、あっちの縫製室が動くだろ」
布の良し悪しの区別もつかないカイに、どう説明すればわかってもらえるのだろうか。サーシャは頭を抱えた。
「違いが分からないって言うなら、分かるようにしてあげようか?」
そんな声とともにフレネとピコが執務室に入り、「ちょっと出といて」とカイを外に追いやった。
そしてトルソーからはずした偽物をピコに着せ、サーシャには本来のお仕着せを着るよう言った。
入室を許されたカイが、扉を開けるなり固まる。
彼は、本物のお仕着せを着たサーシャを凝視していた。
たっぷり数秒の沈黙が流れてから、ピコが声を上げた。
「カイさん! こっちも見なきゃ違いが分からないでしょ!」
その声にはじかれたようにカイはピコを見た。
「……あ、ああ。確かに全然違うってことはわかった。なんだ、その、いつもより大きく見える?のか?」
フレネは吹き出し、ピコは「もっと違うとこありますよ!」と怒っている。サーシャは少しあきれたが、違うとわかってくれたのなら良いと思うことにした。
カイとサーシャは偽物を持って王宮の縫製室に来た。お針子長の手が空くまで、お針子たちの作業を部屋の隅で見ていた。
縫製室にはお仕着せの見本が立ててあり、型紙や指示書だけではなく実物を参照できるようになっている。民間の仕立屋にも同様のやり方を徹底しており、どこで作られたお仕着せも同じ品質を維持できるよう、サーシャとフレネとピコが手分けして指導してきた。
それだけこだわって作られているものが、肝心の王宮縫製室でなぜ──サーシャは憤りのようなものを抱えていた。
「偽物とは穏やかではありませんね。うちで作られたものは全て私が確認していますから、おかしなものは出回っていないはずですが」
毅然と話すお針子長に、サーシャは実物を見せた方が早いと問題のお仕着せを取り出した。
「これは──」
見るなり眉をしかめたお針子長が、一人の針子を呼ぶ。
訝しげにやってきたのは、いつか遠巻きに何事かを囁いていた針子の一人だった。




