ローディック姉妹2
商会に戻るなりメリンダはサーシャにもたれかかった。
「ああ、疲れた! 今日は特に人が多くてくたびれちゃった。ね、お姉様もそう思わない?」
サーシャはイヤリングを外しながら視線だけを動かして答える。
「そうね。でもそれだけたくさんの人が関心を持ってくれるなんてありがたいことだわ。メリンダ、ドレスがしわになっちゃう。手伝ってあげるから着替えましょう」
「はあい。お姉様ったら本当にドレスのことばっかりね。そうだわ! お姉様は好きな人はいらっしゃらないの?」
メリンダが急に目を輝かせるものだから、サーシャは吹き出してしまう。
「ふふっ。メリンダこそ本当に恋愛話が好きね。残念ながらそんな人はいないわ。そうねえ、ソーマがこの前好きな子がいるって言ってたから、ソーマと話してきたら?」
「そんなのいやよ。ソーマなんて12歳のお子様じゃない。私はもっときちんとした恋のお話が聞きたいの! お姉様に好きな人ができたら必ず教えてくださらないとダメよ」
二人はお互いを手伝い合って、さらにはメイドの手も借りながら着替えを済ませた。
サーシャはこの他愛もないおしゃべりをする時間がとても好きだった。
商会長・副商会長の両親のもとで育ったサーシャにとって、商いとはとても興味深く、ずっと学び続けていきたい道だ。しかし時には腹の探り合いのような駆け引きに疲れを覚えることもある。
メリンダと二人で話すこの時だけが、サーシャがただの女の子としていられる時間だった。
「メリンダ、着替えは終わったかしら?」
そう言って部屋に入ってきたのはメリンダの母ミカエラだ。彼女はサーシャを見て面白くなさそうな顔をする。
「サーシャ、あなたダメよ。あんな平民みたいな子どもに媚を売るなんて。ローディック商会の格が落ちたらどうするの」
「ですがミカエラ様、怪我を見て見ぬふりというのも印象が良くありません。それにもしあの子が平民じゃなかったらどうします? もしかするとお忍び中の王子様かもしれませんよ?」
そう言ってサーシャは小首を傾げる。
メリンダはクスクスと笑っていた。
ミカエラがこういった物言いをするのはいつものことだった。サーシャが物心ついたころからずっとこの調子なので、いちいち腹を立てていてはきりがない。
サーシャが彼女のことを『ミカエラ様』と呼んでいるのは、サーシャの母がそう呼んでいるからだ。何度か『叔母様』と呼んでみたことがあったが、返事はもらえなかった。
「まあ! 口が達者なこと! まったく誰に似たのかしら!」
ミカエラは憤慨しながら帰っていった。
メリンダはミカエラに手を引かれながら、反対の手をサーシャに向かって小さく振った。
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