仕上げる
仮縫いが終わると、サーシャはさらに業務の歩みを速めた。ローラの働きによって、雇用予定者がどんどん増えているのだ。
試着と調整を繰り返す。ピコは王女宮に急きょ設えた服飾室に詰めてもらっている。
「やっぱりスカート下は要るかしら」「作ってあります!」「脇がはだけるわ」「これ、胴衣です!」サーシャとピコのそんなやり取りが日に何度も交わされた。
そしてついに最初の一着が完成し、侍女長や女官長、そしてお針子長から認められると、サーシャとピコは抱き合って喜んだ。
サーシャよりも小さな体に小さな手。ピコが生み出す縫い目と言葉は、いつもサーシャが目指す方を向いている。
サーシャのお仕着せは縫製が容易なため、ピコと『ズルい』と言われた先輩針子のフレネが二人で取り掛かることになった。五日もあれば、現在お仕着せを必要とする者たちに行き渡るかと思われた。
ところが状況は一変する。
「カイくん! お仕着せ、王宮の子たちの分も頼めるかしら?」
執務室にローラがもたらしたのは、100着分の注文と追加予算だった。
「ネネさん! ルルさん! ただいま!」
ローラからの大量注文を受けて、とてもではないが王宮の縫製室では間に合わないと、いくつかの市井の仕立屋に依頼することになった。
そのうちの一軒であるネネたちの工房に、サーシャが見本を持って訪れていた。
「おやまあ、お嬢。ほんのちょっと会わない間に見違えたね」
「ああ、本当に。ついこの前まで迷子の犬っころみたいだったのに、こんな良いものを作れるようになって」
ネネたちに褒められたサーシャは子どものように笑う。サーシャにとって、仕事でありながらも休日のように心が安らぐ一日となった。
「そういえば、商会の方は大ごとにならなかったようだね。サリシャのドレスもみんな競争みたいに注文が入るし、お貴族様ってのはほんとによくわからんもんだ」
それはサーシャも母からの手紙で知っていた。貴族家への出入りはすぐに以前のように戻り、学園からは寮長の専横について学園長直々に謝罪があったそうだ。『貴族社会というのは本当によく分からないものね』と書かれた、母の手紙の締めと同じことを言うネネたちがおかしかった。
「お貴族様ねえ。この間ここらをウロウロしてる坊っちゃんがいたよ。お嬢のことを聞かれたから知らないって答えたけど、知り合いかい? ハンカチを返したいってさ」
──ニックだ。
メリンダとはどうなったのだろうか。気にしたところで知るすべはない。けれども……。
言いようのない、ざらりとした心地がした。
ただ一つ思ったのは、従妹が泣いていなければいい。それだけだった。
誰の心の動きも、布みたいに読めたらいいのに。




