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サリシャの光 〜商会の娘が紡ぐ夢〜  作者: ねるね
王宮へ
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仲間を得る

本日3話更新です。よろしくお願いします。

 すぐさまサーシャは生地の選定を始めた。

 軽くしなやかで艶のあるもの。少し厚みがあり落ち着いたもの。空気を多く含みふんわりとしたもの。かつて触れた生地や、聞き知った生地を思い出し、カイに取り寄せてもらった。

 サリシャもこの候補に入れられると良いのだが、あいにくサリシャの手触りはたいそう悪い。快適性と実用性が求められるお仕着せには不向きだろう。



「……あんたが要るって言うから色んなとこから集めたが、俺にはどれも同じに見えるんだよなあ」


 小さな応接机いっぱいに並べた生地の一枚を、カイがつまみ上げる。


「でもさすがに触ってみればわかりませんか? ほら、こっちはさらりとしていて、こっちはつるりとしてるんですよ」


「え? さらりと……つるり? それって何か違うのか?」


 二人で応接机を覗き込み、交互に生地に触れてはあれやこれやと言い合う。

 やがてカイはソファにどさりと腰を下ろし、眼鏡を取って片手で目元を揉んだ。


「あー慣れないもん見て目が疲れた」


「カイさん、もしかしてその眼鏡、目に合ってないんじゃないですか?」


 カイは一瞬言葉に詰まり、手元の眼鏡を眺める。


「……いいんだ。好きでかけてるから」


 そう言ってカイは執務机に戻った。




 吟味し絞り込んだ生地を前にして、サーシャの手は止まっている。

 まっすぐ切って縫うだけなのに、自分がその『まっすぐ』すらできないことを思い出したのだ。


 はさみを持った手を呆然と見ているサーシャに、カイが声をかける。


「……なんだ? 危なっかしいな。布が決まったんなら持っていくぞ」


「持っていくって、どこへですか?」


「王宮の……縫製室だったか? 補佐殿に言われて話は通してある」




 たどり着いた縫製室で、カイはお針子長を呼んだ。しかし、怪訝な顔で出てきた女性はカイの話をあっさりと断った。


「服飾室長に言ったとしても、私ら縫製室にも言っといてもらわないと困りますよ。王女宮の仕事だなんて、それなりの者をつけなきゃなりませんし。今日はどうにもなりませんね」


 サーシャはその言葉を、布を抱えてカイの後ろで頭を下げながら聞いていた。

 お針子長の言うことはもっともだ。人選を依頼して出直すべきだと考えていると、別の方向から声が上がった。


「長、その仕事、あたしにやらせてください!」


 声の主は、まだ年若い少女のようなお針子だった。




「えー! カイさん、ローディック姉妹のこと知らないんですか?」


 縫製室の一角に、少女の高い声が響く。

 お目付け役として充てがわれた先輩針子のひと睨みに、ピコという名の新米針子は慌てて口を押さえた。


「……名前くらいは知ってるが、顔なんて見たことない。田舎の出だとそんなもんだろ」


「あたしなんてひと目でわかりましたよ! サーシャさん、この前ここに来てましたよね?」


 サーシャは笑って「そうね」と返す。王女宮の侍女の荷物を一緒に運んだ時のことだろう。


「やっぱり! 先輩たちに言っても信じてくれなかったんですよ。あー、憧れのサーシャさんと一緒に仕事ができるなんて。子どもの頃の自分に自慢したいっ」


 口ばかり動かしているようでも、ピコはあっという間に数着分の裁断を終わらせた。次はいよいよシルエットの調整と仮縫いに入る。ここからが『ただの布』と『新たなお仕着せ』の分かれ道だ。



 まっすぐに切り揃えられただけの布は、形になるのを待っている。賑やかで頼もしい仲間を得て、お仕着せはようやくその輪郭を整えようとしていた。

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