かたちづくる
「……おいあんた、今後の雇用予定と予算を確認してきたぞ」
翌日、カイは出仕するなりいきなり声をかけた。
「あ、もう聞いてきてくださったんですね。ありがとうございます。それで、いかほどでしょう?」
カイが聞いてきたのは、お輿入れまでにあと50名ほどの臨時雇用を予定しているとのことだった。
「あら、思ったより少ないんですね。ローラさんがドレスを山のように修繕に出していらしたから、もっとたくさん予定されているのかと思ってました」
サーシャが頭の中でお仕着せの当面の必要数を考えていると、カイから予算額が告げられた。
それは、老舗仕立店でドレスを100着あつらえてもまだ有り余るほどの金額だった。
「え! 何か間違えてませんか? お仕着せは替えを入れても50着もあればと思っているんですが」
「……あー。補佐殿がたくさんって言うから俺が適当に要求したら通った」
こともなげにカイが言う。商会の仕事をしていても、そうそう目にすることのない額だ。
「王宮って、お金余ってるんですか……?」
カイはギョッとしていたが、そう思ってしまったサーシャは悪くはないだろう。
「補佐殿いわく、お仕着せ作るなら侍女以外の希望者にも貸せばいいってことらしいから、多めに作っていいんじゃないか? それにどうもあの調子だと臨時雇用は50人どころじゃなさそうだしな……」
カイはどこかぐったりした様子で話す。ローラの元気さに当てられてしまったのかもしれない。
予算に余裕はあるとは言っても、今後の手入れや追加で仕立てることを考えると、金額はある程度は抑えたいところだ。採寸がいらなくて、調整がきいて、誰が着ても形になる服──
そこまで考えたところで、ふと脳裏に浮かんだ名前に、サーシャは瞬きをした。
……メリンダがいたら、きっとはしゃいで意見を言っただろう。 布を巻きつけただけの格好で鏡の前に立って、「どうかしら」なんて笑って。
胸はもう痛まなかった。 代わりに、遠い日のぬくもりが静かに残るだけだった。
サーシャは、カイにお仕着せの案が固まったと告げた。
サーシャが思い描いたのは、長い布を二枚、肩にかけて腰で留める形だった。
体格差を問わず、着る者の動きを妨げない。手を上げてもしゃがんでも崩れない。余計な飾りを削ぎ落としたその形は、いわば衣装の原点のようなものだ。
サーシャはそれを美しい生地で作り、格調高い『新たなお仕着せ』として形にしたいと考えた。
『おねえさま! わたくしのかっこう、どうかしら?』
『メリンダ、とってもかわいいわ!』
『じゃあ二人でこのままおそとにでましょう』
サーシャの脳裏に、幼かった日の思い出がよみがえる。売り物の布を体に巻きつけて出掛けようとして、大人たちに慌てて止められた無邪気なあの頃。
布をまとわせて笑っていたあの子たちは、もういない。それでも記憶だけは、今も鮮やかなままそこに在る。
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