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サリシャの光 〜商会の娘が紡ぐ夢〜  作者: ねるね
芽生え
2/42

ローディック姉妹1

 王都の植物園に、普段の静けさが嘘のように多くの人が集まっていた。

 これからこの場所で、ローディック商会の新作お披露目会が行われる。

 人々は年代も性別もばらばらながら皆めいめいにめかしこみ、期待に満ちた様子でキョロキョロとあたりを伺っている。

 植物園を愛する常連たちは『ここで花より目立とうとするなんて』と呆れ顔だ。



 やがて群衆からワッと歓声が上がり、あたりは一層騒がしくなった。


「ローディック姉妹が来たぞ」

「今こっちを見たんじゃないか?」

「メリンダ様ますますお美しくなられて」

「私もサーシャと同じ帽子が欲しいわ」



 人々の熱い視線が注がれる先には、美しく着飾った二人の少女がいた。彼女たちの圧倒的な華やかさに、植物園の常連たちも目が離せずにいるようだ。


 彼女たちは最新の流行を押さえた装いで、爪先から帽子にいたるまですべてが洗練されている。

 二人のドレスは色も形も異なるものの、生地や細部の意匠からそれが揃いのあつらえだと一目でわかる。

 ややボリュームを抑えたドレスを身にまとう少女はすらりと背が高く、隣の少女をエスコートするように気にかけている。

 一方、長身の少女に腕を預け優雅な足取りで進むのは、ふんわりとしたドレスがよく似合う華奢な少女だ。


 彼女たちはローディック姉妹。

 王都では知らぬ者のない大商会の看板娘である。



 姉妹と呼ばれてはいるが、二人が従姉妹同士であることは周知の事実だ。

 背の高い少女はローディック商会長の娘、サーシャ・ローディック。アーモンド形の目は涼しげでどこか勝ち気な印象を覚える。

 華奢な体に甘やかな容貌を持つ少女はメリンダ・ローディック。王都近郊に綿花畑を有するローディック男爵家の一人娘である。

 サーシャが17歳、メリンダが16歳であるため、年上のサーシャが姉、メリンダが妹と呼ばれている。


 父親同士が兄弟で商売上の交流もあり、赤ん坊の頃から多くの時間を共に過ごしてきた。そのため二人は本当の姉妹のように、あるいはそれ以上に仲が良かった。


 幼児の頃に揃いのドレスを着ていた様子が評判となり、以来二人はローディック姉妹として商会の広告塔を担ってきた。メリンダが女学校に通い始めてからは二人が揃うことは稀になり、この日は久々のローディック姉妹のお目見えだった。



 本日お披露目となるのは、新作の帽子である。

 日差しが強い季節の到来に先駆けて、ローディック商会はつばの広い帽子を売り出そうとしていた。



 サーシャは帽子が人々によく見えるように、周囲の花を見渡すような仕草をした。メリンダもサーシャを見上げると、彼女と同じ方へと視線を向ける。

 二人で同じところを見ながら笑い合い、時々サーシャが軽く屈んでメリンダと目を合わせる微笑ましい様子に、誰もが思わず笑顔になった。



 皆が少女たちに目を向け、その一挙一動に注目するなか、突然強く風が吹いた。

 突風にさらわれたメリンダの帽子は群衆の方へと飛ばされ、最前列にいた平民らしき少年がとっさに手を伸ばす。

 しかしあとわずかに届かず、バランスを崩した少年は勢い余って転んでしまった。

 帽子は少年の後ろの紳士が悠々と掴み、少年は周囲にいた友人らしき仲間たちから冷やかされて顔を真っ赤にしていた。


 紳士のもとへとメリンダが近づき、差し出された帽子を受け取る。メリンダは紳士に向かってふわりと笑んで、愛らしい声で礼を言った。

 間近で彼女の笑顔を見た人たちは息を呑み、まばたきも忘れて見惚れている。それはあの少年たちも同じだった。


 帽子を受け取ったメリンダが立ち去る寸前、少年の方へと視線を向ける。思わず姿勢を正して頬を紅潮させる少年に、メリンダが寄越したのは冷ややかな眼差しだった。


 いよいよいたたまれない様子の少年は顔を伏せ、仲間の声も耳に入っていないようだ。


 うつむく少年の足元にふと影が落ちる。

 直後、少年の視界に映ったのは、しわ一つない桃色のハンカチだった。


「血が出てるわ。大丈夫?」


 涼やかな声に少年が顔を上げる。

 目の前にはサーシャが立っていた。


 少年は立ち尽くし、仲間たちも冷やかすことすら忘れて驚いている。

 サーシャは呆然とする少年にハンカチを握らせると、颯爽と去っていった。



 すべてがほんのわずかな間の出来事だった。

 この日、一人の少年が恋に落ちた。


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