間話 メリンダ
──お姉様、悲しいお顔。待って! 行かないで!
またあの夢だった。もう何度見たかわからない。
あの日からメリンダは女学校を休み、ミカエラとともに男爵領に戻っている。
『メリンダは待っていなさい、私がバルケス家との婚約を必ずまとめてあげるわ』
あの騒動後、そう断言した母だったが、いつも自室に閉じこもりきりで何かをしている様子はなかった。
「ニック様、私を選んでくださるわよね……?」
メリンダの声は、一人きりの部屋に溶けていった。
展示会の日、サーシャとともに光の中に立ったメリンダは、その高揚のままに友人たちと語らっていた。彼女たちはメリンダを褒め、サーシャを称え、サリシャの美しさに吐息をこぼす。
メリンダは友人からの惜しみない称賛に酔いしれ、サーシャの一番近くにいることこそが自分の幸せなのだと、そう強く確信した。
その時、友人の一人がつぶやいた言葉がふと耳に飛び込んでくる。
「学園の生徒さんも団体でいらしてるわ。あれは確か、ニック様と、サミュエル様と──」
その名前を聞いて、メリンダは思わず振り向いた。確かに学生らしき集団が見えるが、はっきりとは見えない。
持ち場に戻ると友人らに伝えて、メリンダは集団の方へと近づいていく。
ニックなんてありふれた名前だ。サーシャが言っていた人物ではないかもしれない。それでも、もしかしたら……。
「ニックは本当にサーシャが好きだなあ。招待状までもらって、かなり脈ありなんじゃないか?」
「あんなにメリンダ一辺倒だったのにな」
「デカい女は恥ずかしい、だっけ? 人は変わるもんだな」
聞こえてきた会話に、メリンダは驚く。
──お姉様がお好きな方は、私のことが好きだったの……?
憧れのサーシャの想い人が、自分のことを好いていた。その事実は、メリンダをあの幸福な光の中へと連れ戻した。
ニックは、もうメリンダへの想いはないのだろうか。サーシャよりも早く、彼と出会えていたら良かったのに。
きっと今からでも遅くない。彼の視界に入りたい。親しくなりたい。
そう思うのがいけないことだなんて、考えもしなかった。ただ手を伸ばして、光に近づきたかった。
──幸せに、なりたかっただけなのに。




