招待
展示会の準備は着々と進んでいる。
新素材について検分を重ねるうちに、サリシャの性質が少しずつわかってきた。
光が乗るのは無垢の綿だけで、熱変後に染め付ける際に使う染料にも、光を強めるものや消すものなど相性があるらしい。
作り上げられた色とりどりのサリシャの生地が、ネネとルルの工房に所狭しと並べられていた。
今日はメリンダが衣装合わせのために工房を訪れている。
「お姉様が作った新しい生地ってこれかしら? キラキラして淡い色が可愛らしいわ」
「メリンダに似合いそうな色味ばかりでしょう? 薄い生地で作ったから軽いのよ、ほら」
メリンダに手渡そうとした生地を、横からミカエラがさらって眺める。
「地味な布ねえ。この金糸みたいなのをもっと増やせないの? サーシャが背ばっかり大きくて目立つんだから、うちのメリンダにももっと注目を浴びさせてくれないと困るわ」
「いえね、今回ばかりはこの生地が主役ですよ。サーシャお嬢が手ずから染められたこの色なんて、メリンダお嬢様にぴったりじゃないですか」
「メリンダは将来のための場に立つのよ。地味じゃ困るの」
ネネとルルは「お嬢様はお可愛らしいから焦らなくても大丈夫ですよ」と慣れたようにあしらっている。サーシャとメリンダは困ったように顔を見合わせた。
ミカエラが商会に行くと言って工房を出ていくと、みなが一斉にホッとするのがわかった。
メリンダが興味津々な表情で身を乗り出して話しかけてくる。
「お姉様はいつからこんなすごいことを考えてらしたの? 私には何も言ってくださらないなんて、水くさいわ」
「そんなに前ではないのよ。たまたま色んな人から手がかりをもらったからとんとん拍子だっただけで。お母さんでしょ、ネネさんにルルさん、それにニックと……」
指折り数えて不意に声を止める。メリンダは首をかしげた。
「お姉様?」
「ああ、ごめんなさい。あのね、少し前にニックっていう友だちがね、できたの。内緒だけど、本当は貴族のご子息でね、すごく気さくで明るくて」
話すうちにサーシャは、胸の奥が浮き立つのを感じた。
「お姉様、頬が赤いわ。ね、ね、そのニック様のこと、もしかして──?」
「いやだわ、そんなメリンダが思うようなことじゃないわよ。そんなことよりも、ほら、招待するお客様はもう考えた? 女学校のご友人も呼んでほしいってお母さんが言ってたわ」
急に話題を変えたサーシャに、メリンダは笑みを保ったまま答える。
「うふふっ、お姉様がそうおっしゃるならそれでいいわ。お友だちはみんなお披露目会に来たいんですって! 厳選するなら爵位が高いおうちの子がいいかしら?」
「それはありがたいけれど、メリンダは気にせず好きなお友だちを呼んだら良いのよ? 貴族家や王宮関係者は商会から招待するから」
「好きな子、ね。わかったわ。じゃあお姉様はニック様をご招待なさるのね。どんな方なのかしら、楽しみだわ」
また話を戻すメリンダに、サーシャは「もうっ!」とわざと怖い顔をしてみせる。メリンダは「こわーい」と言って大げさに身を震わせて、手元が狂いそうになったルルにやんわりと注意をされた。
笑い声と熱意が同居する工房は、展示会の朝を迎えるまで、窓の明かりが消えることはなかった。




