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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第8話:鉄屑の聖域

独特どくとく臭気しゅうきが漂う暗がりを二、三歩進んだ時、背後かられ合うような、それでいてしんの通った老人の声が響いた。


「……待ちなさい。マイア、バイアス。その二人をそれ以上手荒に扱うのはおやめ」

銃口を向けていたマイアと、棍棒こんぼうを構えていた大男のバイアスが、はじかれたように振り返る。


「……じいさん」

瓦礫がれきの影からゆっくりと姿を現したのは、腰の曲がった小柄な老人だった。全身にすすがこびりついたボロをまとい、手には光り輝く細いくだ——光ファイバーを幾重いくえにもたばねて作ったつえを突いている。

「爺さん」と呼ばれた老人が、静かに問いかける。


「お前さん達、名は何という?」

「俺は佐藤。こっちはクロだ。……あんたが、ここのまとめ役かい?」

相手に警戒心を抱かせないよう、極めて穏やかな口調で名乗った。五十年の人生でつちかった、場を和らげるための呼吸こきゅうだ。

「俺たちは食べ物を探してここに迷い込んだだけで、誰かを傷つけるつもりはない」

「まとめ役、か。……皆からはそう呼ばれておるな。私の名はジャインという」


老人は、にごりのないひとみで佐藤を見つめた。

「サトウ、か。お前さん、あっちの方から来たようだが……。あそこは、たまに上の神様かみさまがゴミをまとめて捨てる場所だろう。そんなところに、お前さんのような者がいたとはな」

ジャインが杖の先で、佐藤たちが歩いてきた方向を指す。そこには「神様」が捨てた巨大な廃棄物の山が、虚無きょむ象徴しょうちょうするようにそびえ立っている。


「……ああ。上から降ってきたガラクタの間を抜けて、ようやくここに辿り着いた。生きるために必死だったんだ」

佐藤の言葉に、マイアがいぶかしげに目を細めた。

「……爺さん、こいつはただの不適合者ふてきごうしゃじゃない。もし、あのゴミの中からい出してきた『バケモノ』のたぐいだったらどうする」

マイアの目は、佐藤を人間としてではなく、ゴミ山からまれに生まれる変異体へんいたいや、地上から廃棄されてきた「異常個体」として警戒していた。


「マイアよ、あのうえ神様かみさまが、わざわざこんな奈落ならくそこに何かを送り込む道理どうりはなかろう。彼らにとってここは、いらなくなった物を捨てるためのただの穴だ」

ジャインは静かに笑い、佐藤へ一歩近づいた。


「サトウ、お前さんの目は、ここらでえにおびえている者たちの目とは違う。かといって、変異体のような狂気きょうきも見えん……。面白い。バイアス、その二人の拘束こうそくいてやりなさい。我が家へ案内しよう」

「本気かよ……。変な虫でも連れ込んでなきゃいいがな」

バイアスは不満げに鼻を鳴らしながらも、構えていた棍棒を下げ、二人の拘束を解き放った。


佐藤は内心で安堵あんどの息を吐く。

(このジャインという爺さん……ただの長老じゃないな。言葉の端々に、このゴミ山の住人らしからぬ知性を感じる)


「サトウ、あの爺さん、変なにおいがするわ」

クロが佐藤の耳元で小さくささやいた。

「匂い?」

「ええ。鉄や油の匂いじゃない……もっと、かわいた古い何かのような匂い」

佐藤はクロの言葉を胸に刻みながら、ジャインの後に続いた。


案内された先には、基板きばんをパッチワークのようにつなぎ合わせて補強された壁や、光ファイバーをあみのようにみ込んで作られたハンモックが並ぶ、異形いぎょうの集落が広がっていた。

教育も文明もないはずのこの場所で、彼らは捨てられた残骸ざんがいを、本来の用途とは無関係な「生活の知恵」として組み替えて生きている。

佐藤は、自分が転生したこの世界の、いびつでたくましい底辺ていへんの姿を、いま初めて目の当たりにしていた。

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