第6話:認識の数値と廃棄区画の主
「……こっちだ、クロ。たぶん、何かがある」
佐藤——若返った肉体に戸惑い続ける元50歳の男——は、西の廃棄区画の奥深くへと足を踏み入れていた。
崩れたビルの一部が地面を貫き、ねじ曲がった鉄骨が奇怪なオブジェのように連なっている。この超高度文明の残骸は、佐藤にとっては未知の塊だが、50年の人生で培った「現場の勘」が、ただの鉄屑ではない「生活の痕跡」を嗅ぎ取っていた。
探索の途中、佐藤の目が足元に転がっていた奇妙な物体に留まった。
スマートフォンのような形状だが、表面には鈍い金属光沢があり、奇跡的に目立った破損はない。
「なんだ、これ……」
何気なく手に取り、こびりついた埃を指で払った瞬間だった。
デバイスの表面が青白く発光し、扇状の光が佐藤の体を下から上へと走った。
『――生体反応を検知。スキャンを開始します』
「うおっ!?」
驚いて手を離そうとしたが、画面に浮かび上がった文字が佐藤の目を釘付けにした。
【個体識別:未登録 / 推定年齢:17歳 / 生体状態:良好】
「……17、歳?」
佐藤は自分の手をまじまじと見つめた。
鏡代わりの水溜まりで見た顔は確かに若かった。だが、こうして文明の遺物に客観的な数値として突きつけられると、頭の芯が痺れるような感覚に襲われる。
(中身は50だぞ……それが、本当に17歳のガキに戻っちまったのか……)
その直後、デバイスは「プツン」と音を立て、画面が暗転した。二度と光ることはなく、ただの冷たい金属の塊に戻る。佐藤はそれを足元に捨て、動揺を隠すように歩を進めた。
「サトウ、どうしたの?」
不思議そうに覗き込むクロに、「なんでもない」と短く答え、彼は再び周囲の観察に集中した。
しばらく進むと、佐藤の予感は確信に変わる。
瓦礫の隙間に、わずかに踏み固められた土の道。そして、風を避けるように配置された大型パネルの裏側に、人間が腰掛けたような跡を見つけた。
「痕跡だ。誰かがここにいた、あるいは今もいる」
さらに奥へ進むと、巨大なコンテナや航空機の翼のようなパーツが意図的に組み合わされ、壁を作っているエリアに出た。ガラクタで築かれたその場所は、まるでコミュニティの入口と思われるような作りだった。
「クロ、離れるなよ」
佐藤が声を潜めたその時、広場の端を横切る「人影」を見逃さなかった。
「待て!」
呼びかけに応じず、影は路地の奥へと逃げる。佐藤は反射的に駆け出した。17歳の肉体は驚くほど軽く、鋭い加速を見せる。
入り組んだ瓦礫の迷路を抜け、曲がり角を曲がった先。そこは、高い鉄壁に囲まれた、完全な袋小路だった。
「……行き止まりか」
足を止めた瞬間、頭上から複数の気配を感じて背筋が凍っる。
「――お前らは何者だ」
見上げると、瓦礫の山の上に5〜6人の男女が立っていた。
その手には、鈍い光を放つ銃火器のようなものが握られ、銃口は全て佐藤とクロに向けられている。
「動くな。質問に答えろ」
集団の中から一歩前に出た女性が、厳しい声で問いを重ねる。
「お前らは何者だ。答えなければ撃つ」
佐藤はゆっくりと両手を挙げた。
つい数分前に突きつけられた「17歳」という数字。その若すぎる肉体の中に、50歳の冷静な思考を無理やり詰め込み、佐藤はこの窮地をどう切り抜けるべきか、息を呑んで答えを探した。




