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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第23話:純白の陥穽

「SW……ここがどこなのか、教えてもらえるか?」

 佐藤は努めて冷静な声を出し、真っ白な人形ひとがた――SW2000に向き合った。

『ここは、地表よりマイナス1,000メートル地点に位置する、セクターG-12「アンドロイド待機・格納区画」です。私は人類の皆様の生活を補助し、奉仕するために設計された汎用人型個体です』


 1,000メートルという数字に、マイアとナナイは息を呑んだ。彼女たちには距離という概念がなかった。つまり1,000メートルの意味は分からなかったが、それでも言葉の重い響きに、自分たちのいる場所が「地のどん底」または「それ以上の下」であることを肌で感じ取ったのだった。


(……ここが地下1,000メートルということは、マイアたちのコミュニティも地下1,000メートルということか。同じ深さなのに壁一枚隔てただけでこれほど文明の濃度が違うとは……)

 佐藤は改めて、足元から這い上がるような驚愕きょうがくを覚えていた。


「地上へ出るルートを知りたい。案内できるか?」

『ルート検索を開始します……。……居住区を経由し、中央エレベーターシャフトへ向かうルートが最短です。ただし――』

 不意に、SWの瞳の光が激しく明滅した。

『……警告。これ以上の機密情報へのアクセスには、レベル4以上の承認コードが必要です。プロテクトを感知。情報の開示を制限します』

「開示の制限だと! チッ、仕方ない。行けるとこまででいいから、道案内を頼めるか?」

『了解しました。人類の安全を最優先し、誘導を開始します』

 SWが壁に近づいて電子音を発生させると、隙間など一切なかった壁に一本の筋が現れ、そこから左右に分かれて扉が開いた。その先に続いたのは、入り口の漆黒とは対照的な、眩いばかりの光に満ちた回廊だった。壁面には例の緻密な幾何学模様のレリーフが彫り込まれ、呼吸するように淡く明滅している。


「アイリスというAIの事を教えてくれるか?」

 回廊を歩きながら佐藤が問う。SWは歩みを止めることなく答えていく。

『AI・アイリス。この施設を含む全ての施設並びに全てのアンドロイド等の管理・制御、および地上の全ての統治を行なっている自律並列思考型のAIです』

「統治? ……それならばSWもアイリスの管理下なのか?」

『私は管理用デバイスの完成前に製造された個体ですので、管理外になります』

「そうか。それなら、統治というのは人間もその中に入るのか?」

『私のメモリー内の記録では、ただ「統治している」とだけあり、詳細は不明です』


 やがて回廊の突き当たりに辿たどり着いた。先ほど同様にSWが電子音を流すと壁が音もなく左右に開く。そこは10畳ほどの密閉された小部屋だった。


「……もしかして、これはエレベーターなのか?」

 佐藤の呟きに、マイアが怪訝そうに眉を寄せた。

「えれ……何? サトウ、それって何?」

「上下に移動するための……」

 佐藤が説明を終える前に、三度みたびSWが電子音を響かせる。すると扉が音もなく閉まった。

 刹那、胃が浮き上がるような強烈な浮遊感が一行を襲う。

「ひっ……!? な、何これ!」

「地面が、地面が抜ける……っ!」

 ナナイとマイアは悲鳴を上げ、その場に膝をついて床にしがみついた。佐藤とクロも手すりのない壁に必死に身体を預け、歯をほねばらせる。数秒の後、不意に重力が戻り、無機質なチャイムが響いた。

『生産地区に到着しました』

 扉が開いた先には、巨大なアームが複雑にうごめき、得体の知れない部品を組み立て続ける広大な工場が広がっていた。


「ここは……何を作っている場所なんだ?」

『当施設で使用される各種アンドロイド、および生活維持リソースの生産ラインです』

 その答えが終わるのを待たず、突如として室内の照明が、警告を告げる刺すような赤色へと変貌した。


『――警告。制御外の不正アンドロイドを検知。直ちに回収、または排除せよ』

 施設全体を震わせるような重低音が響き渡る。さらに

『生体反応4を検知。ここは未承認個体の立ち入り禁止区域です。直ちに退去してください。従わない場合は、強制的に排除します』

「まずい、見つかった! みんな、走れ!」


 佐藤の叫びと同時に駆け出そうとしたその時、SWの隣の壁がスライドし、重厚な金属音が炸裂した。現れたのは、見覚えのある⋯そう、かつてあの女性管理官の背後に控えていた、武骨で巨大な「警備ロボット」だった。


 ロボットはSWに対し、無機質な電子信号を投げかける。

『……個体識別番号SW2000。再制御不能と判断。……排除します』

「――っ!?」

 激しい銃声と火花が、純白の空間を無残に切り裂いた。

 数秒前まで優雅に一礼していたSWは、なす術もなく蜂の巣にされ、白い人工皮膚と内部パーツを撒き散らしながら崩れ落ちた。

『排除完了』

 警備ロボットは、物言わぬスクラップとなったSWを一瞥もせず、ゆっくりと佐藤たちに向き直った。赤いセンサーが、獲物を捕らえるように彼らの姿をなめる。


『ここは立ち入り禁止区域です。従わない場合は――』

 巨大な銃口が、今度は佐藤の眉間に狙いを定めた。

 絶体絶命の瞬間。

 警備ロボットと佐藤の間に飛び込んだクロの黄金色の瞳が、今までに見たことのない程強く妖しく光り輝くのを佐藤は見逃さなかった。

 クロの新たな能力が目覚めようとしている瞬間であった。

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