第2節:王宮介入
三日後。
僕たちは、聖王都ルミナスの王宮前に立っていた。
白亜の城壁。
天を突く尖塔。
そして、金色に輝く正門。
(すごい……)
僕は、ただただ圧倒されていた。
「緊張するな、ルーク」
マンディが、僕の肩を叩く。
「だ、大丈夫です……!」
嘘だった。
心臓が、激しく鳴っている。
「セラも、顔色悪いわよ」
リザが、セラを見る。
「あ、あの……私、やっぱり……」
セラが、震える声で呟く。
「大丈夫よ、セラ」
師匠が、優しく微笑む。
「あなたの事情は、私たちが守るわ。何があっても、心配しないで」
「し、師匠……!」
セラが、涙目になる。
(師匠、優しいな……)
僕は、改めて師匠を尊敬した。
「それでは、参りましょうか」
師匠が、正門へと歩み寄る。
僕たちも、後に続いた。
* * *
謁見の間。
天井は高く、壁には王家の紋章が刻まれている。
赤い絨毯が、玉座まで続いていた。
そして――
玉座には、一人の男性が座っていた。
金色の髪。
威厳ある佇まい。
そして、紫のマント。
"国王――エドワード・ルクス・アークライト陛下。"
「よく来た、《黒薔薇の園》」
国王が、穏やかに微笑む。
「お招きいただき、光栄です」
師匠が、優雅に一礼する。
僕たちも、慌てて頭を下げた。
「顔を上げよ」
国王の言葉に、僕たちは顔を上げる。
「まず、Sランク認定、おめでとう。聖王都ルミナスの誇りだ」
「ありがとうございます」
師匠が、優雅に答える。
国王は、僕たちを一人ずつ見回した。
そして――
セラで、視線が止まった。
「……ふむ」
国王が、微笑む。
「セラフィン、元気そうだな」
「……え?」
セラが、固まった。
「あ、あの……私、セラと申しまして……」
「セラフィン・ルクス・アークライト。我が息子よ」
国王が、穏やかに告げる。
「ぶっ……!?」
セラが、盛大に咳き込んだ。
「ば、バレて……!?」
「バレていないと思っていたのか?」
国王が、苦笑する。
「お前の女装など、一目瞭然だ。しかも、王都中に捜索ポスターが貼られているのだぞ」
「う……」
セラが、顔を真っ赤にする。
(やっぱり、バレバレだったんだ……)
僕は、内心で苦笑した。
「まあ、よい」
国王が、手を振る。
「お前が《黒薔薇の園》で学んでいることは、側近から報告を受けている。むしろ、良い経験になっているようだな」
「……はい」
セラが、小さく頷く。
「それに――」
国王の視線が、師匠に向く。
「シルヴィア・ド・ノワール。お前がセラフィンを守ってくれていること、感謝している」
「いえ、当然のことを」
師匠が、優雅に微笑む。
(師匠……かっこいい)
僕は、また感動していた。
「さて、本題に入ろう」
国王が、表情を引き締める。
「《黒薔薇の園》に、協力を依頼したい」
「協力……ですか?」
師匠が、首を傾げる。
「ああ。実は、王国に危機が迫っている」
国王の言葉に、謁見の間の空気が張り詰めた。
「危機……とは?」
リザが、訊ねる。
「北の国境付近で、魔獣の群れが異常発生している。その数、数百。このままでは、村々が襲われる」
「数百……!?」
僕は、息を呑んだ。
「通常の冒険者では、対処しきれない。Sランククラン――《黒薔薇の園》の力が、必要なのだ」
国王の瞳は、真剣だった。
師匠は、少し考え込んだ。
そして――
「分かりました。お受けいたします」
「本当か!」
国王が、顔を輝かせる。
「ただし――」
師匠が、言葉を続ける。
「私たちだけでは、厳しいかもしれません。他のSランククランとの協力も、検討していただけますか?」
「もちろんだ。だが――」
国王が、苦笑する。
「この王国に、Sランククランは《黒薔薇の園》だけなのだ」
「……え?」
師匠が、固まった。
「他国には、Sランククランがいくつかある。だが、アークライト王国では、お前たちが初めてだ」
「そ、そうなんですか……」
師匠の表情が、一瞬だけ青ざめた。
(……師匠、大丈夫かな)
僕は、不安を覚えた。
数百の魔獣。
それを、僕たちだけで――
「師匠」
リザが、前に出る。
「私たちがいます。必ず、成功させます」
「ああ、任せてください!」
マンディも、胸を張る。
「……ありがとう」
師匠が、微笑む。
だが、その笑顔は――
どこか、疲れているように見えた。
* * *
(……数百の魔獣)
私――シルヴィア・ド・ノワールは、内心で絶望していた。
(無理、絶対無理……!)
私は、ただの声優だ。
戦闘能力なんて、ない。
リザとマンディが強いのは事実だが――
数百は、流石に無理がある。
(どうしよう……)
だが、ここで断れば――
王国が危機に陥る。
村々が襲われる。
それは、避けなければならない。
(……何か、方法は)
私は、必死に思考を巡らせた。
そして――
**「群衆劇の演出」**
声優時代、大規模なイベントで使った技術。
多数の役者を、少ない指示で動かす方法。
(……これ、使えるかも)
私は、国王に向き直った。
「陛下、一つ質問があります」
「何だ?」
「魔獣の群れは、統率されていますか? それとも、バラバラに動いていますか?」
「……報告によれば、統率されているようだ。まるで、誰かが指揮しているかのように」
「では、指揮者を倒せば、群れは崩壊する」
私の言葉に、国王が目を見開く。
「……なるほど。だが、指揮者を見つけるのは容易ではない」
「舞台でも同じです。群衆劇では、中心となる役者がいます。その役者を見極めれば、全体の流れが見える」
私は、冷静に告げた。
(……これ、演出論だけど)
だが――
リザとマンディが、目を輝かせた。
「戦術理論だ……!」
「群れの中心を叩く――確かに、それが最善だ!」
二人が、興奮した様子で頷く。
(……また、誤解されてる)
私は、内心で頭を抱えた。
「素晴らしい」
国王が、感嘆の声を上げる。
「さすが、聖典の化身。その知恵、まさに神意だ」
「い、いえ……」
私は、慌てて否定しようとする。
だが――
「それでは、《黒薔薇の園》に正式に依頼する。報酬は、金貨千枚。そして――」
国王が、立ち上がる。
「王国の正式な後援を、約束しよう」
「後援……?」
「ああ。《黒薔薇の園》は、今後、王国の公式クランとして扱われる。資金、装備、情報――すべて、王国が支援する」
国王の言葉に、謁見の間がどよめいた。
(……え、ちょっと待って)
私は、混乱した。
(それって、もっと厄介事が増えるってこと……!?)
王国の公式クラン。
それは、名誉だが――
同時に、責任も増える。
依頼も増える。
注目も増える。
(静かに暮らしたい……!)
私の願いは、また遠ざかった。
だが――
「ありがとうございます、陛下」
私は、優雅に微笑んだ。
もう、諦めていた。
どうせ、止められない。
「おーっほほほほほっ!」
高笑いが、謁見の間に響く。
国王が、満足そうに頷いた。
「さすが、聖典の化身。その気高き笑みこそ、王国の希望だ」
(……もう、やだ)
私は、内心で泣いていた。
* * *
謁見が終わり、僕たちは王宮を後にした。
「すごかったですね、師匠……!」
僕は、興奮した様子で言う。
「国王陛下に認められるなんて……!」
「そうですわね」
師匠が、優雅に微笑む。
だが――
その笑顔は、どこか虚ろに見えた。
「師匠、大丈夫ですか?」
セラが、心配そうに訊ねる。
「ええ、大丈夫よ」
師匠が、頷く。
だが――
僕には、分かった。
師匠は、疲れている。
いや――
**限界に近い。**
(……何か、できることはないのか)
僕は、必死に考えた。
だが――
Fランクの僕に、できることは限られている。
「師匠」
リザが、前に出た。
「私たちが、必ず成功させます。師匠は、安心して指示を出してください」
「ああ、任せてくれ!」
マンディも、拳を握る。
「……ありがとう」
師匠が、微笑む。
その笑顔は――
少しだけ、温かかった。
そして――
僕たちは、北の国境へと向かう準備を始めた。
数百の魔獣。
王国の危機。
そして――
《黒薔薇の園》の正念場。
――だが、この任務が、さらなる伝説を生むことになるとは――
この時の僕には、まだ知る由もなかった。
最後までありがとうございました!
楽しんでいただけたら、
評価やブックマークを入れてもらえるととても嬉しいです。
反応があると更新速度が上がります(重要)
コメント頂ける方はマナーとして好きな声優さんかVtuberを必ず記入してください(超重要)
それでは次回の更新をお楽しみに




