第4節:真相、そして選択
(しのぶ視点)
「ガチファン……?」
私は、困惑した。
「どういうこと……?」
「そのままの意味よ」
ルミナスが、にっこりと笑う。
「私――」
「あなたの、大ファンなの」
「……」
(女神が……私のファン……?)
私の頭が、追いつかない。
「あの――」
私は、恐る恐る訊ねた。
「どういう意味ですか?」
「ああ、ごめんね」
ルミナスが、手を叩く。
「順番に説明するわ」
「まず――」
ルミナスが、真剣になる。
「私、実は――」
「地球出身なの」
「!」
私は、固まった。
「地球……!?」
「ええ」
ルミナスが、頷く。
「私も――」
「元々は、地球の人間だった」
「それが――」
「数千年前に――」
「この世界に、転移してきたの」
「……」
私は、息を呑んだ。
「そして――」
ルミナスが、続ける。
「この世界の人々に――」
「文明を、教えた」
「魔法を、整理した」
「宗教を、作った」
「そうしたら――」
ルミナスが、苦笑する。
「いつの間にか――」
「女神って、呼ばれるようになってた」
「……」
(そんな……)
私は、呆然とする。
「でも――」
ルミナスが、窓の外を見る。
「私――」
「ずっと、地球のこと――」
「忘れられなかったの」
「特に――」
ルミナスが、私を見る。
「サブカルチャーが、大好きで」
「!」
「アニメ、漫画、ゲーム――」
ルミナスが、目を輝かせる。
「全部、大好きだった」
「だから――」
「たまに、地球に戻って――」
「イベントに、参加してたの」
「イベント……?」
私は、驚く。
「ええ」
ルミナスが、頷く。
「コミケとか――」
「声優イベントとか――」
「!!!」
私は、完全に固まった。
「そして――」
ルミナスが、私を見つめる。
「三年前――」
「東京のイベントで――」
「あなたに、会ったの」
「え……」
「黒瀬しのぶ」
ルミナスが、私の本名を呼ぶ。
「悪役令嬢専門の声優――」
「あなたの高笑いを――」
「生で、聞いた時――」
ルミナスが、胸に手を当てる。
「私――」
「感動して、泣いちゃった」
「……」
私は、何も言えなかった。
「あんなに――」
ルミナスが、続ける。
「美しくて――」
「力強くて――」
「それでいて――」
「どこか、悲しい――」
「完璧な、高笑い」
「私――」
ルミナスが、微笑む。
「その日から――」
「あなたの、ガチファンになったの」
「……」
(そんな……)
私は、混乱する。
(女神が……私のファン……?)
「それで――」
私は、震える声で訊ねた。
「それと、転移と――」
「何の関係が……?」
「ああ」
ルミナスが、頷く。
「実はね――」
「あの日――」
ルミナスが、真剣に言う。
「あなた――」
「死んでないのよ」
「……え?」
私は、固まった。
「死んで……ない……?」
「ええ」
ルミナスが、にっこりと笑う。
「あなた――」
「ただの、過呼吸で――」
「三時間、気絶してただけ」
「!!!」
私は、完全に――
理解が、追いつかなかった。
「ちょっと待って」
私は、頭を押さえる。
「つまり――」
「私――」
「死んでない……?」
「死んでないわよ」
ルミナスが、あっけらかんと言う。
「病院で――」
「今も、寝てる」
「ただの、過労による――」
「一時的な気絶」
「三時間くらいで、目が覚めるわよ」
「……」
私は、呆然とした。
(私……死んでなかった……?)
(転生じゃなくて……?)
「でも――」
私は、訊ねる。
「私――」
「この世界に来てから――」
「もう、三年も――」
「ああ、それね」
ルミナスが、指を立てる。
「時間の流れが――」
「違うの」
「地球と、この世界では――」
「1対365の比率」
「つまり――」
ルミナスが、説明する。
「地球の一時間が――」
「この世界の一年に相当するの」
「!」
「だから――」
ルミナスが、続ける。
「あなたが、この世界で過ごした三年は――」
「地球では、三時間」
「……」
私は、言葉を失った。
(そんな……)
(私……まだ……)
(生きてる……?)
涙が――
溢れてきた。
「あ……」
私は、顔を覆う。
「私……」
「生きてる……」
「ええ」
ルミナスが、優しく言う。
「生きてるわよ」
「ちゃんと」
「……」
私は、泣いた。
嬉しくて。
安心して。
そして――
少し、腹が立った。
「それなら――」
私は、涙を拭う。
「最初から、言ってくださいよ……」
「ごめんね」
ルミナスが、謝る。
「でも――」
「言ったら――」
「演技、頑張らなかったでしょ?」
「……」
(確かに)
私は、認めざるを得なかった。
「それに――」
ルミナスが、続ける。
「あなたの演技――」
「本当に、必要だったの」
「必要……?」
「ええ」
ルミナスが、頷く。
「この世界――」
「最近――」
「停滞してたの」
「人々が、夢を見なくなった」
「英雄を、信じなくなった」
「だから――」
ルミナスが、私を見る。
「あなたの演技で――」
「人々に――」
「夢を、思い出させたかったの」
「……」
「リザも、マンディも、セラも、ルークも――」
ルミナスが、数え上げる。
「みんな――」
「あなたのおかげで――」
「夢を、取り戻した」
「成長した」
「強くなった」
「そして――」
ルミナスが、微笑む。
「この世界は――」
「また、動き出した」
「……」
私は、黙り込んだ。
「でも――」
ルミナスが、真剣になる。
「これ以上――」
「あなたに、無理はさせられない」
「だから――」
ルミナスが、手を差し出す。
「選んで」
「このまま、地球に帰る?」
「それとも――」
「もう少し、ここにいる?」
「……」
私は、考えた。
(帰りたい)
(静かに、暮らしたい)
(でも――)
(みんなの顔が、浮かぶ)
(リザ、マンディ、セラ、ルーク)
(ツルッパゲーノも、まだいる)
「一つ――」
私は、ルミナスを見た。
「質問、いいですか?」
「もちろん」
「時間の流れが違うなら――」
私は、訊ねる。
「また、来ることは――」
「できますか?」
「!」
ルミナスが、目を輝かせた。
「もちろん!」
「地球で、一日休んで――」
「また、こっちに来る?」
ルミナスが、嬉しそうに言う。
「それなら――」
「地球では一日だけど――」
「こっちでは一年過ごせるわよ」
「……」
私は、考えた。
(それなら――)
(仕事との両立も――)
(できるかもしれない)
「じゃあ――」
私は、決めた。
「一度、帰ります」
「でも――」
私は、ルミナスを見つめる。
「また、来ます」
「今度は――」
「私が選んで」
「……!」
ルミナスが、嬉しそうに笑った。
「それ――」
「最高の答えよ」
「ありがとう、しのぶ」
「……」
私も、微笑んだ。
(そうだ)
(逃げるんじゃない)
(選ぶんだ)
* * *
「それで――」
私は、周囲を見る。
「みんなは?」
「ああ」
ルミナスが、手を叩く。
すると――
時間が、動き出した。
「――っ!」
ルークたちが、動き出す。
「な、何が……」
リザが、混乱している。
「師匠!」
ルークが、私に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「ええ」
私は、微笑む。
「大丈夫よ」
「枢機卿は……?」
マンディが、訊ねる。
「あれは――」
ルミナスが、答える。
「私が、処理したわ」
「もう、悪さはできない」
「……」
みんなが、安心した様子になる。
「それで――」
セラが、訊ねる。
「これから、どうなるんですか?」
「私は――」
私は、みんなを見る。
「一度、地球に戻ります」
「!」
みんなが、驚く。
「でも――」
私は、微笑む。
「また、来るわ」
「必ず」
「師匠……」
ルークが、涙を流す。
「本当ですか?」
「ええ」
私は、頷く。
「約束する」
「今度は――」
「役を降りた状態で、来るわ」
「役を……降りた?」
リザが、訊ねる。
「ええ」
私は、説明する。
「もう――」
「聖女として――」
「演じ続ける必要は、ない」
「私が、私として――」
「ここに、来る」
「それでも――」
私は、みんなを見る。
「いい?」
「もちろんです!」
ルークが、叫ぶ。
「師匠は、師匠です」
「聖女でも、何でもなく――」
「僕たちの、師匠です」
「……」
私は、温かい気持ちになった。
「ありがとう」
「それじゃ――」
ルミナスが、立ち上がる。
「そろそろ、送るわね」
「しのぶ」
「はい」
私は、みんなに向き直る。
「みんな――」
「また、会いましょう」
「はい!」
みんなが、頷く。
そして――
ルミナスが、手を掲げた。
光が――
私を、包み込む。
「じゃあね、しのぶ」
ルミナスの声が、聞こえる。
「また――」
「いつでも、待ってるから」
「ええ」
私は、微笑んだ。
「また、来るわ」
「今度は――」
「ガチファンのサイン会にも、行きましょうね」
「!」
ルミナスが、嬉しそうに叫ぶ声が――
最後に、聞こえた。
「やったー! 約束だからね!」
そして――
光が、すべてを包んだ。
* * *
(ルーク視点)
光が、消えた。
師匠の姿も――
消えていた。
「師匠……」
僕は、呆然と立ち尽くす。
「行っちゃった……」
リザが、泣いている。
「でも――」
セラが、言う。
「また、来るって――」
「約束してくれた」
「ええ」
マンディが、頷く。
「信じましょう」
「師匠を」
「……」
僕は、空を見上げた。
青い、空。
白い、雲。
(師匠……)
(また、会えますよね)
(必ず)
そして――
僕は、決めた。
(それまで――)
(僕たちも、成長しよう)
(師匠が、戻ってきた時――)
(もっと、強くなっていよう)
「みんな」
僕が、呼びかける。
「師匠が、戻ってくるまで――」
「僕たちで――」
「黒薔薇の園を、守ろう」
「もちろんですわ」
リザが、涙を拭う。
「師匠のために――」
「私たちは、もっと強くなりますわ」
「ああ」
セラも、頷く。
「それに――」
セラが、ニヤリと笑う。
「師匠が、戻ってきた時――」
「どれだけ伝説が増えたか――」
「楽しみにしてるんじゃないか?」
「あ……」
僕は、気づいた。
(そうだ……)
(師匠が戻ってきたら――)
(また、面白いことが――)
(起きるかもしれない)
「ふふ」
マンディが、笑う。
「師匠――」
「きっと、また――」
「困った顔、するんでしょうね」
「ええ」
リザも、笑う。
「それが――」
「楽しみですわ」
「……」
僕は、微笑んだ。
(そうだ)
(これは、終わりじゃない)
(また、始まるんだ)
(師匠と僕たちの――)
(新しい、物語が)
第二部 完
これにて第二部完結になりますが、3部からはしのぶの元の世界も織り交ぜたお話が展開します。
今後ともよろしくお願いいたします。
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