第2節:聖女即位式、完璧な段取り
(しのぶ視点)
聖女即位式――
それは、一週間後に迫っていた。
「……」
私は、控室で――
白い法衣を見つめていた。
聖女の衣装。
金の刺繍。
ティアラ。
すべてが、完璧に用意されている。
「師匠」
リザが、入ってくる。
「準備は、いかがですか?」
「ええ、問題ないわ」
私は、微笑む。
だが――
心の中では、不安でいっぱいだった。
(枢機卿の言葉……)
(女神とともに邪神は復活する……)
(一体、どういう意味……?)
* * *
一週間が、あっという間に過ぎた。
そして――
聖女即位式、当日。
ルミナス大神殿は――
人で、溢れていた。
王族、貴族、騎士、神官――
そして、数千の信者たち。
「すごい人だ……」
ルークが、呟く。
「当然ですわ」
リザが、誇らしげに言う。
「師匠が、聖女として即位するのですから」
「……」
私は、何も言えなかった。
「シルヴィア様」
神官が、私を呼ぶ。
「そろそろ、お時間です」
「……はい」
私は、深呼吸した。
(落ち着いて……)
(これも、演技……)
(ただの、演技……)
控室を出る。
大聖堂へ向かう廊下。
そこには――
リザ、マンディ、セラ、ルークが――
並んで、待っていた。
「師匠」
リザが、前に出る。
「私たちは、ずっと――」
「師匠の味方です」
「ありがとう」
私は、微笑んだ。
「マンディ」
「はい」
「あなたも、ありがとう」
「いえ、師匠こそ――」
マンディが、涙を浮かべる。
「私たちに、すべてを教えてくださって」
「……」
「セラ」
「はい」
「あなたは、これから――」
「皇子として、王国を支えるのよ」
「……分かっています」
セラが、頷く。
「師匠の教えを、胸に」
「そして、ルーク」
「はい」
ルークが、前に出る。
「あなたは――」
私は、ルークを見つめた。
「優しい子ね」
「師匠……」
「これからも、その優しさを――」
「大切にして」
「……はい」
ルークが、涙を流す。
(まるで、別れの言葉みたい……)
私は、心の中で苦笑した。
(でも、本当に――)
(これが、最後かもしれない)
* * *
大聖堂の扉が、開いた。
そこには――
荘厳な光景が、広がっていた。
高い天井。
ステンドグラス。
そして――
中央の祭壇。
そこに、金色の玉座が置かれている。
「……」
私は、一歩、踏み出した。
すると――
音楽が、流れ始めた。
聖歌隊が、歌う。
美しい旋律。
だが――
どこか、不穏な感じがする。
(気のせい……?)
私は、ゆっくりと――
祭壇へ向かって、歩く。
信者たちが、一斉に跪く。
「「「聖女様……」」」
その声が、大聖堂に響く。
「……」
私は、無表情を保った。
(演技、演技……)
(これは、ただの儀式……)
祭壇に、着いた。
そこには――
新しい枢機卿が、立っていた。
前の枢機卿が逃亡したため――
新たに選ばれた人物。
「ようこそ、シルヴィア・ド・ノワール」
新枢機卿が、穏やかに微笑む。
「本日、あなたを――」
「聖女として、即位させます」
「……」
私は、頷いた。
「それでは――」
新枢機卿が、聖典を開く。
「儀式を、始めます」
* * *
儀式が、進められた。
聖典の朗読。
祈りの言葉。
そして――
香の煙が、立ち上る。
すべてが、完璧に段取りされている。
「シルヴィア・ド・ノワール」
新枢機卿が、私を見る。
「あなたは、ルミナス教の聖女として――」
「民を導く覚悟が、ありますか?」
「……はい」
私は、優雅に答えた。
「ルミナス様の御心のままに」
「よろしい」
新枢機卿が、頷く。
そして――
彼が、冠を手に取った。
金と宝石で飾られた、聖女の冠。
「この冠を授けることで――」
「あなたを、聖女と認めます」
新枢機卿が、私の頭に――
冠を、載せようとする。
その時――
私は、ふと――
祭壇の奥を見た。
そこには――
見覚えのある紋章が、刻まれていた。
(あれは……!)
邪神の紋章。
三ヶ月前に、破壊したはずの――
同じ紋章。
「!」
私は、固まった。
(まさか……)
だが――
もう、遅かった。
新枢機卿が――
冠を、私の頭に載せた。
その瞬間――
紋章が、光り始めた。
「……!」
私は、息を呑んだ。
(罠だった……!)
「師匠!」
ルークが、叫ぶ。
だが――
彼らは、結界に阻まれて――
動けない。
「くっ……!」
リザが、剣を抜くが――
結界は、破れない。
「何が、起きてるんだ!?」
マンディが、叫ぶ。
新枢機卿が――
ゆっくりと、笑った。
「ふふふ……」
その声は――
どこか、聞き覚えがあった。
「あなた……まさか……」
私が、呟いた時――
新枢機卿が、顔を変えた。
禿げ上がった頭。
狂気の笑み。
「枢機卿ツィチェン……!」
「正解だ」
枢機卿が、高笑いする。
「よくぞ、罠にかかってくれた」
「くっ……」
私は、冠を外そうとする。
だが――
外れない。
冠が、頭に吸い付いている。
「無駄だ」
枢機卿が、言う。
「その冠は、邪神復活の触媒」
「お前が被った瞬間――」
「儀式は、始まった」
「!」
私は、絶望した。
「そして――」
枢機卿が、祭壇を指差す。
「お前の高笑いが――」
「儀式を、完成させる」
「やめて……!」
私は、叫んだ。
「私は、笑わない……!」
「ふふふ……」
枢機卿が、笑う。
「お前は、笑う」
「なぜなら――」
彼が、何かを取り出した。
それは――
ルークたちの人形だった。
「これを見れば――」
枢機卿が、人形を握りしめる。
「お前の大切な弟子たちが――」
「苦しむのだ」
「!」
その瞬間――
ルークたちが、苦しみ始めた。
「ぐあああ!」
「師匠……!」
「やめて……!」
彼らの声が、聞こえる。
「やめて……!」
私は、叫んだ。
「彼らに、手を出さないで……!」
「ならば――」
枢機卿が、にやりと笑う。
「高笑いを、しろ」
「それで、儀式は完成する」
「そして――」
「弟子たちは、解放される」
「……」
私は、絶望した。
(どうすれば……)
(どうすれば……)
「師匠……!」
ルークが、苦しみながら――
叫ぶ。
「笑わないで……ください……!」
「僕たちは……大丈夫です……!」
「ルーク……」
だが――
彼らの苦しむ声が――
私の心を、えぐる。
「師匠……!」
リザも、叫ぶ。
「私たちのことは……気にしないで……!」
「リザ……」
「師匠……!」
マンディとセラも――
苦しんでいる。
「……」
私は、涙を流した。
(ごめん……)
(ごめんなさい……)
そして――
私は、決めた。
「分かったわ……」
「師匠!」
ルークが、叫ぶ。
「やめて……!」
だが――
私は、もう――
決めていた。
(彼らを、救うためなら……)
(私は、何でもする)
私は、深呼吸した。
腹式呼吸。
息を、深く吸う。
そして――
――第8章第2節、完。
聖女即位式。
完璧な段取り。
誰も、止められない。
師匠は、舞台に立った。
だが――
それは、罠だった。
新枢機卿は――
枢機卿ツィチェンだった。
変装していた。
冠を被せられた瞬間――
儀式が、始まった。
そして――
弟子たちが、人質に取られた。
「高笑いをしろ」
「さもなくば、弟子たちは苦しみ続ける」
師匠は――
決意した。
弟子たちを、救うために――
高笑いを、する。
次の瞬間――
世界が、変わる。
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